第4話

「おい! 晶はいないか!?」



 日が部屋に差し込んできたころ日光よりも先に耳に響き渡る声により施設内のおおよその人間が目を覚ましぞろぞろと広間へと集まる。声の主は施設内で見たことない人だった。でも、財前君の名前を呼んでいたし知り合いなのだろうか。



「どうしたんだい? 久しぶりだね陽太郎って……傷を負ってるじゃないか」


「俺よりもな、茶谷を……こ、こいつ意識がないんだ」



 財前君と話をしている大男は抱きかかえている少女を涙目になりながら見ている。二人とも傷だらけだが少女のほうが重症のようだ。



「分かった。急いで医務室へ連れて行こう」



 騒めきがしばらく続いたがガブリエラさんが子供たちを諭すと自然とそれはなくなっていった。

 数十分後治療を施されたであろう大男と財前君が奥の医務室から出てきた。彼らの表情から察するに背負ってきた少女の容態はあまり芳しく無さそうだ。



「おぉ、坊ちゃん戻りましたか。陽太郎も災難だっt」


「状況の説明がしたい。園田さんみんなを集めてくれるかな」



 財前君の表情は殺伐としていて、この前のお茶会が嘘のようだった。園田さんもそれが分かったのか直ぐに招集してきた。見たところガブリエラさんがいないようだが、さすがに子供たちを呼ぶ訳には行かないからきっとそちらの面倒を見ているのだろう。



「単刀直入に言うと……陽太郎たちがいる支部の近隣に山賊が出たみたいなんだ」


「え?」



 今まで人1人見当たらなかったのに急に山賊なんて。もっと早く見つけていればその人たちとも一緒に過ごせていたのかもしれないのに。



「陽太郎。説明を頼む」


「あぁ。そう……だな」



 陽太郎さんの話はこうだ。もう1箇所ここに似た施設があり、そこを拠点にしている調査員数名が突如襲われた。距離はかなり離れており今すぐここらが一帯が危なくなる訳では無いが注意しなければいけない。



「……やむを得ないけど、規模を縮小するしかないよね」


「そっちの支部にはあと何人残ってんだ?」


「3人だ」


「よし、僕が行ってこよう」


「わざわざ坊ちゃんが直接出向くことねーですよ。何なら俺が」


「壁の中の経路は全て暗記している。僕以上の適任はいないと思うけど」



 財前君が園田さんに意見するところは今まで見たこと無かった。それほどまでに切羽詰まっているのだろう。フィールドワーク経験が浅い彼が直接。しかも、この感じだと1人で行くつもりだろう。



「さすがに、財前君1人で行くのは危ないんじゃないか?」


「じゃあ真央くん着いて来なよ」


「へ?」


「ほら、言い出しっぺの法則。僕直々の指名だよ」


「……。えとじゃあ行こうかな」



 勢いで返事してしまい結局そのまま俺が同伴することとなってしまった。あの場ではもっと適任がいたと思う。陽太郎さんは怪我していたからともかく、園田さんとか他にも調査隊の人達はいるし。


 遠征の準備を整えている途中で園田さんから呼び出しがかかる。まぁそんな予想はしていたが……。財前君の事を坊ちゃんなんて呼び方をしてあれだけ過保護になっているのだ。心配しないはずがない。



「おい」


「……はい――っ!?」



 まさかの壁ドン!?



「坊ちゃんに傷を負わせたら分かってるよな」


「いやー。俺のせいって事になるんすかね――ッ!?」



 さらに股ドン!?



「分かってるよなァ!」


「はひ! 空前の灯火の最中拾ってもらった命! これをかけて護る所存でありますゥ!!」


「なら、行ってよし」



 こっわ。もはや脅しだったよな。こりゃ逃げおおせても財前君が無事じゃないと死ぬかもしれん。いや殺られる。



「待たせたね。さぁ、行こうか」


「う、うん」



 瓦礫の中を淡々と歩いていく、会話の隙など与えられることもなく。ただひたすらに同じ光景を眺め続ける。そこには影もなくじりじりと肌を焼かれ続けた。気が付けば日は西に傾き幾分か紫外線はましになった。



「……やっぱり一日じゃ難しいか」


「まだ結構距離あるのか?」


「ううん。明日には着くと思うよ。と言うかごめんね? ただ歩いてるだけだと退屈でしょ」


「まぁ……うん」



 財前君の顔が暗がりの中焚き火に照らされる。沈黙の中、木の燃える音だけが辺りに響く。俯き続けた財前君がふと顔を上げゆっくりと語り始める。



「施設の人達はみんな僕の家族みたいなものでね。色んな困難をみんなで乗り越えてきたんだ。だから、彼らが危険な目に遭っているかもしれないって思うとどうしても……ね」



 風向きが急に変わり財前君と俺の間に立ち込める。



「ゴホッゴホッ」


「……そろそろ寝ようか」



 焚き火を消し俺たちはそれぞれのテントに入り就寝した。



「あ、おはよう。よく寝れた?」



 俺がテントから顔を出すと既に財前くんはテントをたたみ終え出発の準備を終えていた。昨日の話を聞いた手前待たせ続けるのも申し訳ないので俺も素早く準備を整える。



「よし、俺も準備終わった」


「それじゃあ行こうか」



 やはり、会話が無い……。



「財前くんちょっと」


「……あぁ。ごめん、少し歩くペース早かったかな?」


「いや、それは良いんだけど。ふと、園田さんとの関係が気になって」


「僕と園田さんの関係?」


「うん。園田さんだけ財前くんのことを坊ちゃんって呼んでるからさ」


「ああその事。昔彼は僕の使用人だったんだよ」


「え?」


「はは。やっぱりそうなるよね。今までこの話を人達は皆同じ反応してるよ」



 こう言っては何だが園田さんに使用人が務まるとは思えない。



「確かに仕事ぶりは酷いもんだっけどね。」


「だろうな」


「ははっ。失礼だな真央君は。後で園田さんに告げ口しとこうかな」


「勘弁してください……」



 そんな冗談を交えつつ昨日よりも足取り軽やかに向かい。そして遂に目的地にたどり着くことが出来た。

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