第166話 COVID-19ワクチンとSARS-Cov-2ウイルスの進化

全国薬害被害者団体連絡協議会、という会がオンラインで11/5に「第24回薬害根絶フォーラム」を開催する、という記事を数日前に見た。「薬害」のことについて書こう、とも思ったのだが、それぞれの薬害、背景や根本原因がそれぞれ異なっており、それだけで一つ卒業論文程度のものは書けそうな印象をうけた。同フォーラムでは現在のCOVID-19治療薬やワクチンの多くで行われている「特例承認」についても議論が行われる予定である。


いくつかのホームページやネットニュースで「特例承認」された薬剤について「安全性が担保されていない」との批判を目にするが、私は「安全性が担保されていない」ということがどういうことなのか、理解できない。言葉があいまいで明確な基準がなく、曖昧で不適切な印象を与えているように私は感じている。


薬の安全性については、国内で正規の手順を踏まれて承認された薬剤も含め、「100%の安全性」を担保された薬剤は存在しない。薬やワクチン、内視鏡などの侵襲的な処置が必要となった時に患者さんから「大丈夫ですか?」と問われることはしばしばだが、その時には必ず、「医学の世界には、0%と100%はない、と思ってください」と説明している。


考えてほしい。私たちが古くから口にしている小麦やコメ、牛乳などでもアナフィラキシーを起こして命を落とすことがあるのである。COVID-19ワクチン接種後に原因の明らかでない死亡が起きている、ということを問題視しているが、おそらくお餅をのどに詰めて死亡、あるいは心肺停止蘇生後脳症を発症し、臨床的脳死状態になった人の方が多いと思われる。研修医時代、ERで数例、朝食に食べたパンをのどに詰め、心肺停止状態で救急搬送された人も数人診ている。だからと言って「小麦を全般的に禁止」とか「お餅を全般的に禁止」なんて話は聞いたことがない。


閑話休題。先に述べた「薬剤根絶フォーラム」、薬害をゼロにする、ということを目指している、ということだが、「交通事故をゼロにする」といっても車が走っている限り交通事故は起きうるのと同様に、薬を使う以上、「薬害」はゼロにはできない。ただし、人為的なシステムの問題、利権などが絡んだ結果としての「薬害」はゼロにしなければならないと思っている。


さて、今回の表題、COVID-19ワクチンとSARS-Cov-2ウイルス(COVID-19の原因ウイルス)の進化の話である。ワクチンが「特例承認」となっていることについて、「製薬会社の利権がかかわっている」などという意見を比較的ネットニュースで見かけるが、「特例承認」とは、「健康被害の拡大を防ぐため、他国で承認販売されている、日本で未承認の薬剤を、通常より簡略化した手順で承認すること」と定義されており、その薬剤は「日本と同程度の薬剤承認制度を有する国で承認を受け、使用されているもの」とされている(細かいお約束はその他、いくつもあるが)。


COVID-19 第1波の時、感染者の死亡率は約6%であった。志村けんさん、岡江久美子さんがCOVID-19で亡くなられたのは衝撃的であった。その時には私たちはCOVID-19について、戦うための知識、道具などは何もなかった。そんな中で、mRNAワクチンの登場は大きな転換点だった。特別承認とはいえ、武漢株に対して海外での治験では発症予防効果95%という非常に強力な予防効果を呈していた。


20年近く内科医をしているが、この3年ほどはインフルエンザの患者さんを診察していないが、その前を振り返ってみていると、インフルエンザの重症度は大きく変わってはいない印象である。冬季になると、結構な高熱や頭痛、咳や鼻汁の症状で来院されて、検査をするとインフルエンザでした、というのが毎年のことで、流行ごとに感染の頻度が増えてきたり、重症度が軽くなる、ということはなかった。インフルエンザもRNAウイルスであり、よく変異を起こすウイルスであるのに、である。


一方のCOVID-19は、流行の波が起きるたびに、感染力は強力になるが、病毒性は明確に低下している。大阪府のデータで、第7波の初夏のころのデータを確認したが、ワクチン未接種の高齢者の死亡率は0.08%となっていた。もちろん治療薬や治療法の確立もあるが、明らかにウイルスの病毒性が低下している。もちろんワクチン接種回数が増えるほど、死亡率は低下している。


COVID-19ワクチンは、原因ウイルスであるSARS-Cov-2の進化(変異)に対して、非常に大きな選択圧となっている(いた)のではないかと推測している。ワクチン接種が進まなければ、現在のような弱毒ウイルスとはなっていないのではないか、と私は思っている。


現在のCOVID-19ワクチンに対する批判として、「発症予防効果がなく、ワクチン接種にもかかわらず、1日に20万人以上の感染者を発生させている」というものがあるが、少なくとも、現在流行中のSARS-Cov-2ウイルスに対して、武漢株と同様の発症予防効果は期待できないと思っている。ウイルスの表面抗原は、いわば「人間の顔」と例えても良いと思うのだが、「武漢株」と現在流行中の株、例えるなら、ダウンタウンの松本氏と浜田氏と同じくらい顔が異なっていると思われる。逆に、そこまでの選択圧をかけられるワクチンだったのでは、と思っている。


100%の安全性のある薬物は存在しない、と書いたが、今回初めて開発されたmRNAワクチンのため、どのような副反応が出るか、まだまだ分からないことが多い。もちろん開発されて数年のため、長期毒性なんて、評価のしようがない。しかしながら、COVID-19が高い致死率であった疾患から、ある意味「かぜの延長線上」というものになった、という点で予想以上にワクチンの果たした役割は大きかったのではないか、と個人的には思っている(証明の仕様はないが)。

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