番外編 距離 -12歳差のあなたと相容れないワタシと-

距離 第1話 日常

※この話は『12歳差のあなたと相容れないワタシと』の番外編となります(雪菜ゆきな視点)



同棲に慣れてしまうと、社会人にとって1年、2年はあっという間に過ぎて行く。


私が拘っていた聡子さとこさんと私の社会的地位の違いは、私が正社員になったことで12年後に追いつけばいいのだと、以前ほど気にすることはなくなった。


聡子さんは気にしないと言ってるのだから、私が気にしなければいいだけなんだけど、隣に立てなければ私は聡子さんと対等になれない気がしてしまうのだ。


それは聡子さんが私に固執してくれる理由が、分かってないからないのかも知れない。


ビアンバーで出会い、その日の内に体の関係を持った。肉欲優先のワンナイトで終わるはずだった関係なのに、私は聡子さんの体に夢中になった。自分の連絡先をそういう相手に渡したことなどなかったのに、聡子さんとは次を望んでしまった。


その目論見はあっさり聡子さんに切り捨てられてしまったけど、あの後もう一度会いたくて聡子さんと出会ったビアンバーに何度も足を運んだ。でも、そんな浅はかな下心で聡子さんに会えるはずもなく、一度は再会を諦めた。

通っていたフィットネスジムで見かけた時は、奇跡的に巡ってき偶然を次に繋げることで必死だった。


聡子さんを一言で現すのであれば、自立した女性だ。


口数は多い方ではないけど、冷静に物事を捕らえて論理的に解を見いだす人だ。


それなのに、時々突拍子もないことをする時がある。でも、そんな時の聡子さんは掛け値なしに可愛い。


レズビアンでも私は女性らしい女性がどちらかと言えば苦手で、自立した大人な関係を望む方だ。それなのに聡子さんが淋しさや嫉妬を感じさせる行動をすると、私に執着してくれているんだろうかと舞い上がってしまう。


聡子さんには私みたいな未熟な者じゃなくて、もっと包容力のある人が相応しいとは分かっているけど、私は聡子さんを手放せない。一度聡子さんから逃げ出したからこそ、どこまでも自分が聡子さんを求めてしまうかを知っている。


でも、聡子さんは私が聡子さんに抱いている想いを半分も分かっていないだろう。


だとしても、聡子さんは私を追ってきてくれた。耐えきれないから私の家に突撃したなんて、聡子さんらしくない行動までして、私を聡子さんに引き戻してくれた。


だから、私もちっぽけな私のプライドよりも、聡子さんと手を繋ぐことを優先しようと思えたのだ。





「聡子さん、今日は私は飲み会なので、夕食どうします?」


いつもの平日の朝、私は向かいでコーヒーを口にしている聡子さんに、今日の夜の予定を告げる。


「帰りに適当に何か買ってくるから気にしないで。雪菜は飲み過ぎないようにね」


「酔って潰れたことないですけど」


「知ってる。でも、何かあったらって心配になるから」


可愛いのはあなたです、と心の中で聡子さんに言い返す。自分はもてる年じゃないし、可愛げもないから心配なんてしなくていいと言うけど、ベッドの中で自分がどれだけ可愛いか自覚はないだろう。


「そう言うなら聡子さんが私より早くに家に帰ってきて、私を迎えてくれればいいんじゃないですか? 聡子さんが帰ってるなら、私も2次会に行こうなんて思いませんよ」


1次会が終わった後にそのまま家に帰ったとしても、聡子さんが帰宅しているかどうかの確率はせいぜい半々だろう。


「それは頑張ってみるけど……」


私も最近は残業をする日が増えたけど、聡子さんの場合はほぼ毎日だ。


聡子さん曰く、日中は打ち合わせばかりで自分の仕事をする時間がないらしい。中間管理職なので大変な立場だって知ってるけど、毎日残業して、週の内2、3日は走って、ジムも行って、私ともそれなりの頻度で肌を重ねているから、タフすぎてびっくりさせられることも多い。


だからって夜の誘いを減らせるかっていうとそうじゃないけど。


お風呂上がりの疲れが緩んでリラックスした聡子さんから醸し出される色気は、一緒に棲んでいるからこそ見せてくれるもので、そのままってパターンが多い。


「聡子さんは残業しすぎです。たまには体を休めることもしてくださいね」


「分かってる」


私の言葉に返事はあったものの、聡子さんが拗ねたことは態度で分かった。




飲み会中の私スマホに、家に着いたと聡子さんから連絡が入ったのは20時を過ぎた頃だった。


聡子さんにしては記録的な帰宅の早さで、今朝のやりとりがなければ体調が悪いのかと聞いてしまっていただろう。


聡子さんは言葉は素っ気ないのに、態度がいじらしいってことはよくある。


素直に言葉にするのはできないタイプだけど、丁寧に動きを観察すれば聡子さんのしたいことやして欲しいことは拾える。


こんなことをされたら早く帰るしかないだろうと、1次会の後、2次会の誘いは断って、私は聡子さんのマンションに真っ直ぐに向かう。家賃として聡子さんに渡している分はあるけど、聡子さんが購入してローンをしている部屋なので、やっぱり聡子さんのものだって認識がある。


一度そのことで聡子さんと口論して、共同名義にすればいいと聡子さんが言い始めたりしたけど、今はその熱も治まっている。うっかり、老後とか先のことをまだ真剣に考えられていないから、と言ってしまったせいで、また聡子さんの琴線に触れて大変だったけど。


12歳の年の差が気になるのって、日常の5%もない部分だろう。でも、引っかかると聡子さんも私も過剰反応してしまって傷口を広げてしまう。


年の近い相手を選べばそんな衝突はなくなるのは分かっているけど、そんな衝突をしたとしても私は聡子さんじゃないと駄目なのだ。


家に帰ると、聡子さんはちょうどお風呂から上がって来たところのようだった。ノーブラで無地のタンクトップ姿といつものお風呂上がりの姿だけど、首筋に吸い寄せられてしまう魅力がある。


でも、帰ってきたばかりだしと何とか理性で抑えて、帰宅の挨拶を出す。


「お帰りなさい」


私の考えなんか露程も知らず、聡子さんは首筋に抱きついて来る。


「聡子さん、私は酔っ払いですから」


「雪菜は酔わないんじゃないの?」


聡子さんの言葉にそれは誘ってるってことか、と私もスイッチが切り替わってしまう。


「襲われたいんですか?」


「朝、雪菜が誘ったんじゃない」


「早く帰ってきてゆっくりしてくださいって言いたかっただけですよ?」


「雪菜といることがゆっくりするってことなの」


音を上げても離してあげないと心の内で決意しながら、私は聡子さんの誘いに乗ることにして寝室に向かった。



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1話で終わらなかったので、思いがけず〜の方と平行で更新予定です

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