名探偵スウィッツ

「それで、カンニング犯についてだが」


 うきうきしながらスウィッツが校内図を広げる。


「おそらく侵入経路は屋上からだ」


 その図の一番上、この建物の屋上に指をさすスウィッツに、俺はそれは違うだろうと反論する。


「屋上? 登ったって言いたいのか? 無理だろ」

「侵入というよりかは……私の推測になるが。犯人は外から侵入したわけではない。最初からにいたんだ」

「ああ、なるほど……日中に屋上に隠れて、夜になってからそこから出たと」


 そこまで黙って聞いていたハイレンがようやく口を開く。


「確かに、結界がある外部から侵入した、ってよりかは現実味がありそうだけどよ。それは無理だぜ」

「おや、何故かな?」

「学園の鍵を閉める前に、熟練の警備員たちが見回りをしてるはずだ。誰一人にも見つからないのは不可能だろ」


 スウィッツはチッチッと指を振った。


「私たちは不可能を可能にする術を知っているじゃないか」

「何かの魔法を使ったって言いたいのか?」


 ご明察だね、と答えながらスウィッツは鞄から分厚い冊子を取り出す。


「これは今年度の宮廷魔術師たちが研究した新魔術だが……」

「なんでそんな極秘情報持ってるんだよ」

「私はこれでも軍務卿の娘なんだぞ?」


 そう言いながら、彼女はそのページをめくっていると、目当てのものを見つけたらしく俺たちにそれを見せてくる。


「あった、これだ」


【カモフラージュ・フラッシュ】

 光属性の上級魔法。光の進む方向を捻じ曲げることで術者を周囲から見えなくする。詳しい術式と媒介については下図を――――


「なんだそれすげえ」

「まあまあな魔力と、宮廷魔術師たちがやっとで編み出した難解な術式が必要だが、つまりは『透明になれる魔法』だよ」

「犯人はこれを使ったと?」


 スウィッツは胸を張ってその通り! と答えた。


「根拠はいくつかあるがね。まず簡単な侵入経路なら、優秀なこの学院の教員陣が気付かないはずがない。ということはつまり、この学院の教員たちは、「知らないから気付けない」のだ。透明になれる、などという魔術の存在を」

「まあ、うちは警備員も一級品らしいしな。ただの見落としってことはないだろう」


 そして! とスウィッツは興奮しながら続ける。


「この魔法には、その行使に条件があってね」


 彼女はページをめくると、その解説を読み上げた。


「光属性は知っての通り、太陽ないしは月、星々の光の力を借りることが多い。この【カモフラージュ・フラッシュ】は月の光を借り受ける。そのため満月の夜、その月下でしか使うことはできない!」

「ああ、だから屋上ってことか」


 全ての合点がいった。というか、聞いてみると確かにその通りにしか思えない。

 スウィッツは俺が思っていたよりもずっと賢いのかもしれないな。

 そこでふとハイレンが何かに気付いたように言葉を発する。


「というか、満月の夜……って、それは」


 その言葉に、俺もあ、と思い出す。

 そんな俺たちの様子を見て、スウィッツは高らかに言った。


「そう、満月の夜。今晩だよ!」

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