エピローグ(2)

 煌々と天高く光輝く満月、それが反射する湖面、風で揺れる木々の心地よい音。


 いつ来てもここは神秘的で特別な場所に感じます。


「本当に良かったのかな?クリスちゃん達探してるんじゃ……。」

「大丈夫だろ。あの二人、俺達がいたらいつまで経っても進展しなさそうだし。」


 人混みに紛れてクリスちゃん達を撒き、私達は禁足の森の湖に来ていました。


「街の方はあれだけ賑やかなのに、ここはいつ来ても静かだね。」

「まあ、この場所を知ってるのは俺達以外じゃ、母さんくらいだろうからな。」


 私達だけの秘密の場所――。


 クリスちゃん達にすらこの場所のことは教えていません。


 ここだけはいつまでも二人だけの思い出の場所であって欲しかったから、悪いとは思いつつも黙って抜け出してきてしまいました。


「星、やっぱり綺麗だな。これを見るだけでも上界に来た甲斐があったと思えるよ。」

「そっか。下界だと上界の大地が邪魔しちゃって星は見えないんだっけ?」

「基本的にはな。前に行商のおっちゃんに聞いた話だと、海の方まで出れば見えるらしい。けど、流石に俺もそこまでは行ったことないからな。」

「海?」

「ああ、そっか。ユナウ達は逆に海を知らないのか。上界の果てはたぶん崖だもんな。」


 ファラはそう言って屋台で買ったリンゴ飴を舐めながら湖面を見つめました。


「海はさ、でっかい湖なんだ。この湖を何処までも果てしなく伸ばしたような、視界の端から端まで全部水だけで収まっちゃうくらいの。」

「えっ!?そんな大きな湖が下界には広がってるの!?」

「ああ。空みたいにどこまでも続いてるんだ。」

「私、見てみたい!」


 それはユナウの目を星のようにキラキラ輝かせ、そして胸を高鳴らせた。


 その様子にファラはクスクスと笑いながら、同じように期待に胸を膨らませた。


「じゃあ、下界に行ったらまずは海を見に行こうか。」

「うん!」


 期待のあまり、気づけばユナウはファラの顔に自分の顔を近づけていた。

 

 風が止み、木々の揺れる音がなくなって静寂がこの場を包み込む。


 けれど、二人はそれに気づいていなかった。


 互いに相手の目だけを見つめ合う。


 最早自分達以外の存在を忘れてしまった。


 徐々に二人の距離がなくなる。


 そして、二人は重なった。


 その瞬間――真っ暗な空には色鮮やかな花が咲く。


 花は次々に咲き乱れ、それは湖面をも満開にした。


 やがて花は枯れ、二人はゆっくりとお互いの顔を見つめ合う。


 彼女の脳裏に、初めてした時の記憶が甦った。


 ファーストキスは苺味。


 皆はそう言うけど、私は違った。


 けれど、あれはあれで悪くはなかった。


 そして彼女は再び思い出す。



 ファーストキスは土の味。でも、セカンドキスは――。



 Fin

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