第四章 二つの王家

二つの王家(1)

 謁見の間――城の四階に位置するその場所に王はいた。


 二つある玉座の一方に腰を掛け、肘掛けに頬杖を突いて憲兵の報告を待っていた。


「ここまでは計画通りですが、少し手こずっているようですね。」


 そのすぐ後ろで錫杖を手にして立つ者が一人。


「戯れを聞く気分ではない。ナスタシアの方は?」


 謁見の間にはこの二人以外にもう二人いる。

 憲兵がほとんど出払っている中、王を護する為その場に残っている側近である。


 側近の二人は現状が全く理解できていなかった。

 今回の件を知らされていないのである。


 側近は通常の憲兵よりも立場はずっと強い。

 王に意見する事は叶わずとも、問いを投げかけることくらいは許される立場にあった。



 だがしかし、この時ばかりは混沌とする二人の圧が側近の口を易々と封じ込めていた。



「敵として見た方が宜しいかと。以前からの言動や審判の間における発言からしても、協力する素振りはあれど、結果的に見れば我々の邪魔をしておられます。」

「どう始末をつけるつもりだ?」

「私が直接手を……と思ったのですが、元老院が殿下を庇っておられます。元老院長は今回の殲滅計画には反対のようです。計画の全容を話したところ、お怒りのご様子でしたから。最悪の場合、元老院と全面的に対立することになるやもしれません。」


 王は呆れるように息を吐いた。


「所詮は臆病な老耄の集まり、か。まあよい。元老院はその気になればいつでも解体できる。ナスタシアにしても、本気で余の邪魔をするようならその時は――。」

「今回は大事なだけに、民の記憶を操作するにもかなりの時間が必要になるかと。」

「構わん。重要なのは下界人の抹消――記憶からも、歴史からも、その存在を抹消するのだ。そのためにお前がいるのであろう、エリメラよ。」

「仰せのままに――。」


 そう言い残して主教は音も立てずに姿を消した。


「お前達も、もうよい。表で待機せよ。」


 王は厄介払いするように側近をそこから追い出した。



 広々とした謁見の間には王ただ一人――。



 先程の地震で場内の電気系統の一部が損壊したためか、謁見の間は明かりを失い、窓から射し込む陽光のみが玉座を照らしていた。




「レクロリクスの亡霊め……。その身魂、必ずや余の手で断ち切ってみせようぞ。」




 静寂に包まれた物悲しいその場所で、王は一人呟いた。

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