ルフトリッター~幻獣と東の聖女~
赤木フランカ(旧・赤木律夫)
プロローグ
Mission 00
鋭く切り立った山脈の間を、ジグザグに曲がった渓谷が走っている。山脈の斜面には雪が積もり、所々黒い岩肌が露わになっていた。
目を凝らすと、白い雪の上に赤やオレンジの服を着た人々が列をなして歩いているのが見えた。恐らく、登山者の一団だろう。
登山者の一人がこちらの存在に気付いて顔を上げる。彼の眼鼻の形や、驚愕と困惑が入り混じったような顔がはっきりと見えた。
その一瞬後には、登山者の一団ははるか後方へ過ぎ去っていく。
レーダーサイトによる探知を避けるために、戦闘機を操縦するパイロットは渓谷を縫うように飛んでいた。コンピューターの補助があるとはいえ、一歩間違えば斜面に激突して命を落とすかもしれない。
自殺行為にも近い危険な任務だったが、パイロットは自らの意志で作戦への参加を決めた。誰かに強制された訳ではない。祖国への純粋な愛と、美しき土地を汚す異民族への義憤を胸に操縦桿を握っている。
渓谷を抜けて、目の前に平野が現れる。作戦の第一関門は突破したが、まだ気は抜かない。
パイロットは顔を上げ、キャノピーの外の様子を窺う。白銀の田園地帯の間を、黒い高速道路が緩くカーブしながら伸びている。その先に、伝統的な石造りの建物とガラス張りのビルが混在した街の影が見えた。
ヘルメットのバイザーに街の航空写真を映し出し、パイロットは実際の景色と見比べる。
地図上では、幅の広い河が街を東西に分けるように流れているのが確認できる。その河の上には、建造された時代によって様式の異なる五本の橋が架かっていた。街の南――パイロットから見て右から二本目の橋は、五本の内で最も新しく、交通量も多い。
その橋の中間地点に、戦闘機のレーダーは強い電磁波を放つ物体を捉えていた。あれこそ、今回の作戦の攻撃目標だ。
「目標を捕捉。
パイロットは交戦を宣言し、武装の安全装置を解除する。膝の上のディスプレイで装備している武装を確認し、その中から巡航ミサイルを選択する。装弾数は右の主翼に一発のみ。失敗は許されない。
このミサイルが発射されれば、ノルトグライフとヘドウィグの間に友好関係など存在しないことが証明される。二つの国、二つの民族の間にあるのは、憎悪以外ありえない!
高鳴る鼓動を感じながら、パイロットはミサイル発射ボタンに指を置く。
民族の誇りのために戦った英霊たち、屈辱の中で死んでいった祖父母の魂、変わり果てた祖国で生きてきた今までの自分……全てがこのボタンを押すことで報われる!
ミサイルが目標を捉え、ロックオン完了を伝える電子音がヘルメットの中に響く。
「そ、祖国に栄光あれぇッ!」
震える声で叫び、発射ボタンを力強く押し込む。主翼のミサイルが発射され、遅れてバランスを取るために反対側に搭載していた増槽が切り離される。
その振動が背中に伝わった瞬間、パイロットは言葉にできない幸福感に包まれた。
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