モジコイ

小池 宮音

第1話

 朝登校して、自分の机の中に手紙が入っていたので、わたしはとっさに隠した。辺りを見回して誰にも気付かれていないことを確認する。


 今日は朝からとてもハッピーだった。朝食の目玉焼きはひとつの卵から黄身が2つ出た双子だったし、信号が全部青だった。占いは見忘れたけど、多分1位だ。夏が終わって10月に入り、朝は少し肌寒くなってきたけど、空は青くてとっても気持ちのいい朝だった。


 それからこの手紙。ノート1枚をちぎって半分に折り、『この机の持ち主へ』と達筆で書かれている。すごく字がキレイ。お習字やってる人なのかな。


 恐る恐る中を開いて書いてある文字を読んだ。


『はじめまして。放課後の補習でここの机を使わせてもらってる者です。突然のお手紙、ごめんなさい。どうしてこのお手紙を書いたかというと、お礼がしたかったからです。いつも机をきれいにしてくれてありがとう。おかげで勉強がはかどっています。これからもよろしく。3年1組 高橋秀平しゅうへい


 わぁ。3年生の先輩からだった。この教室は2年1組で、夏休みが開けた9月からの放課後は、これから高校を受験する3年生のために補習を行う部屋として使われる。その時に一番前の窓際のわたしの机を使うのが、この手紙の高橋先輩なんだろう。友だちと手紙交換はよくするけど、こんなにていねいなお手紙をもらったことがないので、すごく嬉しかった。それに何より、字がすごくキレイ。止めはねがきちんとできていて読みやすく、バランスがいい。きっとすごく勉強のできる先輩なんだろうな。


 お手紙をもらったら返さなくちゃいけない。たまたまレターセットをカバンに入れていたのでそれに書くことにした。わたしはお習字とかやっていないので字には自信がないから、いつもよりゆっくりていねいに書こう。えーと……『高橋センパイへ。はじめまして。お手紙ありがとうございます。わたしは大川詠美えみです。こちらこそいつもキレイに机を使ってくださってありがとうございます。お勉強、がんばってください! 2年1組 大川詠美』


 ……短いかな? かなり空白が目立つ。あ、絵が得意だから力こぶを作った犬の絵でも描こう。頭にハチマキを巻いて目をギラギラに燃やしてふきだしをつけて「ファイト!」って言わせて……ちょっとごちゃごちゃしてしまった。でもまぁいいか! これ以上のお返事が来ることはないだろうし、読んでくれるかも分からないし。


 わたしは全部の授業が終わると、軽い気持ちで書いた手紙だけを机の中に残した。




『大川さんへ。お返事ありがとう。絵、上手だね。美術部なのかな? この絵のおかげで苦手な数学もがんばれます。本当にありがとう。高橋』


 翌日の朝。机の中にお返事が入っていた。まさか書いてくれるなんて思ってなかったから、素直にうれしい。そっか、数学苦手なんだ。わたしと一緒だなぁ。それにしても本当に字がキレイだな。そうだ。絵をほめてもらったからわたしは先輩の字をほめよう。ほめられたらやっぱりうれしいし、ステキなことはステキだと伝えたい。


 わたしはまた先輩に返事を書いた。

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