乙女ゲーを知らない野心家の野望

出雲大吉

ルート1 乙女ゲーを知らない野心家の野望


 私の人生は勝利が確定している。


 何故なら、私は人よりも優れているからだ。

 

 そして、私はこの世界の仕組みを知っているからである。



 私の名前はエリザベス。

 この国を支配する予定のものだ。


 何故、そんなことがわかるかって?


 実は私には前世の記憶がある。


 前世の私は、天才ではなかったが、秀才であった。


 日本という国で生まれ、そこそこ裕福な家庭で育った。

 

 両親の英才教育のおかげもあり、全国模試で3位になったこともある。


 すごいだろう?


 そんな私は、日本でも優れた大学に合格した。



 そして、入学式の日に死んだ。



 死因は心臓麻痺らしい。


 何故、死因を知っているかって?


 ハゲた爺が教えてくれたからだ。


 どうやら私は神を名乗るハゲ爺の間違いで死んだようだ。


 本当は、私の前世の名前と1字違いのお婆さんが死ぬ予定だったらしい。


 しかし、ハゲ爺は名前を間違え、将来、歴史の教科書に載るであろう若者を殺したのだ。


 私はこのハゲ爺を糾弾した。

 ありとあらゆる言葉で罵倒した。

 そして、泣きマネをして、同情を誘った。



 そしたら、なんと、ハゲ爺は私を生き返らせてくれると約束してくれたのだ。


 しかし、元の世界はダメらしい。

 そして、行きたい世界の希望はあるかと聞かれた。


 希望って何?

 私がいた世界以外の世界なんか知らないんですけど……。


 詳しく話を聞くと、どうやら、最近は異世界転生なるものが流行っており、皆、転生先に要望を出すらしい。


 なんじゃそりゃ?


 優秀なる私は、そんな俗物的な本は読まない。

 私が読むのは、参考書と兵法書だけだ。


 私はよくわからないので、ハゲ爺がおすすめしてくれたRPG風乙女ゲームの世界に転生することになった。


 RPGは知っている。

 ドラ〇エでしょ?

 でも、乙女ゲームって何?


 優秀なる私は、そんな俗物的なゲームはしない。

 私がするのは、将棋とマインスイーパーだけだ。


 ハゲ爺に説明を求めると、ハゲ爺もよく知らないらしい。


 バカか!?

 貴様が勝手に殺しておいて、自分もよく知らない世界に転生させるのか!?

 殺すぞ!!


 私はこのハゲ爺を糾弾した。

 ありとあらゆる言葉で罵倒した。

 そして、泣きマネをして、同情を誘った。


 ハゲ爺は私の剣幕にビビったのか、私が行く乙女ゲームの攻略本を貸してくれた。


 私は攻略本を読む。


 ふむふむ、私が行く乙女ゲームとやらは、魔法がある学園ラブコメディーのようだ。

 舞台は海外か?

 なんか中世の貴族社会みたいね。


 おい、爺!

 高貴なる私は当然、女王に生まれるんだろう?


 …………………………。


 どうやら、主人公に生まれ変わる予定のようだ。

 でも、主人公って平民じゃん。

 嫌だ!!


 おい、爺!

 高貴なる私はこの金髪のナイスバディーがいい!

 これにしろ!


 …………………………。


 悪役令嬢って何よ?

 知るか、ボケ!


 私は乙女ゲームの世界に行くだけで、攻略するつもりはない。

 私はこの国を乗っ取り、王に君臨するのだ。


 わかった?

 わかったなら早く転生させろ。

 あ、この攻略本はもらっていくわよ。


 …………………………。


 ああん!?

 なんか文句あるのか!?

 ないならさっさとしろ!


 私は優れた交渉術で勝ち組のキャラを勝ち取り、転生することになった。



 目指せ! 女王様!!


 …………………………。

 

 

 はぁ!?

 誰が魔王だ!!

 お前の代わりに神様になってやろうか!?



 こうして転生した私は幼少期から国1番の神童と呼ばれるようになった。


 当たり前である。

 秀才改め、天才な私にとって、幼少期に学ぶ勉学など赤子の手を捻るようなものだ。


 そして、魔法についても、私は才能があるらしく、どんどんと上達していった。


 私は自分のスペックを理解すると、この国を乗っ取る計画を立てた。


1.名声を上げる

2.王子と婚約

3.学園に入学

4.主人公を排除

5.王子と結婚

6.現国王の排除

7.王子を傀儡にし、王の座を簒奪する

8.他国を蹂躙

9.世界征服


 幸い、私の家は公爵家らしく、家柄も問題ない。


 私は完璧な計画を立てると、早速、私腹を肥やしてそうなパパに計画を話した。


 …………………………。


 無茶苦茶、怒られた。

 うえーん、お尻が痛いよー。

 セクハラだよー。


 ウチのパパは悪そうな顔をしているくせに、根は真面目のようだ。


 ええい!!

 こうなったら親の力など頼らず、自分の力で成り上がってみせる!!



 私はまず、近くにいた手頃な侍女に計画を話し、協力を要請した。

 侍女は最初は嫌がっていたが、成功した暁には貴族にしてやると言ったら、私の軍門に下った。

 

 貴様は私の暗部にしてやろう。

 表向きはメイド、裏では密偵をこなすエージェント。

 カッコいいだろう?


 ほう、貴様もそう思うか。

 うんうん、そう褒めるな。

 よし! 貴様がよく働いたら国を1つやろう!


 私はこの侍女を皮切りに次々と配下を増やしていった。


 ある時は隣の領地の格下の貴族令嬢。

 ある時は自称Aランク冒険者の飲んだくれ。

 ある時は私の財布をスッたクソガキ。


 皆、私の偉大さに感激し、進んで配下になった。


 そうこうしていると、私の名声は国中に轟き、いつの日か私は国1番の才女と呼ばれるようになった。


 そして、そんな才女を国が放っておくわけもなく、予定通り、この国の王子様(笑)との婚約が決定した。


 フハハ!

 計画通り!!

 やはり、私は天才である!!


 そして、数年後、乙女ゲームの舞台となる学園への入学が決まった。

 

 この乙女ゲームは最初の1年間で攻略対象を攻略し、1年の最後の舞踏会で結果が決まるようだ。

 上手くいけば、トゥルーエンド。

 ダメならバッドエンドである。

 

 まあ、関係ないだろう。

 私の登場で、このゲームはすでに破綻しているのだから。



 私は、乙女ゲーの流れを無視し、次なる計画を実行することにした。


 主人公の排除である。


 攻略本によると、主人公はのちに教会から聖女の認定を受けるらしい。

 これにより、例え、平民であろうとも、王子と結婚できるようになるのだ。

 まあ、ご都合主義だろう。


 しかし、のちに聖女であろうと、今は何の後ろ盾もない平民である。


 そこらの平民1人を亡き者にしたところで、いくらでも隠蔽できる。


 これが権力だ!!


 フフフ、貴様は私の踏み台となるが良いぞ。

 


 私は入学式の日、主人公にイチャモンをつけるために、主人公の元に向かった。


 お! いたいた。

 ふーん、芋臭い女だな。

 よーし!


 おい、貴様!

 今、私を凝視したな!?

 不敬であろう!!

 私を誰だと思っている!?


 何?

 私が美しすぎるから感動して見ていただと!?

 ほう、貴様、見る目があるな。

 名は何というのだ?


 アンゼリカ?

 ふん、庶民の分際で大層な名前だな。

 

 私?

 私は公爵家のエリザベスである。


 ほ、ほう、名前も美しいとな?


 何!?

 名前も家柄も顔も完璧だと!?

 貴様、やるな?

 よし、そこまで言うなら、貴様を私の下僕にしてやろう。

 嬉しいだろう?


 そうか、そうか。

 そんなに嬉しいか。


 は? お姉様?

 別に呼んでもかまわんが、私は貴様の姉ではないぞ。


 そ。そうか。

 ならば、好きに呼べば良いぞ。

 私は寛容だからな。



 ま、まあ、多少、計画とはズレたが、こいつが私に歯向かうとは思えん。

 私の下僕として、一生、こき使ってやろう。



 おい!

 何故、手を繋ぐ!!

 やめろ!

 私の可憐なお尻を触るな!!



 私はちょっと変わった庶民を下僕に加え、学園生活を謳歌することにした。


 攻略本によれば、この乙女ゲームは、どうやらこのアンゼリカが学園の階級社会で苦労しながらも成長していく物語のようだ。


 そして、成長していく過程で王子様と結ばれ、ハッピーエンドらしい。


 おもしろいか?

 私はもっと殺伐した方がいいと思うのだが。


 まあ、どのみち、アンゼリカ改め、アンは私の下僕である。


 公爵令嬢である私の所有物に文句をいうバカもいないだろうし、こいつが王子と関わることはないだろう。


 

 アンは私の予想通り、特にトラブルもなく生活をしているようだ。

 

 それでも、何度か有象無象の貴族令嬢共が私にアンとは付き合わない方が良いと忠告してきた。


 私はそんなアホ共にアンはペットであり、私のストレス解消の道具だから大丈夫だと伝えた。

 

 そう言うと、アホ共は口元を引きつらせながら消えていった。


 こう言えば、アンに絡むバカはいなくなるだろう。

 優しい私は自分のペットのために力を尽くすのだ。


 そして、これでアンも私の下僕としての自覚が芽生えるはずである。


 しかし、アンは何かと、私とスキンシップを取りたがる。


 私はペットがじゃれているようなものだと思っているが、私の配下の侍女は何か危機感を持っているようだ。


 はあ?

 アンゼリカは危険だ?

 気のせいだろ。

 あのアホは私に忠実ではないか。


 まあ、侍女も私を心配して過保護になっているのだろうな。

 もしくは、嫉妬か?

 

 まあ、忠義が厚いのは良いことだ。



 おい、アン! 食事にするぞ。

 さっさと私のランチを取ってこい!

 

 バカか!?

 何故、肉料理なのにナイフがないんだ!?

 貴様はノロマな上にアホか?


 ああん!?

 知らないだあ!?

 そんなんでこの学園で生活できると思っているのか?


 ん?

 まあ、教えてやってもいいが……。


 私の部屋に行きたい?

 別に来てもいいが、寮にはベッドと机くらいしかないぞ?


 はぁ? 何故、泊まる必要がある?

 貴様も寮生だろう?


 そりゃあ、貴様の部屋よりは豪華だろうよ。

 私は公爵家だぞ?


 ほう、今のうちの高貴な生活を勉強したいと。

 なるほど、貴様も私の覇道についてきたいのだな。

 それは良い心がけだ。

 ならば、我が部屋で学ぶがいいぞ。




 おい、アン、貴様はそこのソファーで寝ろよ。


 何故、ベッドに入ってくる!?

 これは1人用だ!

 おい! どこを触っている!?

 いいから、いいからじゃない!!


 まったく、じゃれるのはかまわんが、少し怖いぞ。



 こんな感じで、なんだかんだ私はこの下僕と上手くやっていると思う。



 そして、王子様(笑)はというと、正直、あまりうまくいっていない。

 というのも、この王子はなんか寡黙なのだ。



 婚約者である私が色々と話を振っているのだが、一言、二言を返すだけで、会話が続かない。

 

 ただでさえ、クラスが別なのだから、お茶会の時くらいは喋ってほしいのだが。


 コミュ障か?


 私としては、こいつの価値など地位しかないから、こいつの人間性など、どうでもいい。

 しかし、私の傀儡にするためにも、もう少し、仲良くなっておきたい。


 私は王子と同じクラスであるアンに王子のクラスでの様子を聞いてみることにした。


 アンの話では、王子はクラスでは気さくな人で平民であるアンにも話しかけてくれるらしい。


 じゃあ、何故、私の前ではあんなに暗いのか。


 もしかして、私が美しすぎるから緊張しているのか?

 そして、そんな高値の花が婚約者であることを意識しているのか?


 ハァ、美しいことって本当に罪なんだな。

 アンもそう思うだろ?


 やはり、お前もそう思うか。


 うん、うん。

 そんなに褒めるなよ。

 お前が私の事を慕っているのはよくわかっている。


 しかし、このままではマズいな。

 

 よし! 同じクラスであるアンに私はとっても良い人だとアピールさせよう。


 人間というのは本人からアピールされるよりも他者からの評判を信じるものだ。

 アンが王子に私をアピールさせれば、あいつも心を開くはずである。


 やれやれ、世話のかかる王子だ。



 しかし、この作戦も上手くいかなかった。

 

 アンは必死に私をアピールしてくれたが、未だに、王子は私の前ではまったく心を開かないのだ。


 いい加減、ウザくなってきた。


 こうなったら、この王子を捨て、第2王子に乗り換えようか。


 攻略本によれば、第2王子は勇者らしい。


 私もよくわからないのだが、主人公は何人かの攻略対象と呼ばれる男を選んで、トゥルーエンドを迎えることができるようだ。


 アンって、尻軽なんだな。


 私は第2王子とも面識がある。

 会ったのは子供の頃だが、素直な良い子であったと思う。


 ……そういえば、昔、プロポーズされたな。

 興味なかったからスルーして、忘れてたわ。


 よし! 第2王子に乗り換えよう!

 

 そして、このウブな第1王子には不幸な事故にあってもらうことにしよう。


 そうすれば、次期王は第2王子になる。


 となれば、まずは、婚約破棄だな。

 今度の舞踏会で婚約破棄を伝えよう。


 こんなに美しい婚約者からフラれるなんて、王子のヤツ、ショックを受けるだろうなー。

 ショックのあまり、死ぬかもしれないな。

 そうなると、好都合だが。


 私は来週の舞踏会でみんなの前でフラれる王子を想像し、噴き出しそうになった。




 そして、舞踏会の日、私は笑いを堪えながら王子の元に行く。


 私が王子に近づくと、王子も私の元にやってきた。


 そして……


「エリザベス!! 貴様との婚約は解消してもらう!!」


 …………は?

 それは私のセリフなんですけど……。


「殿下! 急に何を言うのですか!?」


 王子のそばにいた大臣が慌てている。

 周りにいる学園の生徒たちもざわめき始めた。


「止めるな、大臣! この性悪女の狼藉はもう耐えられん」

「何を言っているのです! エリザベス嬢は国1番の才女ですぞ!?」


 そうだ、そうだ!


「才女? こいつが? 笑わせるな! こいつは人間のクズだ!!」

「何を根拠に言っているのです!?」


 そうだ、そうだ!


「こいつは同じ学年の女生徒をイジメている!」

「は?」


 私って、誰かイジメてたっけ?


「こいつは私のクラスメイトであるアンゼリカ嬢を平民という理由だけで、こき使い、挙句の果ては、夜な夜な部屋に呼びつけ、暴行を働いているのだ」


 そうだっけ?


「ほ、本当ですか?」

「本当だ! アンゼリカは平民ということで誰かに打ち明けることが出来なかったのだ」


 打ち明ける事が出来なかったことを何故、王子が知っているのだ?


「何故、殿下はご存じなのですか?」


 そうだ、そうだ!

 どうせ勘違いだろ?

 これだからコミュ障は……。


「アンゼリカを見ればわかる!! 私はあの娘の心の声が聞こえるのだ!! 誰かこの悪魔から助けてくれとな」


 …………え?


「え?」


 私と大臣の心が1つになった。


「アンゼリカはどこだ!? アンゼリカに本当の気持ちを聞こう!!」


 アン…………。

 逃げてー!

 ここにヤバい人がいるぅー。


「で、殿下、落ち着いてください」

「落ち着いていられるか。アンゼリカ! アンはどこだ!?」


 帰りたいよぅ……。


「あ、あの、呼びましたか?」


 ……来ちゃったよ。


「おお! アンゼリカ!! 今、お前の悩みであるエリザベスを糾弾しているところだ!」

「はい?」

「もう、隠さなくても大丈夫だ! 私がお前を守ってやる!!」


 ひえー。

 妄想を拗らせすぎてるー。


「あの、お姉様、これはいったい何ですか? よく事態が呑み込めないのですが」

「殿下はエリザベス嬢があなたをイジメていると言っているのです。アンゼリカ嬢、本当ですか?」


 何故か、大臣が私とアンの間に入ってきた。


「イジメですか? 私って、イジメられているのですか?」


 知るか。

 私は帰りたい。


「殿下が言うには、夜な夜なアンゼリカ嬢を部屋に呼びつけ、暴行を働いているのだと」

「そんなことはないと思うのですが…………」

「隠さなくてもいい!! エリザベスの隣の部屋の女子からもアンの声で痛いって叫び声が聞こえたと証言している!」


 嘘だー。


 あ、いや、もしかして、アンが私のベッドに入ってきて、私の服を脱がそうとしてきた時のことかな?

 とっさに殴った気がする。


「それだけではない。エリザベスの部屋からアンを罵倒するエリザベスの声が聞こえたとも聞いている」


 もしかして、貴族の作法を教えているときかな?

 

 貴族の女子の作法は厳しいから、教える私も自然と熱が入るのだ。

 私も昔はよく実家のばあやに怒られたものである。


「本当ですか?」

「いえ、その、お姉様は貴族社会を何も知らない私に指導してくださってるだけです。お姉様は学園を卒業したら私を雇ってくれるって言いました」


 言ったっけ?

 言ってないような……。


「嘘をつくな、アン! こんなヤツ、庇わなくてもいい!!」

「あの、どうして、私が嘘をつく必要があるのでしょうか?」

「あの、殿下の勘違い、ということは……」

「そんなことはない!! アン! お前も私に助けてくれと頼んだではないか!!」


 心の声か?


「え? 私、そんなこと言いました? 記憶にないのですが……」


 でしょうね。

 だって、殿下の妄想だもん。


「あ、あの、殿下、この話は後日にしませんか?」


 大臣も必死だ。

 周りも何か気まずい雰囲気になっている。


 しかし、一番、気まずいのは私だ。


 私はどうすればいいのだろうか?

 

 というか、私、これまで一言も喋っていない。



「エリザベス! 貴様を王太子の名のもとにこの国から追放処分とする!」

「殿下!!」


 あれ?

 何か攻略本にそんな展開が書いてあった気がする。

 無理やり過ぎない?

 クソゲーじゃん。


「本来なら死罪を命じるところだが、貴様の家は公爵家だ。そのことを加味し、追放処分にとどめてやる。実家に感謝するんだな」


 ありがとう、パパ(棒)


「お、お姉様は追放処分になるのですか? お姉様、私がついていますから大丈夫です」


 何が大丈夫なの?

 というか、もう決定事項なの?

 王子ってそんな権限あるの?


「何を言っているアン、お前は私の妃になるのだろう?」

「「「は?」」」


 ちなみに、私の初ゼリフである。


「で、殿下?」

「私って、王妃様になるのですか? ……何故?」


 もうこの場にいる全員がドン引きしていると思う。


「何故って、私のプロポーズを受けてくれただろう?」

「いえ、そもそもプロポーズされたこともないです」

「…………」


 大臣はついに頭を抱え、項垂れてしまった。


「恥ずかしがるな。もしかして、身分差を気にしているのか? それはこれから2人で打ち破ればいい。父上もきっと納得してくれるであろう」


 あ、攻略本に書いてあったセリフだ。

 すげー、キモい。


「あの、身分差とかじゃないです。私は殿下とは結婚できません」


 でしょうね。


「何故だ!?」


 何故だ、じゃないでしょ。


「私はお姉様と結婚するんです!!」

「「「は?」」」


 本日、2度目のセリフである。


「お姉様は私とずっといてくれるって言ってくれました」


 配下としてね。

 メイドくらいにはしてやろうかと思ってたんだけど。


「それに、私は何度もお姉様と寝ました!!」


 言い方―!!

 私の部屋に泊まっていっただけじゃん!

 その言い方はマズいでしょー!!

 てか、貴様、わざとだろ!!


「そ、そうですか。ま、まあ、人それぞれですからな……」

「…………」


 大臣は復活したが、今度は王子が死んだ。


 もはやこの場はカオスだ。


 私はこの場にいるのが辛い。

 こんな大勢の貴族の前でこんなセリフを言われて、私はこの国の王になれるのか?


 いや、そもそも、結婚できるのか?


 完全にそっちの人と勘違いされている。


 そうだ、否定しよう。


「あ、あの、寝たというのはそういうことではなくて、一緒のベッドで寝たということですよ? 皆さまが思うような関係ではありません」

「でも、私、お姉様のおっぱいを触りました!!」

「貴様、黙れ!!」


 ザワザワ、ヒソヒソ。


 もうダメだー。

 頭のおかしいヤツがここにもいたー!


 私の覇道がここで終わるのか?


 否!!


 私には攻略本があるのだ!


 えーと、なになに。


「あの、エリザベス嬢? 何故、この場で本を読み始めるのですか?」


 百合ルート。

 すべての攻略対象キャラとイベントを発生させなければ、百合ルートに入れます。

 百合ルートに入れば、舞踏会でプロポーズすることが可能です。

 なお、このプロポーズは100%成功します。

 国中から祝福される超ハッピーエンドです。



 ………………よし、逃げよう。



 私はこの場で逃げようと思ったが、アンの手が私の腕を捕える。


 な!?

 離せー!


「お、お姉様!!」


 ヤバい、ヤバい!!

 私の覇道がー、女王の座がー。


「初めて会った時から…………」


 言うな―!!

 神様、助けてー!!

 私はノーマルなのよ!

 普通に男の子と結婚したいよー。


「好きでした!!」


 ギャー!

 いや、まだ、大丈夫!

 これはライクだ!


 そうだ! 魔法を使おう!

 さすが、私! 天才だ!!


 テレポーート!!


 …………あれ?


「ふふ、お姉様、無駄ですよ。私は聖女なんですから魔法をキャンセルする魔法も使えるのです」


 は?

 貴様はまだ、聖女になっていないだろ?

 というか、何で自分が聖女になることを知っている?


「お姉様、それ、『恋スキ』の攻略本ですよね?」


 『恋スキ』とは私が転生したこの乙女ゲームの名前だ…………え?



「ふふ、私、好きな人がいたんです。その人はすごく頭の良い人で、ずっと憧れてたんです。その人と同じ大学に行くために、頭の悪い私はすごく勉強を頑張りました。でも、ダメでした。私はショックで病みました。でも、さらにショックなことが起きたんです。それはその人が心臓麻痺で死んだことです」


 それは気の毒に。

 お悔やみを申し上げます。


「えへへ。彼女は私にとって、すべてだったんです。だから、ショックのあまり、私も心臓麻痺で死んじゃったんですよね」


 な、何、言ってるの?

 あなたは生きてるじゃない。


「そしたら、お爺さんが目の前に現れたんですよ」


 へ、へー。

 まさか、その爺、ハゲてないよね?

 ね?


「お爺さんは私を好きな世界に転生させてくれると言いました」


 デ、デジャブかしら?


「私は願いました。好きな人と同じ世界に行きたいと! そして、今度こそ結ばれたいと!!」


 願いはかなわない方が幸せって言うよね?


「そしたら、お爺さんはこの世界の主人公に転生させてくれました。そして、助言してくました。男と必要以上に話すなと、そして、舞踏会の場所で告白すれば結ばれると!!」


 じじいー!!

 貴様、私を嵌めたな!!


「でも、1つ、問題があったんです」


 1つかな?

 いっぱいあると思うよ。


「肝心な梅子さんが誰かわからないことでした」


 梅子?

 聞いたこと、ないなー(棒)


「でも、一目見て気づきました!! そして、一緒にいて確信しました!!」


 勘違いじゃない?

 人間って、似た人が3人いるらしいわよ?


「いえ、私が梅子さんを間違えるはずがありません!!」


 !?

 心を読まれた!!


「こんなに頭が良くて、いつも自信満々で野心家なのは、あなただけです!!」


 あわわ。


「私はこの乙女ゲーを、あなたを攻略します!!」


 するなー!!

 私には世界征服という野望があるのだ!!


「梅子さん、いえ、お姉様!!」


 あかん。

 ロード! ロード!! ロードー! ローードぉー!

 何故、ロードが出来ない!!

 ゲームでしょーが!!


「好きです!! 愛してます!! 必ず幸せにしてみせます!!」

「ま、待ちなさ……」

「私と……」


 聞けー!!


「結婚してください!!」


 イヤだー!!

 私の野望がー!!

 

「はい、喜んで」


 GAME CLEAR

 TRUE END~百合ルート~

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