メモリー・レストラン

国見 紀行

記憶を食べるレストラン

 隣の市に、ちょっと有名なレストランがある。

 何でもそこで食事をすると「いらない記憶」が無くなるらしい。

 例えば心の傷を受けた記憶。

 例えば異性に振られた記憶。

 そういうのを料理の注文の際に申し付けると、食事をし終わると同時に頭から消えるという。

 過去の嫌な記憶を消すこともあれば、感動したゲームや映画を新鮮な気持ちでもう一度見たい、という客もいて、リピーターもそれなりだ。

「いらっしゃいませ」

 今日もリピーターがやってきた。

 毎日ではないが、週に四日は来るヘビーユーザーだ。

「本日も同じものを?」

 消したい記憶も、いつも同じ。

 無言で料理を平らげると、不思議な顔をして会計を済ます。

「次こそはちゃんと食事をして帰るよ」

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