パクパクですわ
翌日の昼休み。
レポートをなんとか提出した俺は、寝不足のまま机に突っ伏す。
「おいグレイ。学食行こうぜ」
「ああ……先行っといて」
ハイレンとスウィッツからの飯の誘いに応えると、顔を伏せたまま目を閉じる。
夏の陽気に、窓から吹いてくる風。
誰もいない講義室の静けさに、遠く蝉の声が聞こえる。
だんだんと眠たくなってきた俺は、その誘惑に耐え切れず目を閉じた。
「――――グレイ。グレイ?」
俺は夢の中で
「グレイ。起きて下さい」
彼女は微笑んで俺から遠ざかる。行かないでくれ――――
「グレイ!」
その声にはっと目が覚めて体をびくっと起こす。そこは講義室だった。
横を見ると、本物のアーネット様が机の上に座っている。
「……夢?」
「現実ですよ。グレイ、私がたまたま通りがかったら寝ながらうなされているんですもの」
彼女が鈴を鳴らしたように笑う。時計を見るとあれから30分ほどが経っていた。
「やべ、学食」
「もうとっくに人でごった返していますわ」
「ですよね……まずい、
起こしてくれたアーネット様に感謝を述べつつ、昼食をどうしようかと悩む。
するとアーネット様が右手に持っていた紙袋を机に置いた。
「学校に来る途中、最近開店したパン屋さんがあったので買ってきました。一緒にどうですか?」
「や、そんな。アーネット様の食事を」
主君のパンを横取りする従者なんているわけがない。もし地元のメイド仲間、特にフレンなんかに知られたらお叱りをくらいそうだ。
「構いませんよ、美味しそうだったのでつい多めに買いすぎてしまったんです。一緒に食べてくれるとありがたいですわ」
彼女の言葉に恐縮しながら、それならいただきますと返事をすると、満足そうに彼女は紙袋から美味そうなベーコンエッグの詰められたパンを取り出して、それを半分に割って俺に渡した。
「はんぶんこ、ですわ」
「良い匂いですね。いただきます」
かぶりつくと肉の旨味と香ばしいパンの味わいが口いっぱいに広がる。なんだかアーネット様に拾われて、初めて食べた料理の味を思い出した。
「美味いですね、これ」
率直な意見に、アーネット様もパクパクですわ~と同意する。
「ええ! これから時折、あのパン屋さんに寄ってみようかしら」
それから俺たちは最近顔を合わせていなかった分多くの話をした。ハイレンやスウィッツのことを話すと、彼女はころころと表情を変えて楽しそうにその話を聞いていた。彼女はふと、「グレイも楽しそうにしているようで、本当に安心しましたわ」と呟きを漏らした。やっぱり馴染めているか、心配させていたみたいだ。
――――昨日図書館で、アーネット様がどうとか聞こえたけど、やっぱり聞き間違いか
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