第11話 無謀とも呼べる覚悟で

「数原……アンタ、『七不思議狩り』とか……してないわよね?」


 普段から吊り目が印象的だが、この時ほどその恩恵を得ていたことはないだろう。火口茜ひぐちあかねの鋭い視線がオレを刺す。


 どうやら疑われているらしいな。やはり目の前で『力』を使ったのはマズかったか……。といっても、向こうに証明する手立てはない。今回も軽めに流して……


「……っ!」


 やろうかと思っていたのだが、火口の瞳からツーっと零れ落ちていくものがあって……どうにもやりづらい。


「何故そう思う?」


 ゆえに返す言葉も向こう任せ。相手の出方で方向性を決めるこすいやり方さ。


「だって『誘い老婆』から逃れたのだっておかしいし、さっき絡まれた時も急に相手が倒れるなんて都合良すぎるでしょ⁉ おまけに『考えがある』とか言って期待持たせるし……。あの状況で普通、そんなこと言える? それとも嘘だったの⁉ ねえ⁉」


 語気が強まる度、零れゆく雫もその量を増す。


 すると、その直後……


「昨日の『七不思議狩り』……あれ言い出したの茜なんだ。だからたぶん……責任感じちゃってるんだと思う。何かに縋りたいんだよ。きっと……」


 隣にいた水戸葵みとあおいが、聞いてもいない解説をオレへ耳打ち。その縋りたい『何か』がオレだと? なんでまた……と思いつつも、存外その勘は正しい。


 だが、オレは――


「『都合が良すぎる』、か……。その言葉、そっくりそのまま返させてもらうよ」


 動かされない。少なくとも、その不動たる扉に触れない限りは。


「は……? どういうことよ……」


 火口の眼差しが、空気を切り裂かんばかりに、より鋭さを増す。


「お前のその推理、果たして都合が良すぎるのはオレだけか? お前にも都合がいいだろう? その方がこの罪悪感という地獄から抜け出せるんだからな」

「――ッ⁉ そ、そんなことは……!」

「だが、それは間違っているぞ」

「え……?」


 しかし、一転……火口の勢いが削がれ、目元が惑い始める。オレの言葉で。


「お前が責任を感じることなんぞ、なんにもないってことだ。星羅せいらは流されて付き合うような、そんな意思のない奴じゃない。行きたくないなら、ちゃんと断る。そういう奴さ」

「でも……私が言い出さなきゃ……」

「ついていったってことは少なからず興味があったってことだ。現に能力を使ってどこぞへと行っただろう? 自分の意思で。つまり、自己責任ってことさ。それで仮に帰れなくなったんだとしても、そりゃあ自業自得以外の何物でもない。だから……お前のせいじゃない」


 らしくもないが、かといって嘘偽りのないオレの言葉は、良くも悪くも火口の心に真っ直ぐ届き……


「数原……」


 小さな笑みを齎す。


「わかったら、もうこんなことやめてさっさうちに帰れ。どこに能力者がいるか分かったもんじゃないからな」

「ふっ……アンタみたいに?」

「まだ言うか」


 ほんの少しだけではあるが、空気が柔らかくなったように感じた。火口も切り替えるように目元を拭ってたし、オレも鷹志たかし以外では久方ぶりに感じる感覚だった……かも。


「だって普通『考えがある』なんて、あんな状況じゃ言えないでしょ? ……それとも本当に嘘だったり?」

「どうだろうな。まあ、期待はするな」

「そう……わかった。なら、これ以上は何も聞かない。アンタに任せるわ! ……ありがと」


 火口の太陽の代わりを務めるが如き笑顔は、女王クイーンと呼ばれるのに相応しいくらい眩しいもんだった。そんじょそこらの男は普段のギャップも相まってイチコロだろう。……と、表通りへと駆けていく背を見て、オレはそう思った。


「ボクからもお礼を言うよ。ありがとう。やっぱり数原くんなら、なんとかしてくれると思ってたよ」


 水戸はそう言うが、オレにとっちゃ、何のことだがさっぱり。その旨を彼女へ伝えると、


「キミには注目してると言いたいんだよ、数原くん。昨日今日とお世話になったってのもあるけど、キミは本物のクールガイだからさ。ボクもどちらかというと、そっちに見られがちだけど、中身はこう見えても、そのぉ……女の子なんでね。そういった諸々含めて、いろいろ参考にさせてもらうよ。それじゃ!」


 ……うん。改めて聞いても、さっぱりだ。どこか恥ずかしそうに頬を染め、微笑み、火口を追いかけていくその姿を見て、オレはそう思った。


「はぁ……」


 なんだかドッと疲れた。天を仰ぎ、オレは溜息をつく。


 とにかく任された以上はやるしかない。正直、できるかどうかなんてわからんけど、オレの得た『力』は考え方一つで、無限の可能性を生み出すと……そう信じてる。


 では、どうやって星羅あいつを連れ戻すというのか? 一番手っ取り早いのはやはり、昨日もやろうとした――『時間遡行』だろう。まあ、昨日のは残弾不足で空振りとはなったが、クールタイムさえ設ければ、まだ可能性はあるとオレは見ている。


 それでもダメなら……。別世界へと姿を消したあいつの下に。



 『世界自体のチャンネルを変える』。そんな無謀にもほどがある策でな。

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