第15話 蒼依の独白

 わたしは愛一郎の彼女として彼を殺さなくちゃいけない。鈴木蒼依にはその権利と義務がある。


 ターニングポイントは三人が対面してしまったあの瞬間。ずっと知らなければ、こんなことにはならなかった。わたしは何も知らぬまま、死ぬまで愛一郎を愛し続けることができたのに。

 いや、愛する気持ちは今でも何ら変わっていない。変わってないしこれからも変わらない。だからこそ、死んでもらわなければならない。

 こんな、鈴木蒼依らしくもない道化を演じてまで、彼を騙すことになってしまったのは不本意だったけど……しかし、そもそもの話、悪いのは全て彼なのだ。

 彼に見合った、彼が味わうべき絶望をしっかり味わってもらって、死ぬべき形で死んでもらう。

 死んでもらう、はずだった。とっくに終わっている、はずだったのだ。一瞬で終わっていなければならなかった。

 なのに、何で生きている? なぜ愛一郎はまだ生きているのだ。何で、どうして……

 あなたが死んでくれないと、わたしも死ねないじゃないか。

 ためらいなんてなかった。これは復讐じゃないから。後悔なんてあるわけがない。これこそが愛のあるべき姿だから。

 それなのに何でこんなことになっている? ためらいじゃないなら、わたしの邪魔をしたのは――自惚れ? 幻想?

 違う。ふざけるな。わたしは何も間違ってなんかいない。あれもこれも全部、あなたが悪いんだ。

 ――そんな風に足踏みしているうちに、来てしまった、タイムリミットが。

 ああ、クソ。失敗だ。間に合わなかった。死ぬべき形で死なせられなかった。

 ならばもう、手段を選んでいる場合じゃない。経緯は最悪だけど、せめて結果だけでもあるべき形に収めなきゃいけない。

 演技はもう、おしまいだ。ああ、いや、息絶える瞬間までは続けないといけないか。

 ――そんなことを考えていても、心は何も動かない。あるのは焦燥だけ。目的を果たしたとしても、悲しみも達成感も、もはや感じることはできないだろう。そんな意味も余地も残されてはいない。

 ただただそうしなきゃいけないから、そうあるべきだから、わたしはやる。

 

 今日わたしは、大好きな人を殺す。

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