第9話 ラーメン店員になった俺がラーメンをつくるまで
無事高校生活1日目が終了。
自己紹介もただ名前を紹介して終わりという、呆気ないものだったため今朝のことは杞憂だった。
「よし、
「すまないが、一度帰らせてもらってもいいかい?僕はいつも食べたラーメンの感想をノートに残しているんだ。そのノートを取りに帰らなければいけないからね」
「OK、了解。じゃあ、これ俺のLINEだから来る時連絡してくれ。俺のラーメン屋の場所はもちろんわかるよな?」
「ああ、もちろんさ」
帰る時に
さっきは無事1日目が終了などと抜かしたが、おそらくこのクラスとして見ればそんなことは無かった。
なぜなら、有名人がいるからだ。
それを聞いた同級生や上級生が休憩時間に押しかけ、半ばパニック状態になっていた。
それを何とか文殊たちや先生などが間に入ってどうにかしていた。
下駄箱まで一緒に行き、その後芦屋と別れる。
あいつは電車通学なのだろうか。
俺は駐輪場に停めていた自転車を飛ばし、家に向かった。
家に着いた頃には時刻は1時をまわっており、店は大盛況を見せていた。
この時間はバイトの文殊もいないため、人手がかなり足りず、親父と母さんが2人でせっせと働いてくれている。
新しいバイトを雇用することを提案したことがあるのだが、「お前が休みの間だけでも入ればまだマシ」という正論パンチが飛んできて以降言わないようにしている。
親父が言うには、知らない奴にはラーメンの秘密を見せたくないのだとか。
裏口からこっそり帰って手を洗い、俺もラーメン屋の厨房へと向かう。
「おぉ、帰ってきてたのか
「親父、ちょっとお願いがあるんだけど」
「どうした?」
「今日だけ俺にもう一度ラーメンを作らせてくれないか」
「なんだとぉ」
「いや、このピークが終わった後の準備期間で構わない。今は食器洗いをさせてもらうだけでいい。今日学校で、俺の事を知ってる奴がいて、そいつが俺の作ったラーメンが1番美味いって言ってくれて」
「ホントなの?清明。それってとてもすごいことじゃない」
母さんは俺を支持してくれているようだ。
「なあ、清明。そいつは俺が作ったラーメンより清明が作ったラーメンの方が美味いと言ったのか?」
「え、ああ」
「ほう。清明、お前がラーメンを作ることは構わんが、2年近くもラーメンを作っていないお前が精々そいつの期待を裏切らないようにな」
「ありがとう親父」
「まあ、俺もそいつに対してラーメンを作るが良いよな?俺だって経験が甘い息子に負けているというのは癪に障るものだからな」
「はは。もちろんいいぜ、ぜってえ負けねえようにしてやる」
ジャー。
久しぶりのずっと水に手をつける食器洗いはなかなかの苦痛であり、労働だ。
とにかく、俺が親父に勝てる方法を考えないと。
あいつは俺のラーメンに何かが入ってる気がすると言っていた。
おそらく、それが答えだろう。
俺は確かに何かを入れていた。
でも、何を入れていたのだろう。
そうして、何も思いつかないまま段々と客足も減っていた。
母さんは買い出しに行き、親父はいつの間にかいなくなっていた。
スマホを見ると、芦屋から3時頃に着くという連絡があった。
一度ラーメンの前にたち、この後作るラーメンの工程を脳内でシミュレーションする。
まだ昼飯を済ませてなかったので、自分用として一度作ってみることにする。
でかいバケツに入ったスープを丼に入れ、ごま油を入れる。
麺を湯切り、麺を丼に入れ、作り置されている盛りつけの具材を上に載せる。
少し不格好のように見えるが、まあとりあえずは完成した。
いざ、実食。
普通に美味い。
何せ元々のスープが美味く、作り置されている具材もかなりの味なのだ。
精々作る人が変わることによって味が変わるとすれば麺だろう。
実際、俺が作ったラーメンはあまり良いものとは言えなかった。
湯切りがあまいのか、茹でかたが悪いのか。
それに、ラーメンを作る時に嫌なことばかりを思い出してしまうこともあるのだろう。
親父の作るラーメンに比べてかなり質は落ちるように感じる。
あと、俺は一体昔に何を入れていたのだろうか。
さっさと食事を済ませ、とりあえず失敗の原因を考え直してみる。
ガラガラ。
その時、ドアが開く音が聞こえた。
ここの引き戸は異様に大きな音が鳴る。
おそらく、芦屋が来たのだろう。
「すまん。芦屋適当にどっかに座っといてくれ」
声を張り上げる。しかし、返事がない。
まあ、いい。
あいつの事だから、返事の声が小さいだけだろう。
それにしても、厨房から全く客席が見えないのはかなり不便である。
向こうから見えないようにするのはともかく、こちらから見えないように設計したのはミスなんじゃないのか。
「あれ、キヨじゃん」
「え、文殊?芦屋じゃないのか?」
「芦屋って
芦屋は常連だから、文殊とは知り合いなのか。
「ってかどうしてここにいるの?珍しいね」
「ラーメンを作ってたんだよ。芦屋が俺のラーメンを好きって言うから」
「嘘!またラーメンを作る気になったの!?」
「今日だけな」
「そうだ、
「おい、友達ってもしかして」
すると、文殊は座席の方に手招きしていた。
「久しぶりー。
「ちーす。
「
ラーメンを振る舞うのが女優、ギャル、幼なじみ、俺のラーメンのファン、親父。
緊張で手がブルンブルンになりそうだぜ。
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