第23話 俺たちが渡辺 剛の未来を成功させるまで

「その人とは元々LINEとかで喋ったりすることはあったんだけど遊びに行くのは初めてで。会話の流れ的に向こうが水族館に何年も行ってないからまた行きたいなって言ったから俺が誘って行く流れになった感じなんだけど」


「うわあ」


「きゃあ」


 そこうるさい。確かにはしゃぎたくなる気持ちもわかるけど。


「俺実際デートとかしたことないから緊張して失敗するのも嫌だし、特に何すればいいかとかもわかんねえから一応ここに来てみたんだけど、何かアドバイスとかってもらえたりするよな?」


「まあ、占いの中でアドバイス出来ることがあったらしていきますけど。お友達とかには相談したりしなかったんですか?」


「実は俺がその人のこと好きなのあんまり周りに言ってないから。相談するにもできないっていうか」


 ポスターは友達と見ていたはずなのに、それからここに1人でくる勇気がすごいな。

 得体の知れない部活に1人で来るくらいなら多分その友達に俺なら相談するかもしれない。


「なるほど。では、占いをする前に色々質問させていただきますね」


「ああ」


「クラブとかに入ってますか?」


「テニス部に入ってるよ。その副顧問が一条先生だし、最近来たのすら何ヶ月か前の話だけど」


 そうだったのかよ。

 あの人が一応副顧問という立場にいた事に驚きだ。

 先程の掃除の時に「顧問なんて面倒なことは普通やらないんだぞ」とか何度も言ってきたからてっきり職なしだと思っていた。

 占い部活もいつの間にか失踪していそうだが、とにかく色々手伝ってくれたことにはかなり感謝しなければ。


「あーこもテニス部だよね。あーこともクラブでよく喋るの?」


 えぇ、急なタメ語!

 ギャルって恐ろし!


「あんまり周りの人がいる場ではそんなに喋らないし、そもそも一緒に練習する機会が少ないから会う時間もそんな無いけど」


「そうなんだ。あーこもあんまクラブの事を話してなかったしなあ」


 そうなんだ。の後は独り言のようにボソッと小さく呟いた。

 確かに以前この学校の運動部を見学したが、あまり男女同士で練習したりするところは見なかった。


「はいはーい! 質問いいですか!? 渡辺さんはいつから茨木いばらきさんのこと好きなんですか?」


「ええ?」


 唐突なド直球質問すぎて渡辺さんを困らせてしまっている。

 まあ、この質問俺も気になっていたが。

 喋るようになったきっかけとか俺も知りたいし。


「いつからっていうか会った時から良いなって思って。そっからその人のこと知っていって優しい人だとも思ったし……」


 終わりにつれて段々と声が小さくなっていく。

 これ聞いてる側もちょっと恥ずかしいな。

 多分渡辺さんの方が比にならないほど恥ずかしいだろうけど。


「えぇー!? どんなことがあったんですか?」


「初めて喋った日がクラブの時だったんだけど、俺その人と同じクラスだったから結構会話が弾んで。それ以降ちょくちょくクラスでも喋ったりするうちに段々好きになったってだけだけど」


「うーん青春だ。いいなあ」


「すごい、漫画みたいだね」


「いや、恥ずいんだけど」


 花山さんと文殊が反応したせいで渡辺さんの顔が耳まで赤くなったかのように見える。


「私も憧れちゃうなあ。そういう青春」


「意外だな。文殊はてっきり恋愛なんて興味無いと思ってた」


「はあ? なんで?」


「いや、あんまりそういうこというタイプじゃなかった気がして」


「あぁーそれは。キヨの前で言えなかっただけだし」


 その言葉に俺はふたつの意味で驚かされた。

 1つは文殊にも誰か好きなような人がいたということ。

 それにもう1つは俺がここでも迷惑をかけていたかもしれないということだ。

 好きな人を失った俺に対して文殊はずっと気にかけてくれていたのだろう。


「そういうことか。ごめんな」


「キヨが謝ることじゃないよ」


「もーう、今は2人で痴話喧嘩しないの」


 梨花はそう言って文殊に後ろからガバッと抱きつく。

 全く喧嘩などはしていないのだが、空気が悪くなったのはまちがいない。


「は!? 痴話って何言ってんの!?」


「そんな暗い顔したらだめだよー」


「それはごめん」


「それより、渡辺さんはその愛宕あたごさんと付き合いたいって気持ちはあるんですか?」


 脱線してしまった話を花山さんが上手く軌道修正してくれた。


「まあ、そりゃあ。一応水族館の日に告ろうかなって思ってるんだけど」


「ええ!!」


 全員がまさかの事態に驚きを隠せない。

 そんな告白までする気だったとは全く思ってなどいなかった。


「でも、失敗して今までの関係が壊れるのが1番嫌だから。しないよりではあるかも」


「失敗して関係が悪くなるのは嫌なのすごいわかるなー」


「確かにな」


 その時、梨花は俺に近づいて小さな声話しだした。


「あーこも実は今はクラブのことが大切だからあんまりそういうのは考えてないって言ってたんだよね」


「2人って両思いなのか?」


「多分ね」


 俺たちの会話に文殊も小さな声で参戦してくる。


「両思いならくっつけちゃえばいいんじゃないの?」


「あーこも多分告られるのは嬉しいだろうけど、今はクラブ一筋だから付き合う気はなさそうなんだよねー」


 それを聞いた文殊が俺に対して耳打ちしてくる。


「占いもして、未来も見ようよ」


「正気で言ってるのか?」


「キヨの占いで渡辺さんのデートを成功させて、キヨが未来を見て告白も成功させるの」


「告白は成功するかどうかわかんねえだろ」


「私たちがそういう流れにするの。梨花と茨木さん友達みたいだし」


「もう、2人で話しててずるい」


 梨花が間に割って入り、会話は中断された。


「ごめんごめん、ねえ梨花。茨木さんは付き合ってもいいと思ってるってことだよね」


「うん。多分ね」


「じゃあ、決まり。やろうよキヨ。お互い好き同士なのに、恋愛しない理由がないよ。高校生の頃の思い出って一生モノになると思う」


「ええー」


梨花は困り気味だったが、相変わらず強引な文殊の言葉に俺は1つ決心する。


「わかった。絶対に成功させるぞ」


「まじで告白やる感じー?」


 何故かパソコンゲームトークで盛り上がっていた芦屋と渡辺さんに向かって文殊は張り切って言った。


「その告白絶対に成功させましょう」


 俺はその時見た渡辺さんの「嘘だろ?」と顔に書いてあるような引き攣った顔は忘れないだろう。

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