@minoru1925

事件簿1 スマートフォンの電源がおかしい

 トシアキは、福岡県立病院で行っていた治療の効果がみられなかったため、箱崎のマンションに帰宅した。彼は、悩みの種を抱えていた。勃起していないにもかかわらず、陰茎が、自分の膝のあたりまで伸び、30センチメートルを超えるほどに巨大化したからである。私の目から見て、いつもXLの丈の長いダウンジャケットだったトシアキの様子からその症状を確認することは出来なかったため、いかにも健康そのもののようにみえたいたが、彼の悩みは深かったようだ。トシアキのこの症状は、生物医療の治療や、主治医から指示された処方箋付きで購入した薬剤では改善しなかったという。病院に来院するする前に、トシアキは、自分の街でも漢方の知識に頼って、随分と奇妙な治療に専念したという。思いあまった彼は、福岡県立病院で、泌尿器科などまわって、医者に、自分の陰茎の縮小手術を希望したらしいが、その治療も不可能だと断られたという。こうして、途方に暮れて、色々な手段を試そうと、箱崎天満宮の知られざる治療師のもとにやってきた。

トシアキによると、次のような経緯で、陰茎が肥大したのだろうという。

ある日の夕方、トシアキの部屋を公美子という若い女性が、スマートフォンの電源がつかないと言って訪問してきたという。トシアキは、日頃、障害者年金で暮らす盲目の夫をもつ若い公美子に哀れみを感じていたので、スマートフォンをいじくって電源がついたので帰してあげたという。公美子は、その後ふたたび20時頃に、トシアキに修理してもらったスマートフォンの電源を入れてもやはりうまく起動しないと言って再度訪問してきた。

公美子は、下着も着けないままのタンクトップ姿で、胸元も半分はだけたままやってきた。ではスマートフォンをなおしてあげようと言って公美子を自分の部屋に招き入れたトシアキは、あられもないその半裸姿に魅惑され、とうとう床を一緒にしてしまった。

こうして関係を結んでしまったあと、彼女は、二日に一度、トシアキの部屋に足繁く通うようになり、夜の関係を持ち続けたが、とうとう盲目の夫三郎に知られるようになった。盲目の夫は、自分の妻の不貞を知って、彼の親友を送って、妻との不倫をやめるようにとトシアキに忠告した。そして、「妻との関わりやめないならば、いまに見ておけよ」、と伝えたという。

盲目の夫三郎から注意を受け、うろたえ恐ろしくなったかったトシアキは、数日間、公美子との情事を中断していた。それでも公美子が魅惑的な姿で何度も通ってくると誘惑に負けてしまいさらに情事にはまり込んでいったという。これを知り尽くしていた盲目の夫三郎は、友人をやって、その後、トシアキに何度も警告したという。最初の妻を15年前に病気で失っていた盲目の夫は、貧しい生活を送っていて、頼りにしていた再婚の妻公美子を寝取られたとあって、トシアキは三郎から激しい恨みを買っていたようだ。少なくとも、トシアキはそう感じていたという。

そんな関係が続いていたある日、トシアキは、奇妙な夢を見た。その夜、彼は、夢の中で、何ものかに追いかけれたという。彼は、夢の中で逃げ回っていたのではっきりと見えなかったらしいが、黒い犬のような動物が、どこまでも追いかけてきて、しまいには追いついてかみついたので悲鳴を上げたという。彼は起き上がると、汗びっしょりになっていた。

その後、トシアキは、公美子と寝たある日、下腹部にむず痒さを感じて、よく目をこらしてみると、陰茎から小さなミミズが数匹出てきたそうだ。彼が、このミミズを捕まえようと指でそっとつかもうとすると、スッと陰茎の中に引っ込んでしまったという。いよいよ、盲目の夫の言葉が怖くなった。さらには夢の中の犬のような動物に噛みつかれた恐怖も手伝って、もう自分の部屋に来ないでくれと、公美子に言い渡した。すると公美子は逆上して言った。別れるぐらいなら、那珂川の川べりに彼女を連れて行って銃で撃って殺してやるとトシアキが脅してくる!!と、三郎に嘘を並べ立てるわよ、と凄んだという。トシアキによると、事実は全く逆で、別れたいのは、彼の方なのに、あたかも銃を突きつけて別れないでくれと、トシアキが公美子に取りすがっているかのように、三郎に報告するというのだ。トシアキは、この狂言じみた公美子の豹変に恐怖を感じ、どうしていいのか分からなくなったという。だいたい、銃なんか手に入らないというのに。

この陰茎ミミズ事件が起こった翌日、盲目の三郎は、自分の実の兄弟を送ってきて、事が大きくなる前にもう少し考えろよとトシアキに警告を与えてきたそうだ。そのときすでに、三郎は、トシアキの陰茎にミミズが這っていることをよく承知していたという。すぐに、トシアキは、三郎に虫の呪いの罠をかけられた公美子を探しだし、三郎の注意についても伝えたというが、時既に遅しだった。

当時、トシアキは、結婚したばかりであって、自分の妻がいた。陰茎ミミズ事件後のそんなある日、トシアキは、自分の妻加代と夜を共にしようと寝床で彼女に触れると、足下からうなじまで火がでるような激しい痛みが彼の全身を貫いたという。トシアキは、妻を部屋から出て行ってもらって、自分の陰茎を見てみると、膝下までそれは伸びていたという。履いていた半ズボンから陰茎が飛び出していて、恥ずかしさで外を出歩くことも出来なくなったため、全身を覆う貫頭衣を着るはめになったという。結婚したばかりというのに、勃起もしていないのにとてつもなく大きく膨らんだ陰茎に驚いたトシアキの新妻加代は、彼と寝ることを断り泣いて離婚を申し出たそうだ。しまいには、妻は何も言い残さずに、突然逃げて出て行ってしまい、実家の遠賀の街に帰ってしまい、いまだに帰ってこないという。トシアキも、恥ずかしさのあまり、この別れの理由については誰にも言わずにいる。

こうしてトシアキは、自分の弟に帯同されて、箱崎の天満軍にやってきたのだった。妻の加代にも逃げられたトシアキは、どの地域のどの治療師を巡っても、生物医療にもとづく治療や処方箋付き薬剤に頼ってもいまだにこの症状が治まる気配がないという。

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