第2話:私が恋した人

 中学生になると、一人の女の子に恋をした。彼女の名前は夜明よあけひかり。綺麗な名前だと思った。それを口にすると彼女は「そうかな。雨夜あまよ月華つきかには負けると思うけど」と笑った。私はその笑顔に一目惚れをした。

 だけど、彼女には好きな人が居た。相手は男の子だった。鈴木すずきみなとという、彼女と同じ小学校の小柄な男の子。バスケ部だったけど、身長は160㎝もなく、歳上のお姉様達から可愛がられていた。

 彼はモテた。しかし、彼には同い年の従兄が居て、その従兄は彼とは比べ物にならないくらいモテた。クラス中の女子が彼に夢中だったと言っても過言ではないくらい。

 しかし、そのモテ男二人は彼女を作らなかった。従兄の方は一時期彼女が居たらしいが、すぐに別れたらしい。


 ある日、鈴木の従兄と同級生の男子のこんな会話をたまたま聞いた。


「俺、恋愛に興味持てないのかも」


 そう言った彼に対して男子達は「恋愛じゃなくて女になんじゃない?」と茶化した。またいつものパターンかと呆れたが、彼は否定せず「うーん。どうなんだろう」と曖昧な返事をした。

 彼は学年一頭が良かったが、少々鈍感で天然なところがあった。だから当時の私は、遠回しにゲイなんじゃないかと馬鹿にされていることに気づいていないのかと思っていた。

 しかし、今ならわかる。彼は本気で自分がゲイなのかもしれないという可能性を視野に入れていたのだろうと。きっと私のことも、クラスメイト達のことも、異性愛者ではない可能性を考えていたのだろうと。

 そして、光が好きだったあの人もまた、そういう人だったのだろう。

 そのことに気づけていたら、私の学生時代に何か変化があったのだろうかと今では思う。だけど、気づけないままで良かったとも思う。味方が居て、同性愛者である自分を好きになれていたら私はきっと、大好きな彼女のことを傷つけていただろうから。

 きっと、最初から私は彼女を愛する資格はなかったのだ。

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