第9話 学園生活3と治療魔法
ーー 学園生活 3
休みを終えて王都の学園に戻ると、寮生もほとんど戻ってきていた。
今後の学園行事としては、
・森での魔物狩り
・ダンジョン攻略体験
の二つだ。
学園の年間行事として大きく4つあるのだが、残りは2つということだ。
しばらく通常の授業が行われていたが、80人いた初等科1年生は60人ほどになっていた。
行軍時に不慮の事故に遭って命を失った者や未だ治療中の者がいるようだ。
2月後に控える魔物狩りの行事についても、現在実施するか検討中のようだが多分実施されるだろう。
この世界はとても生きるのが厳しい世界なのだ。
生きる為の力が無ければ自由に生きられないのだ。
学園の事業がより実践的なものに変わり、怪我人も出るようになってきたある日。
僕は怪我をしたクラスメートに怪我が予想以上にひどいことに気づき、人体の構造をイメージして癒しの魔法をかけてみた。
すると初歩のヒール程度のつもりが、みるみるうちに傷口が塞がり1分後には綺麗な肌に生まれ変わっていた。
更に骨なども損傷していたが、それもきれいに治っており連絡を受けてきた治療師も驚いていた。
僕はこの時、『意外と魔法というものは、しっかりとしたイメージが有ればかなり効果が高いのだな』という感想だった。
だからこそ人体を構造に詳しく解説する資料が必要なのだと。
病気も同じで症状から地球の病気を当てはめるとほとんどが同じで、魔力を原因とする病以外は同じだと思われた。
ーー クラスメートの治療を行う
治療魔法が予想以上の効果をあげたことから僕は、クラスメートのお見舞いに行くことにした。
行軍訓練で大きな怪我をしたと聞いた青のサーシャ嬢とケベック君の見舞いに行くことにした。
特に縁も面識もないが、治療魔法が使えるようになった僕はどこまで使えるか試したかったのだ。
クラスメートと言うことでお見舞いに向かうと、それぞれ王都の屋敷で療養中であった。
先ず向かったのは、ケベック君の屋敷だ。
家人に挨拶して部屋を訪れると、剣術をよく頑張っていたケベック君が正気もなくベッドに横たわっていた。
「やあ、わざわざお見舞いありがとう。でも僕はもう学園には戻れそうもないよ。」
力なく答えるケベック君。
「ケベック君、僕の願いを一つ叶えてくれないか?最近治療魔法が使えるようになったんだが、それが予想以上に効果が高くてもしよければ君の治療をさせてもらいたいんだ。」
と言うと
「それなら構わないよ。王都の治療師がこれ以上は無理だと匙を投げた僕の怪我だ、君の魔法で治るなら願ってもないが・・・。」
そう言うと右足の膝から下と左腕のない体を起こしてみせた。
僕は傷口の包帯をそっと外して、人体の構造を頭に描くと左右対称を考えながら治療魔法を発動した。
強い光がケベック君の体を覆う!傷口から肉が盛り上がるように骨と共に修復され始める。
5分ほどすると綺麗な右足と左手がケベック君の身体に生えていた。
「そんな・・・また僕は剣を握れるのか。・・・エストニア君ありがとう。」
と涙を流しながらお礼を言うとケベック君は、家のものを呼んで怪我の回復を見せた。
その後僕は、サーシャ嬢のお見舞いに行きたいが口添えしてくれないかと願った。
ケベック君の母上は
「そんなこともちろんでございます。直ちに連絡を入れて治療を受けるよういたします。」
と請け合ってくれた。
◇
サーシャ嬢の屋敷に着くとそこには多くの家族が待ち受けていた。
「どうぞご当主がお待ちです。」
と屋敷になねかれた僕は、ご両親に挨拶をして寝室に向かった。
サーシャ嬢は顔に大きな怪我と右足を失っていた。
ケベック君の治療と同じように放置を外し、鮮明なイメージで治療魔法を行うと。
同じように綺麗なお顔と右足が生まれ変わったように元に戻っていた。
絶望の淵にいたサーシャ嬢は自分の顔を手鏡で見て
「エストニア様、私は貴方様を一生裏切ることは致しません。」
と泣きながら誓ったのだった。
そして両親も派閥は違えど、これよりケンドール公爵への反抗は致しませんと言ってくれたが、僕はそんなことを求めてきたのではないと言って帰った。
次の日、お父様から手紙で
「今回のお前の行動は、公爵家として正しいことだと言っておこう。」
と言う短い文だった。
どう言う意味なんだろう、でもこれで僕は家族が怪我をしても治せる自信がついたよ。
そして当然、他の怪我をした初等科の生徒の親御から治療の依頼がきた。
王都の治療師でも治しきれない怪我人ばかりで、5日をかけて治療をすると。
その日からケンドール公爵の派閥は倍増したようだ。
我が子を特に跡取りを治療してもらった、貴族らはこれ以上ないほどの感謝をお父様に伝えたそうだ。
お母様も、
「また私の影響力が強くなったわ。」
と嬉しそうに話しているようだ。
ーー 王城からの呼び出し
10日ほどしてお父様からの使者で
「3日後に国王との謁見がある」と知らされた。
何だろうと思いながらも、担任にそのことを話して学園を休むことにした。
お父様が直々迎えに来てその足で国王の間に向かうと。
「お前がセガール王国の貴重な貴族の子弟妹を助けたことが耳に入ったようだ。」
と教えてくれた。
「此度のその方の献身的な王国への貢献は、多大なものである。よって其方に男爵位を叙爵する。」
と申し付けられ
「謹んで承ります。」
と受けたのだった。
ーー 王家の災難
半月ほど経った頃、王家に立て続けに災難が降りかかった。
魔法を訓練中の王子ベストニア10歳が、魔力暴発を起こした生徒の巻き添えを喰らう大怪我をした。
左半身が大きく被害を受けて、生死の境を彷徨っていたのだ。
すると次の日、兄の怪我を知った王女メアリー7歳が王都に戻る際にはぐれワイバーンに襲われて大怪我をした。
その怪我は背中から後頭部にかけてを大火傷するもので、こちらも生死を彷徨う状態だった。
僅かな期間に大切な子供を失いかけたお国王と王妃は、王国内の名医を呼びつけ治療にあたらせていた。
「どうじゃ、子供たちの状態は?」
毎日、朝晩と報告を求める王にいい報告は一つのみ。
「どうにか命は持ち直したようです。」
と言うことのみ、それ以上の吉報は諦めて欲しいと10日後には言われた。
すると王妃が手紙を手に国王に
「王よ子供たちの治療にある者をお呼びください。」
と懇願してきた。
「この期に及んで誰を呼べと言うのじゃ?」
と言う国王に
「ケンドール公爵の息子エストニア男爵です。」
と言われ、誰だったかな?と思ったものの「あの息子か」と思い出したが。
「幾らあの者が治療魔法が優秀といえど王子たちの怪我では森であろう。」
と答えると、王妃は数枚の手紙を見せながら
「あの者は、手足のちぎれた者や顔が半分のものまで綺麗に治したとここにあります。すぐにお呼びください。」
と言うので。
「あいわかった。すぐに呼ぼう。誰か!ケンドール公爵を呼べ。」
と申し付けた。
その様子を見ていた王妃は
「これでは間に合うものも間に合わぬ。」
と言いながら王都に来ている公爵夫人に人を遣り治療の依頼をした。
ーー 王子王妃の治療
王都の屋敷に滞在しているお母様から火急の手紙が届いた。
「直ぐに王城に向かい王妃に面会して王子王女の治療に当たりなさい。」
と言うものだった。
確かに両名が不幸なことで大怪我をしたと聞いていたが、僕が治療をするとは考えてもいなかった。
直ぐにお城に向かい
「王妃からの呼び出しで参りました、エストニア男爵です。御目通りをお願いします。」
と対応の者に告げると、直ぐに王妃との面会が叶った。
「よくぞ来てくれた。実はその方に妾から是非に依頼したいことがある。」
と切り出した。
「王子王女のことで有れば聞き及んでいます。私で構わぬので有れば全力で治療いたします。」
と答えると
「それを聞いて安心した、直ぐに向かおうぞ。」
と王子の寝室に向かった。
王子を治療し王女も治療すると、王妃が
「其方は神に通じる者でないのか?これほどの怪我や傷をここまで綺麗に治すなど・・いやこれ以上は申すまい。後ほど褒美を取らせるので待っておくれ。」
と言ってその日は城を後にした。
僕は王都の屋敷に向かいお母様に治療の成功を報告した。
「さすがエストです。母は信じていました。これで王妃もこちら側です。」
と少しばかり黒いお顔のお母様だった。
ーー 王女メアリー side
私が襲われて気が付いたのは、5日後のことと聞いた。
そして私の背中から後頭部にかけてひどい火傷をしていると知ったのもそのことだった。
「え!もう治らないのですか。髪も生えてこないのですね。」
私は生きる希望を失いました、しかしお兄様も同じように瀕死の怪我でもう元気に駆け回ることはできないと知らされました。
その日から悲しみに暮れる日々、どんな私にある日王母様が
「貴方を救う方法を見つけました。今から依頼してみますただ、上手くいけば私はその方に頭が上がらなくなるでしょう。貴方も同じです、その覚悟はありますか?」
とその相手がケンドール公爵夫人だと聞かされた。
「その方なら私は問題ございません」
と答えるとお母様は直ぐに手を打ってくれました。
あの方が来たのはその日の夕刻。
既にお兄様の治療を終えてきたと言うのです。
「よろしくお願いします」
と言いながら、私は服を脱ぎ醜い後ろ姿を晒したのです。
暖かい光を浴びて痒みを覚える感覚が、引き攣り痛みを伴う感覚を塗り替え
「これでもう大丈夫、元の美しい髪と肌は戻りましたよ。」
と言われ合わせ鏡で確認すると綺麗な背中と美しい金髪が見えていました。
このような奇跡は、魔法と言う言葉では表せません。多分あの方はそれ以上の存在なのだとその時思いました。
ーー 再び王の前に
治療後2週間で国王から再度の呼び出しを受けた僕。
今度はお母様も王妃様に呼ばれたようだ。
「その方の貢献、王国の礎に資するものである。よってその方を子爵とする。」
と言われた。
『領地ももらってどうしたらいいの?』と思ってました。
でも逆に考えると、僕の将来は安泰ということで良いんじゃないだろうか。
スローライフで長く平坦な人生を。
◇
王妃様の離宮にて。
「ケイト=ケンドール、王妃様のお呼びに応じまして参りました。」
と公爵夫人が伝えると、王妃様自身がお迎えに上がられた。
「ようこそおいで下された。ささ、こちらに。」
招かれて公爵夫人が奥に進むと、1人の少女の姿が。
「これはメアリースクイブ王女様ではありませんか?」
という公爵夫人の声に、少女は立ち上がり
「メアリースクイブです。以後メアリーとお呼びください、ケイト公爵夫人。」
と頭を下げた。
かくして王妃、王女、公爵夫人のお茶会は静かに始まった。
公爵夫人が綺麗な小瓶を2つ取り出し、
「これは息子エストニアが作りました最新の若返り美容液です。」
と言いながら王妃と王女の前に差し出した。
「最新と言うと今の貴方のような若さが・・そうなのですね。」
と言う王妃様に公爵夫人は大きく頷き。
「女はいつまで経っても若くあらねばなりません。あの子はそれを知っております、そしてこちらもお好きなものを。」
と言いながら3段の小箱を開けるとミスリル製のアクセサリーが。
「まあー。なんて素敵なデザインでしょう。これは・・ミスリル・・あの噂の。」
と言いながら王妃様が一つ手に取り胸元の仮付けすると
「お母様。素敵ですわ。若返ったお母様ならわたくし「お姉さま」とお呼びしてもいいかと」
と言う王女様の言葉に嬉しさをかくしきれない王妃様が、公爵夫人に向き直り。
「改めて感謝させてくださいまし。私は今後貴方の敵では決してありません。可能であれば今後とも娘共々縁を結んでください。」
と頭を下げた。
「王妃様、お顔をおあげください。わたくし今回のことは、損得抜きでお応えしたのです。きっとエストニアも同じと思います。お友達でいいではないですか。」
と手を差し出せば、王妃もそれに応じた。
その後はとても楽しげな会話が続き次の予定を決めるとお茶会は終了した。
ケンドール公爵夫人が王妃様を陣営に加えた瞬間であった。
ーー ドルトミン=セガール公爵 side
報告書を読んでいたセガール公爵は、大きなため息と共に呟いた。
「はー。我が寄子の子爵2家の後継と令嬢が大きな怪我を負ったあの行軍訓練。管理を任されていたのも我が寄子の伯爵家であった。」
「あの怪我を元通りに治癒するとは・・・神掛かっていると言えよう。その後他の大怪我の子供たちも無償で治して回ったと聞いた。」
難しい顔で報告書を睨む公爵に、そばに立つ男が。
「そこまで考えなくて良いのではございませんか。聞くところによるとかのエストニア様は、裏も表もない性格で苦しんでいるものを平民であろうが助けていたと聞き及んでいます。」
と意見を言う男は公爵の懐刀と言われる、ニクラウス子爵だ。
「王家を支える公爵家としても今回の王子王女の回復は望まれたもの。
爵位の一つ二つで済むものなら安いものです。しかもこれ程の治療魔法使いなら、我が公爵家も縁を結ぶ必要が大いにあると思います。」
とさらに話した。
「分かっているんだ。ただな、あの男の息子自慢が鼻についていたんだよ。」
と答える公爵は、ケンドール公爵とは学友。
何かと競いながらお互いを認めていたのだが、息子という跡取りについてはセガール公爵には娘しかいなかったのだ。
羨ましいと言う思いがあって素直になれなかった。
「分かった。私情は捨てよう。確かに娘に何かあった場合大変頼もしい存在だ。」
と思い直したようで
「我が娘にも自慢できるものを持たせよ」
と言い出した。
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