悪役令嬢の元貧民執事、人生二度目をやり直す ~時を巻き戻す力を手に入れた俺は、今度こそあの娘を救うため世界に立ち向かいます~
上井
逆行
処刑の時間は午後三時
宮殿の下の大広場。
普段は民の
人々の熱狂の先にあるのは――断頭台。
そこに拘束されているのは、美しい金色の髪を垂らす、
「戦争のせいで、俺の弟は死んだんだぞ!」
「飢える者だっているの! 何が『パンが無ければケーキを食べればいいじゃない』よ!」
地獄と化した広場で、無遠慮な声たちが彼女に投げつけられる。
そんな中、俺は手の中のナイフをかたく握りしめた。
心の中でカウントを数える。3、2、1――――今。
俺は突如、群衆の中から飛び出して、断頭台に向かって走り出した。
「なんだあのガキ!?」
「とっ捕まえろ!!」
異変を感じた衛兵が群がってくるが、それをかわして俺は彼女に向かって一直線に走る。
「――――アーネット様あああ!」
俺の咆哮に、あの人は弾かれたように顔を上げた。
言葉はなくとも、その目は、どうしてと告げていた。
「うおおおおおおおお!!!」
雄たけびと共に、断頭台に繋がる石段に掴みかかる。
「こいつ……! 力強え!」
「早く取り押さえろ! 生死は問わん!」
あと一歩のところで衛兵に押さえつけられ、抵抗しようとナイフを振り回した瞬間、背中に槍の一突きを受ける。鋭い痛みにくぐもった声が漏れ、身体から力が抜けていくのを感じた。
地に伏せたまま広場を見渡す。
目に入るのは、怒声を上げる男に、泣き叫ぶ女。
悪評を信じ込む愚かな民衆たち。彼女に全ての罪を着せた王族。
ふと、目に見える範囲の全てに途方もない「怒り」を抱いた。こんな奴らのせいで、どうして優しかった彼女が死ななくちゃならないんだ――
「――――ル! アル!? どうして……!」
怒りに
自分が死ぬと分かってもその表情を変えなかったあの人は、ただの召使だった俺のために、その両の目を見開いて、綺麗な金の髪を乱して叫んでいた。
こんな最期でも、初めてあの人のそんな顔が見られただけで、おれの特攻の甲斐があったってものか――
ぼんやりとそんなことを思いながら、この俺。アールグレイ・ファーラウェイはたった一つの命を落とした。
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