第43話 新魔剣

 全ての準備が整った。それは私達がシンさんの研究所にやってきて、2ヶ月半経った頃だった。


「ツガさんとマモリちゃんとは、トナリノ国とクォ国との国境の街で待ち合わせることになった。そこまでは俺の機獣で送ろう」


 クォ国。次の国。ここまで来るともう、人界でも随分と奥まで来たことになる。中央まではまだまだ先だけど、復讐の目的地イクサに行くにはクォ国を通らないといけない。






■■■






「機獣、って言うのか」

「ああ。ヴァイトさんは気絶してたからな。機械の獣だ。車の車輪じゃ走行できない道を進む乗り物。……中央の技術は進みすぎていてな。あっちじゃ当たり前のように整備されている舗装道路は、この辺りじゃ街の中くらいしか無いだろ。城塞都市まで馬車で来たらしいが、酔うほど揺れた筈だ」

「……言われてみれば。俺は馬車くらいしか乗ったことがねえから気にもしなかったが、確かに全く揺れねえな。機獣」


 四足歩行の車で、山を降りる。シンさんだって犯罪者だから、街には行かない。山を降りて、そのまま平原を進む。


「デカいし目立つんじゃねえの?」

「カラクリを言うと、トナリノはライツの属国だ。機獣を見るとライツの役人だと思われてスルーされる。そしてライツの人間はここまで俺を追ってこない。それに、トナリノも広くてな。街を避ければ人とは会わない。安心してくれよ」

「……なるほどな。ま、どうせ馬車もねえんだ。助かるぜ」


 全員が、機獣に乗っている。運転席には当然シンさん。隣の助手席に、メイヨちゃん。シンさんの後ろにヴァイトと、隣に私。後は広い後部座席に皆が。


「じゃあ、そのクォ国からは徒歩ってこと?」


 トミちゃんが訊ねた。


「まあしゃあねえだろ。そもそもイクサからシーハまで俺は魔界通りながらの徒歩だったぜ」

「……皆が皆、ヴァイトと同じ速度で歩けないのが問題、か」

「あー……」


 そう。最初から。ヴァイトひとりなら、何も気にせずひとりで走れる。とっくの昔にイクサまで着いている筈。


「はっ。まあ道中楽しむぜ。なあミツキ」

「…………」


 復讐の旅。

 だけどどこか。さわやかな感じがするのはなんでだろう。






■■■






「ヴァイトさん!」

「おっ」


 10日ほど、機獣に揺られて。

 国境にほど近い小さな町。人は居なくて、壊れかけた建物だけのゴーストタウン。戦争の爪痕だって、シンさんが説明してた。今はもう誰も近寄らないから、隠れ家として使えると。

 そこにはあの、ツガさんのゴリラみたいな機獣が停まっていて。

 そこから勢いよく出てきたマモリさんが、ヴァイトに突撃した。


「あぁ〜ヴァイトさんだ。2ヶ月振りのヴァイトさん〜」

「なんだそりゃ。そりゃ、ミツキもユクも皆2ヶ月振りだろ」

「それとこれとは違うんです〜」


 抱きつかれ、胸に頬を擦り付けるマモリさん。抵抗しないヴァイト。

 私達は何を見せられているのか。


「マモリ! 調整まだ残ってんだろォが!」

「はーいもううるさい師匠! やりますってばー!」


 ゴリラから、ツガさんの声がした。マモリさんはべっと舌を出してから、仕方なさそうに戻っていった。


「……あいつもあいつで色々あったっぽいな」

「ね。でも元気そうで良かった」

「おい! 魔人も来い! 俺達じゃ試し斬りできねェからよ!」

「おっ」


 ツガさんも、声が大きいね。ヴァイトと同じくらい。






■■■






「おお……。形、結構変わってんな」


 皆で、見守る。マモリさんがゴリラから取ってきた魔剣。広場にあった大きな木製のテーブルに、それは置かれた。

 【マカイロド】の素材が使われた魔剣。以前の、壊れる前のものより、スマートに見えた。とは言っても、肉厚の両手剣であることは変わらなそうだけど。

 以前みたいに、牙や鱗を雑多に繋げたようなものじゃなくて。きちんと整理されている。黒い刀身は、鉄製かな。鍔や柄に、【マカイロド】の鱗と牙が使われている。

 剣の隣には、巨大な鞘があった。そう言えば、無かったよね。


「刃は鉄なのか?」

「いや、違ェ。お前さんの使い方によって、柄の素材が反応して、切れ味が増す仕組みになってる。その素材は別の魔獣からだ。【コプリオン】ってェ魔獣の歯を使ってる。鋼はその補助だ。握ってみろ。異能使って振るなよ」

「ああ」


 私と変わらない大きさの剣を、治ったばかりの右手でひょいと持ち上げたヴァイト。

 空に翳して、表から裏までまじまじと観察する。


「重くなったな」

「注文通り、『破壊力』だけを追求した。【マカイロド】の、あの残りの素材だけじゃバランスが取れなくてな。他の魔獣の素材とは噛み合わせも悪かったんだが、【コプリオン】とは噛み合って良かったぜ」

「なるほど。……振ってみてえな。『異能解放リベレイション』して良いか」

「駄目だ馬鹿野郎。今度こそ呪いで死ぬぞ」

「……ふむ」


 ツガさんの忠告を、無視して。


「ちょ……っ」


 ヴァイトは誰も居ない方向を向いて、その魔剣を振り抜いた。


「うおっ」

「きゃっ!」


 暴風が突然、爆発したようにやってきて。

 廃墟……家を数件、吹き飛ばした。ユクちゃんは転けちゃって、メイヨちゃんも吹き飛んだ。全員が、驚愕で固まった。


「…………はっは。強えな。力加減、覚えねえと」

「馬鹿野郎てめェ! いきなり何しやがんだ!」

「安心しろ。異能は使ってねえよ。この程度じゃ呪いは来ねえ。次の戦闘までに、使いこなす必要があるだろ」

「なに言ってやがんでェ……」


 ヴァイトは笑いながら、鞘も手に取って、新しい魔剣を収めた。


「……名前、あるんですよ。ヴァイトさん」

「へえ?」


 マモリさんが革のベルトを持ってきて、魔剣を収めた鞘と繋げる。ヴァイトは襷掛けでそれを装備した。


「魔剣【ベルゼビュート】。古代宗教の悪魔の名前です。意味は、『暴食』」

「…………良いね。気に入った」

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