黒幕の独白

「例の嫉妬の契約者。失敗したか」


 暗闇の中。一人の男がぼやく。


「結局使えなかったか、彼女は」


 紫髪の少女の姿を思い描く。

 そのたぐいまれな嫉妬心を目にかけてやったというのに。

 全く、やはりはただの平民か。実に無能ばかりだ。

 まあ自分に比べればすべての人間は無能であることは、自分が一番よく知っている。元からさして期待はしていない。


 椅子に深くもたれかかって一人ごちる。


「まあ――――駒はあの娘だけじゃあない。いくらだって兵はいるし……それに、だってまだ手駒には残ってる」


 次に頭に思い描いたのは――――金髪碧眼の少女だった。

 アーネット・サン・ファーラウェイ。その姿を思う度に、苛立ちは増す。


「くそ、あの娘――――」


 持っていたワイングラスを握る拳に力が入る。


「しかし――――このアールグレイとかいうファーラウェイの従者。何者なんだ」


 既に彼の耳には、グレイがココアを懐柔したという話は伝わってきていた。悪魔に対抗できるようなただの従者が存在してたまるか。


「……もう嫉妬は使えないな。この少年も、向こうしばらくは様子見しなくちゃあ」


 そんなことよりも、と彼は手元の紙束を取る。


「まだまだ楽しみはある。あのアーネットをこの×××より格下にしなければ、この×××に輝く未来なんてない」


 彼は立ち上がると、ワイングラスを放り捨てる。

 地面に落ちて粉々に割れたそれには目もくれず、彼は上着を着て部屋から出る。


「メイド。お前に命令する。『』」


 黙ったまま頷き、動き出したメイドには目もくれずに彼はそこから立ち去った。

 残ったのは粉々に割れたワイングラスの破片だった。それらは差し込む光に反射してぎらぎらと光った。

 不穏な未来を象徴するように、割れたガラス片は従者たちによって掃除されるまで煌めき続けていた。



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