第4話 手のひらが伝えるもの(前編)

「恵美、今日はテレビでホームズの映画の再放送があるぞ」


「知ってる! 私も見るよ!」


「恵美はホームズに憧れたりする?」


「もちろん! ねぇねぇ涼介~、ホームズごっこ、してみる?」


恵美が急に立ち止まったので、俺も慌てて立ち止まる。

俺は振り返り、恵美と向かい合った。


「は? ホームズごっこって、何?」


「涼介、ちょっと手を出して」


俺は手を差し出す。

恵美は、俺の手を見ると、急に握ってきた。


「こ、こんなところで握手かよ。何なんだ?」


「……涼介、最近体育で鉄棒やっていたでしょ。

 それに、家庭科でお裁縫もしたんじゃない?」


むむむ……まったくその通りだ。

相変わらず恵美は鋭い。


恵美は急に視線をそらして手を放すと、どんどん先へと歩き始めた。

俺もついていく。


恵美は歩きながら推理を続けた。


「手のひらに豆ができていた。

 それでね、体育で鉄棒やっていたのかな~って思って。

 あとね、指先に小さい刺し傷があった。お裁縫で針が刺さったんじゃない?」


「握手するだけで、そこまで分かったのかよ!」


「ふふふ……ホームズはね、ワトスンと握手してすぐ、前歴を言い当てたのよ。だから、これがホームズごっこ。どう? 私って名探偵でしょ?」


「恵美って、そういうの好きだよな」


「うん。それでね、今、涼介と握手して分かったことが、もう一つあるんだ……」


「何?」


「それはね……明日この場所で教えてあげる!」


そう言うと、恵美は一人で走って帰ってしまった。


俺はその場に取り残された。


仕方ない……今日は一人で帰るとするか……

恵美と下校できないのは、なんだか寂しい。


俺は、さっきの恵美との握手のことを思い返していた。

恵美の手はとても温かかった。そして、柔らかかった。


恵美とは幼馴染で、幼い頃は二人で手をつないで遊んできたものだった。

しかし、この歳になって手をつなぐというのは、なんだかドキドキしてしまう。


俺の手、冷たくて嫌な感じとか与えていなかったかな?

そう考えると、なんだか不安になってきた。


家に帰った俺は、今日のことをもう一度考えてみた。


俺は恵美のことを、今まではただの幼馴染だと思ってきた。

けれど、今日、恵美に手を握られて、改めて思ったことがある。



俺は恵美のことが好きだ。



その思いを認めざるを得なかった。

明日、俺の思いを恵美に伝えよう。そう決心した。

あの名探偵恵美に告白するんだから、ちょっとした工夫が必要だろう。


俺は、告白の方法をいろいろと考えてみた。


前から薄々感じていたことなんだが、実は恵美も、俺のことが好きなんじゃないのかな。


多分……いや、絶対にそうだ。


恵美は俺の行動パターンを把握しているし、髪型や服装の乱れもすぐ気が付く。

それって、俺に興味があるから、だよな。


それともう一つ、前から気になっていたことがある。

学校が違うのに、ほとんど毎日、帰る時間が一緒になるということ。

恵美は、俺の帰宅時間の変動もすべて把握し、毎日、俺に会えるように時間を調整して下校しているのではないか?

……いや、それって自惚れが過ぎるのかな?


でも、名探偵恵美なら、やろうと思えばできるはず。


よし、イメージが湧いてきたぞ。

明日、名探偵恵美への告白はこんな感じでいこう。

俺は脳内で予行練習をしてみた。


俺は明日、恵美の真似をして指を振りながら、恵美にさっき考えた俺の推理を話し、

「恵美は俺のことが好きなんだろう」って言い当てる。

いつもは、俺が推理されている側だが、明日は俺が恵美の心を推理して当てるのだ!

そして、「俺も恵美が好きだ」と告白する。

よし! こういう流れでいこう!


俺は興奮してきた。

だが、こんなにうまくいくだろうか?

何か見落としていることはないだろうか?

不安は消えない。


俺は、眠れない夜を悶々と過ごし、眠たい朝を迎えた。

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