第39話 休まらない休日が始まるまで

 波乱すぎた平日が終わり、ついにやってきた休日が始まる。

 眠い目をこすりつつ、時計を見よう。

 ……7時? 学校があるときとほとんど変わらないくらい早い時間に起きてるじゃないか。

 貴重な週末が壊されてしまって軽く鬱。

 今日は梨花が7時30分からバイト初日として来てくれるらしいので、俺も早く起きなければいけなくなった。


 そんな現実を辛うじて受け入れつつ、あまりにも休日すぎる見た目で梨花に会ったり、店に出るのも悲惨なのでいつも通りの支度をする。

 既に親父はラーメン屋にいるようだ。

 毎日この時間に起きて働いているのは本当にすごい。尊敬しかない。


 色々身支度が出来たので俺も1階のラーメン屋へと向かう。


「やっと来たな。清明」


 掃除機をかけている親父に声をかけられた。


「これでも昔よりは早いだろ」


 昔は仕込み自体あまり手伝いした記憶もほとんどない。

 作り方は知っているが、実際に作れるという確証は今も昔もない。


 ガラガラ。


「お邪魔しまーす。天元でーす」


 玄関の引き戸を勢いよく開けて出てきたのは本日の主役になるだろう梨花だ。


「キヨアキくん久しぶり」


「昨日別れてから半日もたってないけどな」


 昨日はかなり疲労が溜まっていたので家に帰るとぐっすり眠ってしまった。

 多分それは梨花も同じだろう。


「今日は来てくれてありがとうな。これから清明が教えてくれるからしっかり聞いてがんばってくれよ」


「え、親父はやらないの?」


「俺は久しぶりの朝のオフを満喫させてもらう。何かあったら連絡してくれ。作り方は覚えてるだろ?」


「覚えてるけど、そんなに信頼されて貰ったら困るんだけど」


「文殊ちゃんも8時くらいには来ると思うから、分からなければ文殊ちゃんに聞けばいい。でも、あれだ。何があっても触らせるなよ」


「それはもちろんわかってる」


「文殊ってそんなにヤバいの」


「そんなって程じゃないな」


「流石にそうだよね」


「もっとやばい」


「もっとなの?」


「3年前文殊が初めてここで働き出したんだけど、親父は文殊が必死に頼むもんだから練習として厨房に立たせたわけ。もちろん、開店時間中じゃないけどな」


「うん」


「試しにラーメン作ったんだけど、正直言って店でラーメン作ること自体はかなり簡単なんだ。湯切りをしたりとかそういうことだけだから。でもな、文殊は1回も出来なかった」


「何ができなかったの?」


「湯切りも火を扱うことも……。あいつが火を使えば確実に火災報知器がなった」


「そんなことがあったんだ……」


 大体の物事を器用にこなす文殊だが、料理だけは本当にからっきしダメだ。


「そういや聞いてなかったんだが、梨花は料理できるのか?」


「まあ、一応家族に作ったりしてるし、人並みには出来ると思うけど」


「そうか。それだけ聞ければ全然いい。それじゃあ、今から仕込みの方法とか色々教えるから」


「おっけー」


「とりあえずこの寸胴に水を入れる。そのあと、鶏ガラを取り出して来て3時間くらい煮る」


 昔をなぞるように梨花と一緒に作業をする。

 他にはチャーシューなども同時に煮込んでいく。


「これでほっといたら出汁は完成だ」


「えらく簡単だね」


「まあ、そうだな」


 煮終わるまでの時間はその後も梨花と一緒に野菜を切っていき、半熟たまごを作ったりなどの作業をすます。


 ガラガラ


 そうこうしているうちに特にお呼びでない方がいらっしゃった。


「おはよう。もう結構進んでるみたいだね」


「梨花が上手くて助かる」


「いえーい。褒められたー」


「私も手伝おうか?」


「クビになりたいんだったらいいぞ」


「酷すぎる!!」


「私がいてもあんまり役に立てなそうだし、勉強しときまーす」


 不貞腐れたように文殊は勉強道具を取り出し、座敷の上で勉強をし始めた。


「懐かしいな」


「え? 何が?」


「春休みにしてた占いも客が来るまでこんな感じだったからな」


「そうだったんだ」


「明日 華泉けいちゃんのオーディションだから後でいっぱい応援しようね。時間があったら今日梨花のラーメン食べに来れるかもって言ってたし」


 とうとう明日なのか。

 本当にこの2週間はあっという間だった。


「それちょっと緊張するなあ」


「最高のラーメン作ってあげようぜ」


 俺たちはその後も雑談をしつつ、ラーメンの下準備を完成させていった。

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