第5話~王立魔導研究所の愉快な仲間たち~

「みんな~遅いぞぉ~!あなた達が到着するまでに、あたしは今回の爆発騒動の原因を突き止めました~!ついでに体重も5キロ増えました~!!これもあなたたちの来るのが遅かったせいなんだからねぇ~もう~っ!」 


「所長~遅くなってすみません…って!体重が増えたのは所長の食べ過ぎが原因でしょ…ぼくたちには関係のない話ですよ!」


眼鏡をかけた優しいそうな男性が呆れながらマリーベルに抗議する。


「そーよそーよ!あーしらには関係のない話よぉ~!こういうのを『パタカラ』って言うのよぉ~パタカラパタカラ~!!」


少し派手な見た目をした若い女性も彼女に激しく抗議した。


「……それを言うなら『パワハラ』だ…」


他の研究所職員とは明らかに雰囲気も格好も異なる風貌の男性が、口数少なく若い女性の間違いを指摘する。


「あーっ!そうとも言うわねぇ~!カムカムはとってもジーニアスねぇ~☆」


「はぁーーー、…そうとしか言いませんよ?ミランダさん」


「ええ~、ってなるとさー、まるであーしがジーニアスじゃないってことになるじゃ~ん?つまりはそういうことなの?ねぇ答えてよジバにゃ~ん!」


「いや…ぼくは別にそこまでは言って…」


「察しろ……つまりはそういうことだミランダ…そろそろお喋りなその口を閉じろ、いつまでたっても本題に入れん」


「ちぇー、カムカムのわからず屋~このおバカ~ほんっっっとジーニアスじゃないわ~でもお生憎さま~『上と下のお口両方とも』あーしは閉じることは出来ませ~ん!」


「………ッ!…下品な女め…」


「ミランダさん、……もう少し、その…はぁーーーなんだかな~」


「賑やかなところ悪いんだけど、そろそろいいかしら?……じゃあみんな心の準備はいい?今からあたし、とても大事なことを話すからね…驚かずによく聞いて。…ユメちゃん来て」


マリーベルの呼びかけに答える形で物陰からユメリアが姿を現した。


「生存者……ですか?…んっ?…エルフ、いやハーフエルフか………!……!?その眼は…ま、まさか…そんなぁ……バカなッ!!……つまりあの大爆発の原因は…」


「…うっそぉ!えええぇえええっと、……マジマジンガ~、なの…?あーし、実は『おとぎ話』くらいにしか思ってなかったんだけどな、その…紅い眼……」


「……………!『紅月の夜(こうげつのよる)』に生まれし者、紅い眼の持ち主とならん。…それ即ち魔王の証、魔王の象徴…世界を破滅に導くモノ』か…これは大事になるぞ…」


「…詳しく解説ありがとねカムシン、つまりその言い伝えの魔王がね…、この子、…ユメちゃんよ」


「……魔王の再来、こんな小さな少女が、あの恐ろしい破界の魔王エクスムンドと同じ魔王だと言うのかぁ……ッ!!!」


ジバンの顔が恐怖で歪む、いやそれは他の者たちも同じだった…。


「みんな~一旦落ち着こう~☆リラリラックスしましょう~!イェーイ!!………っで…さ…、あ、あーしたちさ、こ、こ、これからどうすればいいのかしら~?」


ミランダは明るく気丈に振る舞おうとするも、明らかに動揺し心に落ち着きのない様子だった。


「……紅月の夜、…『魔王の災月』…しかし……妙だな………いや、エクスムンドは確かに『異端な魔王』ではあったが…」


カムシンはひとり何か意味深に考え込んでいる。


「みんな落ち着い…まぁそんなの無理な話よね、だってあたしも冷静でいられてないもの…とりあえず王様に包み隠さず報告しましょう。そして…この子を保護してもらうの…どの道このままには出来ないからね。それにあの優しい王様ならきっとわかってくれるはず!!」


「……所長、…わかりました」


「りょっ!ショチョーの決めたことならあーしも賛同するよ!」


「………了解した」


「ってぇ!ことだから…ユメちゃん、何も心配する事ないからね!そうだぁ~!あんた達、この子に自己紹介しなさいよ!ほらほら~早くしなさい!!」


マリーベルに急かされるまま職員達は、各々ユメリアに対し自己紹介を始める。


「…ユメちゃん、はじめまして。ぼくはジバン、ジバン・K・マクシミリアンと申します。よろしければ仲良くしてくださいね…」


「じゃじゃじゃじゃーーーん!イェーイ!!あーしは『王立魔導研究所の絶対的完璧で究極なアイドル』こと、ミランダ・ミロ・ミルナどぅえええっすぅ!!ユメっち仲良くしようぜぇえええ!!!」


「おれは……カムシンだ…」


「あーユメっちユメッち~、カムカムは基本的に口数少なくて無愛想だけど~気にしないであげて~♪ただの『恥ずかしがり屋さん』なだけだから☆きゃわわ~…ってぇ!いたいいたいいたいいたい…いっっったぁああああい!!ちょっとぉ~ッ!カムカム、今あーしのことをぶったわねぇ!親父にもぶだれたこと……あっ!……ぶたれた記憶しかないか…あはは」


〈ガシッ!〉


すると突然ジバンがカムシンの腕を掴んだ。

ジバンのその優しい風貌からはとても想像出来ない凄まじい握力で掴まれたカムシンの腕は、みるみる内に紫色に染まっていく。


「……カムシンさん『何度も』言っておりますが、いくら気にさわるようなことを言われたからと言って、女性に軽々しく手を上げる行為は容認出来ませんね、…もしわかっていただけないのならば、このぼくが『あなたの身体に』直接分からせてやっても良いのですよ…?」


「……やめておけ、…死ぬぞ?」


「ちょっとぉ~!あんたたちケンカはやめなさ~い!!いいこと!?この世は『ラブ&ピース』なのよぉ!!!」


「そーよそーよぉおお~!みんな~『食べちゃいたいくらい可愛くて愛おしい』あーしのために、これ以上無駄に争わないでぇええええええ!!ラブ&ピース!さぁごいっしょに、ラブ&ピース!ラブ&ピ~~~スぅぅぅ!!!」


「あの~!ミランダさん、少し黙っていてください!ぼくはあなたのために真剣に怒っているんですからね!!」


「あーん!嬉しいよぉ~!あーしのために、あーし何かのために…!真剣に怒ってくれてるよぉ~!ジバにゃん大好き~!何だかんだでいつも助けてくれるカムカムも大好き~!出会ってばかりでまだ何の思い出も作れてないけどユメちゃんも大好き~!…あっ!え~と………ショチョーのことも大好き~!みんなのこと…、あーしは大好きだよぉおおおお~ん!!!!!」


ミランダは大泣きしながら皆に感謝の気持ちをぶつける。


「ちょっとミランダ!今あたしの存在忘れてなかったぁ~!?『あっ!』って何よ『あっ!』てぇ!!しかもあたしには何もないのか~~~い!みんなに何かあるならあたしにも何かあるでしょう~~~~~!?」


「えぇえええええええ…(困惑)ミ、ミランダさん、そんな大袈裟な~……」


「………まったく調子が狂う女だ………その、さっきはぶってしまって…すまなかった、…な、ミランダ……(ボソッ)」


「クスッ…うふふ、あはははは!」


『えっ……』


みんなが一斉に笑い声のした方を見ると、そこでユメリアは笑っていた。さっきまでの暗い表情はいったいなんだったのだろうか…。彼女のその笑顔はまさに『輝く太陽のように眩しいモノ』だった。


「まるで『輝く太陽』のような、なんて素敵な笑顔なんだ……ぼくはあの少女ことを…、誤解していたようだね…」


「うんうん、ユメっちのハッピースマイルいただきました~~~☆きらりん」


「……フッ…それでいい」


「いい笑顔ね、ちゃんと笑えるんじゃないの…よかった……さあ、みんな各々作業に入って!作業が終了次第報告書を作成し、速やかに撤収するわよ!!」


『ラジャー!!』


職員たちは村のあった場所周辺の様子や魔力濃度などを詳しく調べ始めた…。そして無事現地の調査を終えた王立魔導研究所の面々は、報告書を作成すると王都への帰還準備に取りかかる。


「……」


「どうしたのユメちゃん、そんな顔して…怖がらなくても大丈夫よ、心配しないでぇ!王都『グランザルト』はとても素晴らしい国だからね♪それにあたしたちも付いているから!王都での生活だってきっとすぐに慣れるわ!!」


「……はい!……ありがとうございます。あの、その……マリーベル…さん」


「う~ん『マリーベルさん』…か~、いや~なんかちょっとムズムズしちゃうな~その呼ばれ方、なんでだろうな~?……そうだ!迷惑じゃなければあたしのこと『ママ』って呼んでよ!うんうん、それがいいそれがいい!…どうかなユメちゃん…本当のママの代わりにはなれないと思うけどさ、あたし頑張るよ…!!」


「えっ……ママに…『ユメのママ』になってくれるんですか…?ママ…ママ…ママ…………ママ~~~ッ!!ふぇぇぇん!!!ママぁああぁああ~!!!!!!!」


ユメリアの抑えていた感情が爆発した…。

ユメリアは泣きながら彼女の元に駆け寄ると力強く抱きついた。

そんなか弱い幼い少女を実の母親のようにマリーベルは強く優しく抱きしめるのであった。


「……よかったな~、うん…本当によかったな~ユメリア~…ぐすん」


「あれあれあれれ~☆カムカム、ひょっとして泣いてるの~!?うっそぉ~!明日は世界が滅ぶかもね~!!」


「ミランダさん、ちょっとその言い方は不謹慎ですよ……しかしカムシンさん、あなたも『人の子』なんですね♪…少し見直しましたよ」


「……~~~ッ!!!…泣いてない、これはその、あ、…汗だ」


「きゃわわわ~ん♡カムカム~強がんなよ~!目から汗なんて出ないぞコイツめぇ~、この!この!認めろよ~おい!泣いてんだろ~、オラオラ~って!いっったぁあああい!あーしのことまたぶったぁああ~!!」


「……まったく、本当に元気でやかましい女だよ、おまえは……『顔は瓜二つなのにまるで別人だな』…」


「ふぇぇええ!ジバにゃ~ん!!カムカムがいじめる~」


泣きながらジバンにすがるミランダ。


「まぁ~…今のは調子に乗ったミランダさんが悪い…ですかね?」


「もうぅううう~!何よぉ~ジバにゃんまでぇ!!こんなの全然ジーニアスじゃないわぁああああ!!!!!」


こうして王立魔導研究所の面々に保護されたユメリアは、王都「グランザルト」を目指すのであった。

果たして少女の未来(あす)は幸福か破滅か…(つづく)

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