風化

 時間が経てば、嫌な思い出は忘れていく。

 時間が経てば、いい思い出も薄れていく。

 悲しいことも。

 辛いことも。

 だが、忘れるというのはいいことだ。

 いつまでも抱え続けなくていい。

 それが一時の営みと共に送ってやれるのなら、それに越したことはない。

 楽しい食事の折りに、なかったことになったら。

 そう思いながら今日も料理を拵える。

「料理長、今日も渋い顔してますね」

「また仕事の帰りにトイレットペーパー買うの忘れて、奥さんに怒られたんだって」

「え、それって」

「もちろん、下拵えの味見でやっちゃったやつ」

「あっちゃぁ……」

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