第122話 高いなぁ…。

私たちの高校生時代は、ちょい悪=バイクに乗る、のイメージで、なんだかんだとバイクに乗っている奴が多かった。学校の方でもいわゆる「3ない運動(免許を取らせない、載せない、買わない)」を熱心に行なっているところが多かった。尾崎 豊の曲「15の夜」の歌詞に「盗んだバイクで走り出す…」という歌詞があるが、今の若い人たちにはあまり響かないだろう。

今の若い人たちが思う以上に、私たちが若いころのバイク熱は高かったのである。


個人的には、高校時代にはバイクには全く興味がなく(以前書いたように高校時代は「ギター」と「初恋」の時代)、自宅に原付バイクはあったのだが、全く乗ろうとも思わなかった。いつも自転車で出かけていた。


最初の大学に通い始めたころ、私は電車で通学することを選択したのだが、最寄り駅には普通列車しか止まらず、途中で必ず特急や急行の通過待ちをし、乗換駅での接続はとても悪く、私の乗った普通列車がホームに入ってくると同時に、向こうのホームから、私の乗りたい急行列車が出発していた。そんなわけで、片道90分近く時間がかかっていた(今は、モノレールができたので、実家から徒歩5分の所にあるモノレール駅から乗れば、30分程度で通学できるのだが)。入学したての4月は電車で頑張って通ったのだが、直線距離ではそれほどでもないのに90分もかかるのはうんざりしてきた。

という事で、自転車で通うことにしてみた。地図を確認し、一部、細い道を抜けるが、片道50分に通学時間が短縮された(!)。ただ悲しいことに、山(うーん、「丘」というよりはやはり小さいが「山」だろうと思う)を3つ越えなければならなかった。


5月ともなると、結構暖かい、いや、暑い。しかも3つも山を上り下りして、最後に山登りをして学校に到着するのである(刀根山→待兼山)。学校につくと汗だくになっている。


大きな大学の1年生である。個人用のロッカーなんてものは存在しないし、どこかに更衣室があるわけでもない。シャワーなんてものもない。というわけで、しばらくは「汗臭~い」出で立ちで授業に出ていた。さすがにこれは印象が悪い。しかし、片道90分もうんざりであった。


そんな時に、ふと、我が家の誰も乗っていない原付バイクに目が行った。「そうだ、これなら汗もかかないだろうし、自転車と同じコースで通えるだろう。どうして気づかなかったんだ」と、それまでの自分の観察力のなさを恥じた(ずっと、自分の自転車の横に原付バイクがあったのだが)。


そんなわけで、これまた自転車で試験場に行き、原付免許を取ったのが運の尽きである。


初めて、自宅の原付バイクのカギをひねり、スピードメーターの中の各種インジケーターが点灯した時の予想外の感動は今でも覚えている。


我が家の原付バイクは、伯父がバイク屋さんをしていた関係で、走らなくなったYAMAHAのJOG3台を1台にまとめて走るようにしたバイクで、親父が3万円で買ってきたものだった。エンジンのキーと、ガソリンタンクと、バッテリーカバーのキーがそれぞれ異なるというお笑い物のバイクだが、その当時でも旧型のJOGで、リミッターがついておらず、原付なのにスピードメーターは70km/hまで刻まれていた。もちろん、通学時間は50分→30分とずいぶん早くなった(時に(?)メーターを振り切って走っていた、というのはナイショ)。


そんなわけで、原付バイクに乗ってから初めて、私はバイクにドハマりした。半年後には中型免許を取り、最後には大型二輪免許を取るところまで行ってしまったわけである。


閑話休題。そんな私たちの世代も、仕事につき、家族ができ、子供を育て、とバイクに目を向ける余裕もない時代が過ぎていった。そして最近「リターンライダー」という言葉がメジャーになってきた。私たちの世代が、若かりし頃に楽しんだバイクにもう一度乗る、という動きがそれなりに大きいとのことである。今のバイク屋さんの主な客層は40代後半~50代と、まさしく私たちの世代とのこと。


そんなわけで、バイクは中古車市場もインフレ傾向にある。中古バイク雑誌のホームページから、思い出のバイクを検索するとどれも高いこと高いこと。新車で販売されていた時の定価よりうんと高くなっているものがほとんどである。もう30年ものだよ?


10年ほど前には二束三文のようなバイクにまで、プレミアがついている。買えないことはないが、そこまでお金を払って乗りたい、というわけでもなく、乗る暇もない。

以前にも書いたが、私にとって、車もバイクも「走ってナンボ」。正直なところ、機械なので、使わなければだめになってしまうのはよくわかっている。高いお金を払って、ただの「お飾り」にはしたくない。とはいえ、バイクが欲しいのも正直なところ。学生時代、貧乏で手の届かなかったバイクに今は何とか手が届く、と思えば正直心は揺れる。もうあの頃のような体力も俊敏さも失っていると思っているにもかかわらず、である。


しかし、高いなぁ…。少なくとも、尾崎豊の歌のように、中学生や高校生が真っ当に乗れる代物ではなくなったよなぁ、と思う次第である。

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