第24話 役割

 方向としては、南西。人界の中心へ向かう。と言っても、人界は別に円形って訳じゃ無いけれど。


「まずは、『トナリノ』って国だな。そこから色々経由して、魔人の旦那が雇われてたっていう小国『イクサ』へ向かう。だろ?」


 私達は午前中の内に、ゼイ伯爵領を後にした。街の人達や警察官に迷惑になるから。私達が去った後、中央に通報することも私達は了承している。一応体裁として、『魔人ヴァイト』は大犯罪者だから。街として然るべき対応はしないといけない。


 今は山越えの途中で、お昼休み。ヴァイトが木を伐り倒した即席のテーブルに、ゲルドが地図を広げた。

 世界地図じゃない。人界地図。魔界の広さはまだ分かってないから。


「そもそも、その『トナリノ』まで遠くねえか? こう、真っ直ぐ行けねえモンか」

「無理だ。道が整備されてねえ。馬が通れないんだよ。この旅はこの馬車が命だ。こんだけ大所帯になればな」

「ふむ。しかし、ツキミは色んなトコ、マジでたらい回しにされたんだな」

「最終目的地は『イクサ』だが、それまでも復讐するんだろ? ゼイ伯爵領の娼館から売られた時も、あのオークションが使われた。次に向かうのは、『トナリノ』の手前の街。城塞都市だ」


 ゲルドがもう、めっちゃ協力的になってる。やっぱりメイヨちゃんの睨んだ通り、心境の変化はあったのかもしれない。


「そこへはどれくらいだ?」

「大体、1ヶ月だな。国を横断するんだ。しかも首都を避けて迂回するルートを取る」

「なぜだ?」

「……あんたの、男爵領と伯爵領での所業はもう確実に首都まで届いてる。国を挙げて捜索されてもおかしくない。なるべく目立たず、目的地まで行きたい。俺はそう思うぜ」

「ふむ……。今なら魔獣肉の保存がある。先に首都を襲ってこの国を滅ぼしてからの方が楽だったりしねえか?」

「………………」


 バカみたいな提案。これを本気で言ってるから、ああヴァイトだなあって感じ。ゲルドも溜息を吐いた。


「戦闘時は良いかもしれんが、寝る暇なかったらアンタだって死ぬだろ」

「あー……。確かに。俺が死ぬまで永遠に兵を投入されるのか。それは流石に無理だ。よし首都は迂回しよう」

「素直」


 ヴァイトはバカだけど、それを自覚してる。分からないところはすぐに質問して、答えについて考えて、納得する。

 この、純粋な少年のような素直さは、ちょっと可愛いとか思ったりして。


「ごちそうさま。たまには自然の食材も良いわね」

「うん。マモリお姉ちゃんの料理すっごい美味しかった!」

「それは良かった。この旅に付いてきて、アタシの役割があるみたいで嬉しいわ」


 今日の昼食は、またしても一角馬ユニコーン。この辺りでは割と獲れる野生動物だ。下処理も調理も味付けも盛り付けも、タキちゃんとマモリさんがささっとやってくれた。


「役割? あたしないや。どうしようヴァイトお兄ちゃん」

「あん? 子供の役割は元気に育つことだろ。よく食って、よく遊んで、よく学んで、よく寝ろ」

「はーい。ねえタキちゃん、今度あたしにも色々教えて? 動物のこと、狩りのこと」

「わたしも子供なんだけど。わたしはあの、キカイ? が気になるなあ。ゼイ伯爵の屋敷に色々あったやつ」


 なんというか。

 呑気だ。穏やかに時間が流れてる。空気が気持ち良い。


「魔獣肉、食べなくて良いんですか?」

「まあな。魔剣使って暴れた時は食うぜ。人界じゃ貴重だから、節約しねえとな。またコイツを使えるだけ、ゼイの野郎に感謝だな」

「…………」


 トミちゃんメイヨちゃんは、タキちゃんの狩猟講座。ユクちゃんはまたゲルドに食べさせて貰ってる。


 なんか、私ハミ出した。


「…………」


 手持ち無沙汰になった牙人族は、きっと皆こうする。

 適当にその辺の石とか葉っぱとかを、食べる。


「えっ。何してるの?」

「んぐ」


 それをマモリさん――他の種族に見られて、引かれる。ここまでがワンセット。


「……食後のデザート、かな?」


 答える私も疑問形。


「よっしゃ。そろそろ俺も再チャレンジするか」

「はっ?」


 首を傾げるマモリさんを他所に、私を真似てヴァイトも小石を拾った。


「いや、ヴァイト。この前無理だったじゃん」

「石を食う魔獣だって居るんだぜ? 呪いが進行して魔獣食を続けた俺なら、いけるかも知れねえだろ。この前より」

「バーカ」


 ガギン!

 思い切り噛み付いて、変な音が鳴った。


「ぐえええっ。痛えっ! マッズ! くっそ、まだ無理かよ……!」

「あはははは」


 ぺっと吐き出す。あれで歯は欠けてないのかな。石食チャレンジ、2度目の失敗。


「ていうか一生無理でしょ。どうあがいてもヴァイトは殺人族なんだから」

「いや諦めねえ。ゼイだって角折ってまで殺人族の振りをしたんだ。俺だって石くらい食ってやらあ」

「ね? マモリさん。この人バカなんです」

「…………確かにまあ、びっくりした。牙人族が石も食べられることと、それに挑戦する殺人族にも」


 ヴァイト。趣味:石食チャレンジ。

 なんて意味不明なプロフィール。


「……ヴァイトさんて、このままハーレムを作るつもりなんですか?」

「は? 違えけど」


 唐突に、マモリさんがぶっ込んだ。以前のゲルドのように。


「でも女の子ばっかり」

「俺は『女だから』助けてるんじゃねえ。ツキミに酷いことした奴らは基本的に女を虐げてて、そいつを殺したら路頭に迷う子供が居ただけだ。そういう行動をしてると、確かに女ばっか助けることになる。ただの結果だ」

「……女が弱い、から?」

「何言ってんだ。その『ツキミ』が死後も俺を操って復讐させてんだぞ。惚れた奴が弱えんだよ」

「ふうん。面白い考えですね。じゃあ、ヴァイトさん」

「ん?」


 このマモリさん。大人の女の人。

 私はもっと、警戒すべきだったのかもしれない。


「この旅で性欲の処理って、どうしてるんですか?」

「!?」


 役割、とか言い出すから。

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