第12話 伝説の秘薬

ーー 学園生活5


押しかけ王子を連れてのレベルアップとドラゴン退治は無事終了し、僕は平穏な学園生活へと戻った。

僕個人としては自学習の続く授業に思わないこともないが、気ままな学生生活というのもいいじゃないか。

『何か忘れている気がするが・・まあいいか。』と思い直して、研究棟に向かう。


「あら、エストニア子爵様何か御用ですか?」

研究棟の先輩たちが興味深そうに僕に声をかける。

「暇なのでちょっと研究をと思って」

と答えると

「ささ、こちらでどうぞ。」

と席と机を開けてもらった「ありがとう」とお礼を言いながら、席に着き以前考えたアイデア帳を開く。


難病に効く薬を作ろうと思っているのだ。

「異常耐性」「超回復」「豊潤な魔力」「高い治癒能力」

を備えた素材を手に入れた僕は、製作可能と考えていたのだ。


ドラゴンの肉と血液を少量取り出し乳鉢に入れて、さらに僕の治癒魔力を込めながら混ぜていると。

突然光り輝いて錠剤が姿を現した、その数10個。

高い鑑定能力を持つ学園長に鑑定してもらうと


「これは、固形のエリクサーだね。どうやって作ったんだい?」

と聞かれ素材と方法を伝えると

「素材から難しいね、しかも新鮮な素材でないとできない様だ。」

と呆れられた。

学園長に一粒差し上げて、自宅屋敷に戻り小さなミスリル製のロケットを作る。

中に薬を一つ入れたものを5つ作って収納する。


パーティーから帰ってきたお母様に一つを手渡しながら説明する。

「エスト全く貴方は可愛い息子だわ。」

と喜んで受け取ってくれた。



ーー 公爵夫人


大人気の私のパーティーを終え屋敷に帰ると愛しの息子が迎えてくれた。

少しばかり疲れていたがいつの間にか全快した様だ。

私に何かプレゼントしてくれた、可愛いロケットタイプのネックレス。

中に薬が一粒入っている、エリクサーと言ったわ。

万病に効果があると言うのよ、私の為にドラゴンの素材で作ってくれたのが嬉しくて。


そういえば・・あの方の・。

「エストお願いがあるの。この薬もう一つもらえないかしら。とても困っているお友達がいるの。」

と言うとニコニコしながらもう一つ差し出すエストを抱きしめてお礼を言った。



             ◇


3日後。

私は、サンドール侯爵家に来ていた。


「わざわざ侯爵夫人が我が家にいらっしゃるなんて、どう言う風の吹直しかしら。」

少し嫌味な言葉使いは昔のままだわ。

「そうね私も時々は昔のお友達のことを思い出すのよ。」

と彼女との会話を楽しむ。


「それで要件は何なの?私息子の介抱で忙しいのだけど。」

と言う彼女に

「その苦痛から解放しようとこれを持ってきたのよ。」

と言いながら例のロケットを差し出す。


「これは・・貴方が時々配っていると言うミスリルのアクセサリー?それでこれをくれても私の苦痛は消えないわよ。」

「中を開けてみて。私の息子が薬を作ったのその名前が・・エリクサー・よ。」

と言うとロケットの蓋を開けて、中の丸薬を取り出して見つめる彼女。

「心配しなくても学園長からの鑑定済みよ。さあ使ってきなさい。」

と彼女を息子の寝室に追いやる。


暫くして、泣き腫らした彼女が現れ。

私に抱きつくと

「ありがとう。本当に・・ありがとう。」

と言う彼女を残して私は涙を隠しながら屋敷に戻った。




ーー  サンドール侯爵夫人クレア  side



私とケンドール公爵夫人は学園時代からの腐れ縁で、大親友だ。

お互い同じ年に息子が生まれ、それぞれの息子の成長を自慢し合っていたのに・・・私の息子が病魔に侵され・・助ける手段は伝説のエリクサーと言う薬しかないと・・諦めなければいけないの。

私は決して諦めなかったわ。


しかし日に日に弱っていく息子を目に私自信も疲れちゃって。


そんなある日彼女が屋敷に来たの。

私のこんな姿を見たくないと言っていた彼女が、何かあるのかしら。

たわいのない会話の後、私が訪問の理由を尋ねると

一つの綺麗なネックレスを差し出したの。

今社交界で噂のミスリルのアクセサリーね、でもそれでも私の心は晴やしないわ。

と思ってると、中を開ける様に言うの。

中には小さな丸薬が一つ。

「名前はね・・エリクサー・と言うのよ。」

うそ!そお思ったわ、だって伝説のお薬よ。

すると学園長に鑑定してもらったと、直ぐに息子に。

と言われ急いで息子の寝室に向かったわ、相変わらず苦しそうな坊や。

口に含ませ水で流し込むと少し苦い様な表情を見せていた息子から。


「お母様。お水をください、それとお腹が空きました。」

と言う言葉が。

私泣き疲れるまで泣いてしまったの、でもその泣き腫らした顔で彼女の元に向かい。

大好きな親友を抱きしめてお礼を伝えたの。

彼女泣きそうな顔を隠して出ていったけど、この恩は決して忘れないわ。


その夜、連絡を受けた夫が飛ぶように帰ってきた。

「お父様ご心配かけました。もう大丈夫です。」

と息子が言う言葉を聞いて夫は

「本当に良かった。もうケンドール公爵には逆らえないな。」

と言いながら悔しそうに口にしてたけど。

私は知っているは、あの人も親友同士だったと。

明日からまた昔の様に、悪口を言い合って話せるのね。




ーー  ケンドール公爵


妻から話を聞きながら、息子が差し出す薬入りのアクセサリーを手に取り見つめる。

「そうか、彼の息子を治してくれたのか。エストには何かお礼をしないといけないな。」

と嬉しそうに話す公爵に

「お父様、何を他人行儀な事を言っているにですか?お父様やお母様の親友は僕ら家族の親友ですよ。遠慮は入りませんよ。」

と息子が諭す様に話す姿を見ながら夫人は、笑顔で見つめていた。




ーー 学園生活と赤の休み



その後は何もなく平凡な学生生活を送っていた僕。

『何か忘れている様な・・まあ良いか』


もう直ぐ赤の休みに入る。

やすむが開けると最後の学園行事であるダンジョン攻略だ。


このセガール王国に一つのダンジョンが存在する、未だ未踏破のダンジョンで深さは100層だろうと言われている。

未だ到達進度は55層だ。


毎年学園の生徒も浅い階層で、ダンジョンの攻略を訓練するのだ。

その前に僕には・・!

忘れてた領地開発の途中だった。



ーー 領地開発2


僕は王家から僕に下賜された子爵領地を開発しなければならない。


準備は終えているのだが・・・何かを忘れている感じがする?


領地内を周りながら具体的な構想を考えて、杭打ちを行う。

必要な資材を側に置きながら、上下水道と街道を縄張りしながら街の中を周る。

するとため息を吐きながら一人の家臣が近づいてきて、

「領主様、私は忘れ去られたと本気で思っていました。ここに派遣されてはや2ヶ月。何の指示もなく一人待っていたのですが、領主様は流石です。

ドラゴンを退治して、開拓の資金を作っていたのですね。」

と言う家臣に、僕は思わず

「その通りだ、僕の思いが君ならわかると思っていたんだ。」

と言ってしまった。名前も覚えていない家臣に。

そこで収納から金貨の詰まった袋をいくつか取り出し、

「これを使ってください。足りなければ追加しますのでよろしく」

と言っら、その家臣は

「大丈夫です。領主様の気持ちだけで。」

と言う言葉に何故か恐怖を感じたので、金貨の袋をさらに重ねると

「ありがとうございます、これであったかいご飯が食べれます。」

と答えた家臣に更に追加の金貨の袋を与えたのは、しょうがないよね。



ーー 赤の休み。



赤の休みになった。


熱い夏が到来しました。

暑さのために夜中に眠れず起きてしまいました。

「冷たい寝具が欲しい・・」

「アイスをしばらく食べてないな・・」

「エアコンあると便利かな・・」

「・・・熱い!」

ガバッと起き出した僕は、金属製のタライを取り出しある魔道具を乗せると背後に氷柱を魔法で作る。

魔道具を動す前にに部屋の湿気を取り除く、魔道具の巣一を押すと風が吐き出される。

扇風機をイメージして作った送風機だ。

背後の冷たい冷気を部屋中に送り出すととても気持ちがいい。

寝具も除湿されてサラサラだ、これにスライム製の下敷きを取り出して枕の上に置く。

頭が冷たく気持ちがいい、いつの間にかに眠りについていた。


朝目覚めると、氷柱が半分ほどになっていた。


僕を起こしに部屋に来た侍女のマイヤーさんが一瞬戸惑いを見せて、僕に声をかける。

「坊っちゃま、起床のお時間です。」

「あ、おはよう。ありがとうマイヤーさん。」

いつもの挨拶を交わしベッドから起きる。


タライごと収納しすると食堂に向かう。

「おはようございます、お母様。」

「おはようエスト。昨夜は眠れましたか?かなり暑かったようですが。」

「はい、寝苦しくて起きてしまいました。お母様もそうでしょう?そこでいいものを考えました、今日にでも作りますね。その前に簡易的なものをここに置きます。」

と言いながら僕は先ほどのタライを取り出して、屋敷内の湿度を下げると。

氷柱を取り替えてから魔道具のスイッチを押した。


「まあ。冷たくて涼しい風ですね。とても良いわ。」

お母様は汗をかいていたのが嘘みたいになった部屋の中を見渡して、寝室にも欲しいわね。」

と感想を呟いた。


そう僕はエアコンを魔道具として作ることにしたのだ。


    

          ◇



この世界の魔道具には幾つかの種類がある。

・魔石を動力として稼働するもの

・使用者の魔力を充填して稼働するもの

・大気中の魔素を吸収して稼働するもの

で、一つ目と二つ目は魔力の量で稼働時間や効果が変わるものだ。

三つ目は、あまり強力な効果は難しいが一年中稼働が可能である。


僕の目指すのはセントラルヒーティングだ。

可能な限り小型化し部屋ごとに設置したい。

僕ようの作業部屋で魔道具を作り始める。

大気中の魔素で屋敷中の空調を整えるには、技術的にいくつかの問題があるが今回はカートリッジ式の魔石を使うことで解決する。


各部屋の風の吹き出しと湿度の調整ようの開口部を備えた子機を設置。

本体は広いホールの片隅に据え付けると魔石のカートリッジを差し込みスイッチを入れる。

調整ようのつまみを捻って湿度と室温を調整する。


暫くすると

「あら?過ごし易くなったわね。どうしたのかしら?」

とお母様が降りて来られた。

「お母様、僕が魔道具で空調を整えました。」

と答えると

「流石はエストね。これは他所でも売れそうね。」

と言うのを聞いて

「技術的な問題をクリアすれば、魔力の無い平民でも使えますよ。」

と答えると驚いていた。


その後カートリッジ式でいいので10セットほど作っておきなさいと言われ、急いで作ったのですが・・何方に上げるのやら。



          ◇


次の日の朝。

「エスト。今から私の親友のお屋敷に暑中見舞いに行きます。あなたも行きますから準備をしてね。」

と言うお母様に「了承」の返事をして準備をする。


馬車に乗り小一時間揺られると目的の屋敷に着いた。

王都の屋敷のようだ。

「何方のお屋敷ですか?」

「教えてなかったわね。ケルニア=サンドール侯爵家よここのクレア侯爵夫人が私の親友なの。」

と教えてくださった。


渋い家宰に案内されてサロンに向かうと、お母様と同じくらいの女性と僕くらいの少年が座ってお話をしていた。とても仲が良さそうな感じがする。


「いらっしゃい、ケイト。お変わりはなくて、その子が自慢のエストニア子爵様ね。」

「そうよ。その子があなたの自慢のクロニアル君ね。元気そうじゃ無いの。」

と不思議な紹介をされて

「初めまして、息子のエストニアです。本日はケイトお母様のご親友のお屋敷をお尋ねすると聞き、楽しみにしていました。

クロニアル君もできれば僕のことエストと呼んでくれると嬉しいです。よろしくお願いします。」

と挨拶すると、クロニアル君も

「初めまして。息子のエストニアです、エスト君と同じ7歳です。休み明けには学園に通いますので宜しくお願いします。それとエスト君のお薬とても感謝しています、一生かけて受けた恩をお返ししますね。」

と挨拶してくれた。

『あの薬はこの子のために使ったんだ。』とその時ようやく納得した僕。


今日も蒸し暑いようで部屋の中でも汗ばみ出した頃、お母様が

「クレアちょっといいかしら。」

「ケイトどうしたのかしら?」

「最近蒸し暑いでしょ。病み上がりの体には良く無いと思うの。それでねちょっとしたプレゼントを持って来たの、準備していいかしら?」

と言いながら了承を得てから僕に「お願い」と言ってくれた。


僕はクロニアル君に案内を受けて屋敷中の部屋に子機を設置して回った。

ホールに据えた魔道具本体にカートリッジ式の魔石を差し込みスイッチを押して起動した。

すると直ぐに効果が現れる。

「あら?急に過ごし易くなったわ。凄いわねこれ。」

クレア侯爵夫人も喜んでくれた。


僕はその後お母様からクロニアル君と遊んでいてと言われ、お部屋でお話をすることにした。


「エスト君僕はねこの前までもう助からないと言われていて、学園どころか人生を諦めていたんだ。そこに君からとお薬をいただいて・・僕は新しく生まれ変わった気持ちなんだよ。ありがとう。」

と改めてお礼を言ってくれた。

僕はそんな状態だったとは知らなくて、僕まで嬉しくなった。


「これを食べてみて。」

と最近作ったお菓子を取り出してテーブルに置いた。

「これはねドーナツとミニアンパンだよ。」

と一つ取ると毒味を兼ねて食べてみせる。クロニアル君もドーナツを手に取り口に入れると・・・笑顔に。

「これ甘くて美味しいね。」

と言ってくれた。


そんな頃お母様達はと言うと。

お風呂だった。


「これ物凄く良いわね。泡立ちもいいし香りもいいわ。」

と僕の作ったボディーソープやシャンプー・リンスを使っているようだ。

暫くすると化粧室で

「これをお肌に染み込ませるのよ。特にお顔にたっぷりと。」

若返りの化粧水を使わせてる様子。

「ええ!何なのこれ!凄いわね。」

驚きの声がクロニアル君の部屋まで微かに聞こえてきたほど。



         ◇


3時間後。


サロンに呼ばれた僕たち、クロニアル君が驚きの声を上げる。

「お母様!どうされたのですか?魔法ですかそんなにお若く美しくなられて!」

と言うと息子の驚きに、満面の笑みを見せる侯爵夫人。

「本当に?これからはお姉様とお呼びなさい。ほほほほ。」

と冗談まじりに答えていた。


お昼を挟んで弾むお話、お母様の本当に素で笑う貴重なひと時だった。



ーー サンドール侯爵夫人  side



今日は親友のクレアが息子を連れてくると連絡があった日。

少し蒸し暑いがサロンでお話をしながら待っていると、来られたと連絡があった。

待っているとケイトによく似た利発そうな少年を連れてケイトが現れた。

挨拶を交わしお薬の感謝を伝え、息子と遊ぶように言いつけて私たちはお風呂に。


若い事を思い出しながら二人でお風呂に入ると、ケイトの若々しい素肌に息を呑む。

「大丈夫よ、あなたも直ぐにわかるわ。」

と言うケイト。

お風呂から上がり良い香りが全身を包んでいる、すると小瓶を取り出したケイトがそれを差し出し

「これを素肌に塗り込むのよ。特にお顔にはタップリと。」

と言って自分の分も取り出し塗り方を教えられながら全身に塗り込むと・・直ぐに変化に気づいた。

少したるみがちになっていた肌にハリが戻り、透き通るような肌に。

思わず叫んでしまったわ。

1時間もするとほんと学生時代の二人に戻ったような二人。

思わず笑みが溢れたわ。

ケイトは帰り際に「1週間に一度の頻度でいいわ、これで一年分よ。」

とあの若返りの化粧水を置いていったわ。

その上彼女の息子のエストニア君の付けてくれた魔道具のおかげで、快適な空間に。


その世戻ってきた夫が私を見て驚いた顔が嬉しかったわ。

息子のクロニアルが見知らぬ袋を持っていたのが気になるけど。


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