第7話
昼頃、墓地から家に戻ってくると、妻が玄関口にうずくまっていた。私は、妻に駆け寄った。
「死んじゃった」
燕の子が落ちても痛くないようにと、玄関口に敷き詰めたバスタオルの上で、ボロボロになった燕の子が、親兄弟の糞に塗れていた。不自然に捩れた首は上を向き、光のない眼が、巣を見上げていた。その全身に、ただ落ちただけではつかないはずの傷があった。私が巣に戻してからも、この弱った燕の子は居場所を確保することができず、兄弟姉妹たちに散々つつかれたのだろう。
――こんなにも、違うものなのか。
と、私は死んだ燕の子を見下ろした。昨日の、瀕死とはいえまだ息のあった燕の子と、今、私の足の先で完全に死んでしまった燕の子とでは、一目で判る程、残酷なまでに違っていた。私は膝が震えるのを感じ、あわててその場にしゃがみこんだ。
涙が滲んだ。だが、悲しくはなかった。残酷なことだとは思う。しかし、そのような私の感情はこの燕の子とは無縁な、私自身の無責任な感傷に過ぎず、しかもそんな感傷に浸る資格など、私にはなかった。私は、ただ、済んだのだと思い、隣にいる妻の顔を盗み見た。死んだ燕の子を見つめている妻の目に、涙はなかった。
「埋めてあげよう」
「ええ」
私は燕の子の骸から糞を拭って姿勢を整えて、妻が持ってきたティッシュに包んだ。
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