嫉妬編

カンニング犯をつかまえろ!

「あの噂を知っているかい?」


 スウィッツがそう話を振ってきたのは、夏も真っ盛りになった八月のころだった。


「あの噂?」

「どうも前回の試験問題が差し替えられていたらしいんだ」

「差し替え?」


 俺は前回の定期試験の問題を思い返す。俺は平均点だったが、あれがどうかしたのだろうか。


「どうも、事前に解答を見た奴がいたかもしれないらしい」

「それは……カンニングってこと?」

「そういうことだろうね。前日、テストの解答を保管していた部屋の鍵が壊されていた、とか」

「マジか。この学園、セキュリティは万全のはずだろ」

「そうだよ。だからあるのは……内部犯。生徒の誰かってわけだね」


 そんな手練てだれがいるとは、中々面白いとは思わないかい? と話を続けるスウィッツ。

 その話の流れに嫌な予感がした俺は、そっと立ち去ろうとしたが、彼女に服のすそを掴まれてうっと首がしまる。


「国の保安を預かるレスト家の娘としては放置してはおけないんだ! さあ、私たちで犯人を捕まえようじゃあないか!」

「ふん……スウィッツの案だってところは気にいらねえが、話自体は悪くねえな」

「ハイレンまで」


 息巻くスウィッツと、まんざらでもなさそうなハイレン。


「ズルして試験を突破しようなんて卑怯者は、この俺が制裁してやるぜ!」


 ズルして試験突破。なんか耳が痛い。

 ……というか、確かハイレンはあの試験で赤点を取って補習地獄に陥ったのだった。逆恨みじゃないだろうな。


「うーん、俺はそこまで興味はないけど……それに、どうやって犯人を見つけるって言うのさ」

「それに関しては私に案がある!」


 びしっと人差し指を立てるスウィッツ。


「もうすぐ次の試験問題が完成する頃だ! 犯人はそれもカンニングしようとするだろう」

「つまり現場をとっ捕まえるってことか。悪くないじゃねえか」


 すっかりやる気の二人に水を差すようで悪いが、俺は冷静にツッコむ。


「いや、流石に生徒がやることの範囲をこえてるだろ。教員たちだって警備を厚くするだろうし」

「分かっていないねえ、グレイ君」

「何が」

「これはチャンスなのだよ! 家名を轟かせると共に、この学園の中での地位を確固たるものにするためのね!」


 その言葉に、ああと思い出す。この学園は、成績優秀者を王宮魔導士に推薦してくれるのだ。

 そうでなくとも、王都でも中枢に近いこの学校の中で高い評価を得ることは、貴族たちにとっては重大なことなのだろう。


「まったく……貴族ってのも大変だね。じゃあ、頑張って」


 二人の努力に敬礼しながら席を立とうとすると、まあ待て、と二人に両脇から腕を掴まれた。


「……うん。頑張ってね、二人とも。それじゃ」

「冷たいなあ、私たちは友人だろう?」

「その友人をわざわざ事件に巻き込もうとするのはどうしてなんだ?」

「俺たちはアーネット様を信奉する同志じゃないか!」

「俺は仕事だ! お前は狂信者!」


 振り払うのも面倒になった俺は、ため息をついて二人に向き直る。


「……分かったよ。危ないことじゃなければ協力してやる」

「おお! これは心強い。これでこのクラスで魔術に通ずる3トップがそろったな」


 それでは計画を――――と話すスウィッツをよそに俺は考えていた。

 まあ、俺も不正をしかけた身とはいえ、自分から改心したのだ。自分が真面目に受けている試験で、不正が行われているならもちろんいい気分はしない。


 それに、ファーラウェイ家の評判を上げることは必要だ。ファーラウェイという名は、いくつかの事件が起こったため、四年後には大きく失墜する。それを防ぐためにも、できることはやっておこう。

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