幼馴染は名探偵

神楽堂

第1話 幼馴染は名探偵

俺の名は涼介りょうすけ

公立の学校に通っている、ごく普通の男子生徒だ。


俺には幼稚園時代からの幼馴染おさななじみがいる。

恵美えみだ。


ルックスで言えば、世間一般的にはかわいい子ということになるらしい。

というのも、恵美の写真をクラスの男友達に見せたら、うらやましいだの、紹介しろよだの、そんな風に言われることが多いからだ。


だが、彼女の性格を知り尽くしている俺に言わせれば、まあ、写真で見るだけにしておけ、と思ってしまう。


恵美は推理小説を読んだり、探偵が出てくる映画を観たりするのが好きな、いわゆるミステリーファンというやつだ。

それだけなら何も問題ないのだが、恵美は私生活でもすっかり「名探偵」になりきっているのだ。

何でもかんでも推理、推理、推理……


俺はどちらかというと、アクション映画とかの方が好きなんだけどな。


昨日まで降り続いた雨は今朝になって止み、俺は学校からの帰途についていた。


交差点の向こうから、幼馴染の恵美がやってくる。

恵美は私立の制服を着ていて、それがよく似合っている。

俺は公立に通っているので、恵美とは学校が違うのだ。

にも関わらず、下校時間にこうして恵美と出会うのは、恵美の家が俺の向かいにあるからなのだ。



「涼介! 塾はサボり? だめですね」


出会い頭のセリフがいきなりこれだよ……

恵美は続ける。


「あれ? なんでサボったことバレてる? って顔しているね」


俺は顔に出やすいタイプだ。

恵美はニヤニヤしながら指摘してくる。


「いつもはあっちの道から出てくるはずなのに、今日はこっちから来た。

 塾はこっちの道じゃないよね~」


俺の行動パターンが読まれている。

恵美は人差し指を出して、顔の前で立てた。


「何をしていたか、当ててあげる!」


「いいよ……余計なお世話だよ……」


俺の言葉を聞き流して、恵美は勝手に推理を始めた。


「涼介……あなたは塾をサボって……本屋さんに行ってましたね」


ズバリと当ててくるから恵美は恐い。


「な、なんでそう思うんだよ?」


「ふふふ……」


恵美は立てた人差し指を左右に振る。

推理するときのお決まりのポーズだ。

そして、その人差し指を俺の足元へと向けた。


「その泥だらけの靴。ぬかるんだ道を歩いてきたでしょ」


確かに、俺の靴には泥が付いている。


「昨日まで雨、降ってたし……」


「今朝は止んでいたよ。それにほら、この辺りはほとんど乾いている。

 それなのにその靴の泥、さっきついたばかりって感じ。

 この辺りで水はけが悪い道は、あの本屋さんの前の通り」


靴を見て、どこを歩いていたかまで分かってしまうのか。


「しょ、証拠はあるのかよ?」


それを聞いて、恵美は吹き出した。


「何それ! 開き直った犯人みたいなセリフ。

 でもいいよ、証拠、見せてあげる」


恵美は近づいて、俺の体を触った。


「え? 何すんだよ」


「証拠よ」


恵美は俺の服についていた何かを、指でつまんで見せた。


「はい、猫の毛。

 この毛色はあの本屋さんにいるシロちゃんの毛。

 涼介、お店のご主人と仲良しだから、雑談ついでに猫を抱っこさせてもらったんでしょ」


ここまで読まれてしまうと正直、怖いとすら思ってしまう。



そんなある日、名探偵(?)恵美に、事件の解決を依頼する出来事が起きた。

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