第16話 卒業式と社交の花たち

ーー 卒業式と就職面接



黄の休みを目前に学園の卒業式が行われる。


当然寮長を任されていたミカエル先輩も卒業だ。

「ミカエル先輩。卒業後の行く先は決まっているんですか?」

と聞くとクロエ男爵家の三男に良い勤め先は当然ない。

「こたにくいことを平気で聞くな。エストニア子爵様が雇っていただけるなら、粉骨砕身頑張りますよ。」

と言うと

「はい、採用です。」

と一枚の書類を差し出して去っていった。

その書類には、エストニア子爵領家臣として騎士爵に命ずる。

と言う意味のことが書かれていた。

「本当に・・家臣に、それも騎士爵に。」

それを聞いてた他の卒業生が、我こそとばかりに就職を希望してきた。


騎士爵と言う貴族位は、男爵家以上であれば任命できる貴族位であるがその年金は任命者が負担することになる。

お金が有り余るエストニア子爵なら幾らでも騎士爵の貴族位を授けることが可能なのだ。

皆が押しかけるのも頷ける話だ。


その後面接をして20人ほど召し抱えたエストニア子爵は、領地の管理や新たな産業を託したのだった。


領地の開拓の話はまた次の機会にお話ししましょう。



ーー 黄の休日。


メアリースクイブ王女の入学式。



「ルシリーア様、今年の新入生は特に目立つ人はいませんわね。」

と仲良しのセガール公爵家の一人娘に話しかける、メアリースクイブ王女。

「そうですわね。昨年のエストニア子爵様のような殿方がいらっしゃれば面白いのにね。」

と呟くルシリーア嬢。


退屈な式を終えると女王は、

「明日、ケンドール公爵家のお屋敷にお母様とお茶会に誘われているのですが、ルシリーア様も行きませんか?」

と声をかける、悩むルシリーア嬢。

お呼ばれもしていないお屋敷にお邪魔するのははばかれるのである。

「大丈夫ですわ、私も直接はお呼ばれされていません。エストニア子爵様に直接お話をしたのです、その際お友達を連れていってもいいかとお聞きしております。」

と言われては断ることもできず、

「分かりましたわ。」

と返事をしていた。


自宅に帰り、家に居たお母様に

「お母様、メアリースクイブ女王に誘われて・・エストニア子爵様の屋敷に誘われたのですが。伺っても良いものでしょうか?」

と不安がる娘に公爵夫人は

「問題ないわ。ちょうど私もお呼ばれされているのよ。一緒にいきましょう。」

と言われほっとするルシリーア嬢。



その様子を見ていたカルメン公爵夫人は、

「我が国の4公(候)の夫婦は皆、学園で同じ頃に在学していた者ばかり。

仲も悪くはなかったけど、どうしても・・比べてしまうのよね。」

と呟いた。



           ◇


次の日。


馬車でケンドール公爵家に向かう王妃と王女。


お茶会には、4公(候)が呼ばれていた。他には騎士団長のセルグナ伯爵など重鎮ばかり。

それぞれの子供も来ていた。

「エストニア子爵様初めまして、セガール公爵の娘ルシリーアです。良き出会いに感謝を。」

と挨拶を済ませた、ルシリーア嬢が次に挨拶をしたのがクロニアル君だった。


「クロニアル様初めまして、セガール公爵の娘ルシリーアです。良き出会いに感謝を。」

「こちらこそ宜しく。ルシリーア様は今度入学だったよね。」

とクロニアル君は上手に話を振りながら会話を続ける。

「王女様のご学友とお聞きしましたが、ルシリーア様は魔法がお得意とお聞きしました。お二人でお勉強をされているのですか?」

と小耳にした情報を混ぜると

「流石クロニアル様、情報通ですね。でも私の魔法はまだまだですのよ。」

と軽く流されて話が終わる。


そこにメアリースクイブ女王が現れる。

「私の親友に言い寄られているのは、クロニアル様ではないですか。お好みは守ってあげたい感のある女性ですか?」

と少し黒い。

「これはメアリースクイブ王女、話し相手が姿を見せないので寂しそうなレディーに話しかけるのは、紳士の嗜みですよ。」

と返すクロニアル君。


メアリースクイブ王女は一旦その場を離れると、ルシリーア嬢と両手に飲み物とデザートを持って戻ってきた。

「少々はしたないですけど、ご一緒にお茶にいたしましょ。」

と声をかけてきた。

4人でデザートのラズベリーのタルトケーキにスプーンをつけると、

「この見た目が宝石のようなデザートが、鮮烈な甘味と酸味をもたらす一口を私にもたらす。これがとても素敵なんですよ。これを考えられたのは、エストニア子爵様なのでしょう。素晴らしいわ。」

とメアリースクイブ女王の食レポに僕は本日初出しのショートケーキを収納から取り出し、テーブルに並べた。


「これは・・デザートの宝石箱ですか?」

と驚嘆の女王。僕が出したのは、長方形にカットされた各種ショートケーキをモザイク模様のように並べたものだったのです。

「こんな美しいデザートは見たことがありませんわ。」

ルシリーア嬢も興奮しながら、女王と争うように食べ始めた。


何処の世でも女性は甘いものから逃げることはできないのですね。



           ◇


王妃は、このパーティーでどこまで自分の立ち位置を決められるかが女性の社交の勝負と考えていた。

息子や娘を死の淵から引き上げてくれたとはいえ、王妃として社交の主導権を簡単には渡せないと思っていたからだ。


「王妃様、よくいらしてくださりました。王女様も美しくなられたようで、羨ましいわ。私もサンドール侯爵夫人も息子しかいないので、一緒にお買い物もままならなくて。」

とケンドール公爵夫人が話しかける。

「これはケンドール公爵夫人、今日の日を楽しみにしておりましたのよ。あなたのパーティーでは初めてでかつ素敵なものがお披露目されるから。今日はどんなもので私達を驚かせるのか楽しみだわ。」

この言葉は半分本当で半分は、もうネタ切れでしょ。と言う意味があった。


すると微笑みを湛えたままケンドール公爵夫人は

「それでは今日の目玉を幾つかお披露目しましょう。」

と言うと合図を出した。


会場に音楽が流れ出す、初めて耳にする素敵なメロディーの曲。

そして照明が落ちる、スポットライトがある扉を照らす。

扉が開かれると、そこから次々に新たな料理が・・最後の現れたのは。

人の背丈ほどの塔のようなケーキ。

明るが戻ると光るような美しい器に乗せられた料理の数々と、圧倒的な存在のケーキ。

そして夫人は

「今日は王妃様以下この国の社交の花が集っています、そして私はその花たちに一つの奇跡を届けようと思っております。」

と言うとポシェットから木箱を取り出し蓋を開けると、美しいガラスの小瓶が並んでいます。

「これは息子エストニアが、ドラゴンを討伐して手に入れた素材から作り上げた若返りの薬です。時間を停止する魔法がなければ劣化してしまう、貴重で希少な薬です。私は今宵ここに集いし社交の花たちにこの秘薬を差し上げたいと思っております。私が毒味を兼ねてまず頂きます。」

と言いながら一つを取り出し、飲み干した。


すると淡く身体が光に包まれ、光が収まるとそこには。

「まあー。本当に若返っていますわ。」

1人の貴婦人が思わずそう漏らした。

するとサンドール侯爵夫人も小瓶を一つ取り出すと、躊躇なく飲み干した。

夫人も同じように淡く光に包まれると、10歳は若返ったのが分かった。

「私達、女学生に戻った感じですわね。」

とサンドール侯爵夫人が呟くと、

「私にも下さらない。」

と次々に貴婦人が集まり秘薬を飲み始めた。

すると誰1人失敗することなく若返ったのです。

ケンドール公爵夫人は小瓶を一つ手に取り、王妃に差し出す。

王妃は悩んでいた、若返りに秘薬は喉から手が出るほど欲しいが。

これを手にすれば私は、公爵夫人から逃げられない。


呼吸一つ二つの間の後、王妃は秘薬を飲み干していた。

「お母様、何と言うことでしょ。お母様がお姉様のような若々しさを。」

王女の言葉に王妃は、後悔してはいなかった。


この時、セガール王国の社交はケンドール公爵夫人が牛耳ったのだった。






ーー エストニアの工房にて。


「エスト、お母様のお願いを聞いて欲しいのです。」

とお母様が僕に珍しくおねだりをしてきた。

「お母様の為なら幾らでもお手伝いいたしますよ。何を作ればいいのでしょうか?」

と尋ねると。

「今度我が家で王妃様以下主だった貴婦人を呼んでのパーティーを開く予定なの。そこで目玉の、そうどこでも真似のできないようなものが欲しいの。」

と言うので僕はちょうどいいものを作っていたことを思い出した。

「お母様、ちょうど良いものがあります。エリクサーを作った際にもう一種類作ったんですが。」

と収納から小瓶を取り出して見せた。

「これはドラゴンの血液と魔力を鱗の粉で混ぜ合わせた物で、若返りの秘薬です。予想ですがその人の一番美しい頃まで若返ると思います。」

と説明した。

するとお母様は、

「よく出来ましたね。今日ほどエストを息子に持って良かったと思ったことはありません。ただ若返りすぎるのはダメです。もう少しそう10歳くらい若返るように調整できますか?」

と言うので「簡単です」と答えてお母様の言う数を揃えた。


料理屋音楽は僕の記憶の中から今現在再現可能なものを10品ほど用意することで話は決まりました。



ーー クレア=サンドール公爵夫人



ケイトから手紙が届いた、ケンドール公爵家で開催されるパーティーの招待状と別に特別な手紙が。

とうとうやる気なのね。あの子この国の社交をものにすると言っていたけど・・出来たのかしら特別のものが。

と思いながら手紙を読むと信じられない話が。

「本当に若返りの秘薬ができたの?それなら誰も勝てはしないわ。私も飲んで若返らなくちゃ。うふふ。」


その日からテンションの高い私に夫が

「楽しそうだが何か良いことがあったのか?」

と聞いてきた

「もう直ぐあるのよ。あなたも驚くと思うわ。」

と返しておいた。



ーー メアリースクイブ王女



このパーティーでは何かがあると私は感じていた。

そして幾つものの奇跡の後に本当の奇跡が訪れた。

「若返りの秘薬・・どういう意味?」

と思っていたら公爵夫人があっという間に若返り、そして侯爵夫人がそして他の貴婦人らが・・最後の王妃であるお母様が!

私思わず

「お母様がお姉様のような若々しさに。」

と口にしていたのです。

そしてお母様の全てを納得したような笑顔が。


私もあの恐ろしい社交に乗り出さなければならないのですね。

その時私は腹を決めたの。あの人に想いをきっと遂げてみせると。


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