SNS

長万部 三郎太

いつものチラシ

大学在籍中に有名なミスコンにノミネートされたわたしは、少しだけその気になって芸能界に飛び込んでみた。


でもTV業界は厳しかった。

最初の2~3年こそ露出は多かったが、30歳を前にして出演機会も減り、今はローカル局がわたしのフィールド。


そんなわたしにもSNSではファンが応援してくれている。


『いつも見てます!』


ありふれた応援文句だが、タレントに対する挨拶みたいなもので、わたしは決まってテンプレのように『ありがとうございます』と返す。先輩から教わった営業方法だ。



今回の仕事も地方遠征のため、帰宅したのは23時をとうに過ぎていた。

ポストにはいつものチラシが詰まっている。


「不審者目撃に、深夜徘徊……。見飽きたわ、この手の喚起。

 全国局に復帰して、早くこんな部屋から出ていきたい」


マンション管理会社からの紙束を捨てると、わたしは久しぶりにSNSのチェックを始めた。しかし、ものの数分で妙な違和感に包まれた。


化粧品やブランドのショップ、ウーバーイーツのオススメといった、わたしが仕事で取り扱っていないものばかりがコメント欄に溢れていた。


「マルチポスト……? どうせわたしの番組なんて見てないくせに、

 適当なコメント付けて通販サイトに誘導させる気じゃないでしょうね」


ファンに成りすまして商品の宣伝をコメントに紛れ込ませるという手法は、タレントのSNSではよくある弊害で、これも先輩から念入りに聞かされていた。テンプレのお返しすら面倒くさくなり、わたしはそのコメントを黙殺することにした。



休みが明け、今日からまた地方遠征が始まる。少々寝坊をしたわたしは、急いで出勤準備をすると溜め込んだゴミをまとめ駆け出した。


間一髪、収集車の到着に間に合ったわたしはこっそりゴミ袋を置くと、車のドアを開けて静かに乗り込んだ。しかしエンジンの始動音に気づいたのか、作業員の1人と目が合ってしまった。

バツが悪くなったわたしは少しだけ会釈をすると、その男はこう挨拶した。



「いつも見てます!」





(筆休めシリーズ『SNS』 おわり)

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