第9話

 烏丸さんの言葉に、眼鏡をかけた宮慶子さんが少し緊張した面持ちをした。普段から一番クールに見える宮さんが緊張するなんて珍しい事だ。


「劇団の関係に関してはごめんね、でも君たちのチケットは僕の配り分に入って」


 僕が慌てて言うと、本世屋くんがすかさず言う。


「それは良いんだよ、俺達がムカついてるのは、純粋なイルカファンがお芝居が観れない事!」

「そうです! これをきっかけに守くんを覚えてくれた人もいるのに!」


 いつもは大人しい水鳥碧さんが精一杯の声で主張した。 彼女は卒業論文の大胆な題材もしかり、前に小さなクローバーの植木鉢をくれたりして、みんな曰く、ここぞという時のパワーが凄いらしい。


 そっか、そんな風にみんなに迷惑かけてたんだ。

 

 僕は申し訳ない気分になった。


「ごめんね」


 僕がみんなに頭を下げるとみんなの表情が曇る。


「守くん関係ないじゃん」

「そうだよ」


 野嶋さんと烏丸さんが口を揃えて苦々しい顔をした。


「そんなことないよ、君達に不快な気分にさせたのも、もしかしたら僕と隆二とのことのせいかもしれないし、それで劇団に迷惑かけるなら隆二に申し訳ないけど観るの諦めて貰うしかないかな」

「そんなっ、それは違うわ」

「そんなことないわ」

「そんなの違う!」

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