第63話

 法廷で初めて相手の相良拓実と出会う。

 

 裁判は恋人を騙してお金を取った男の裁判だった。

 

 彼女の凜とした姿、冷静な対処の仕方に隼人は今までにいないタイプだと思う。

 

 いつものように自分の懐に引き入れた綾奈に男のアリバイの証言をさせるが、拓実はどこか余裕があるように見えた。

 綾菜は隼人が思う以上に遊び人であちらこちらの男と遊び歩いていた。

 彼女の男にも賄賂を渡していたが、綾菜がまた別の男と遊んでいるところが監視カメラで撮影されていて容疑者の男と会ってる時間にずれが生じた。

 

 

 法廷の外の廊下ですれ違う時、睨んだ隼人に拓実は柔らかな微笑を向ける。

「……」

「もう少し人を見る目があるかと思ったけれど、罠に嵌めたつもりが自分から罠にかかる気分はどう? 策士策に溺れるっていうのはこういうことを言うのかしらね?」

 

 後でわかることだが、綾菜自身が拓実が隼人に送り込んだ仕掛け人だったのだ。


「ふ……。あの女。勝つためには手段を選ばないって奴か。そっちがそうならこっちにも考えがある」



 僕は連日の特訓の成果で段々台詞の意味を自分なりに消化してきたような気がした。

 というか連日眠いだろうに相手してくれる隆二が上手いんだ。

 今はもう既に隆二は台本を持たずに、僕の相手の人の台詞を覚えるまでになってしまっていた。


 隆二は上手く僕の芝居を引き出してくれるので、本番では相手は沙良京花さんだけど、それと連動して彼女ともいい感じに息が合うようになってきた。

 ただ、なんだろう。僕の感情の一番奥を叩き出す何かが足りないと感じていた。

 それは京花さんも同じように感じているようだった。


「何かしら? 何かがこうね……」

「そうですね、なんでしょうか?」

「うーん……」

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