遺書
永倉圭夏
第1話 タカキの相談と俺の傲慢
俺とタカキとサナエは小学校4年の頃からつるんで遊び歩いていた仲だった。いつでも何をするにも3人一緒に行動するのが俺たちの常で、それが当たり前だとずっと思っていたし、これからもそうなんだと当然のように思っていた。
高二の冬、俺はタカキに呼び出されハンバーガーショップのカウンターの片隅で話をする。
マドラーでコーヒーを掻き回しながら自信なさげにタカキが呟く。
「僕、僕さ……」
いつまでたってもその先の言葉が出てこない。その意気地のない様子だけでもタカキが何を言いたいのか俺にはわかった。
「サナエが好きなのか」
タカキがゆっくりと頷く。
「…………ごめん」
何がごめんなんだ? サナエが好きになったことか、それともそれを自分から言い出すこともできない気の弱さか、それとも俺たち三人の関係が壊れてしまう事か。
「謝ることじゃねえだろう」
俺は努めて平静を装って言ったが、実は心の中では嵐が吹き荒れていた。
俺もサナエが好きだった。
俺の中の動揺を気取られないように、俺は取り澄まして言った。
「いいんじゃねえか? 告白しちゃえよ」
タカキは意外そうな顔をして隣の席の俺を見る。
「いいのか?」
「いいも悪いもねえって。好きになっちまったもんはしゃあねえだろうが」
俺は強がって頭を横に振った。
「大体アイツは絶対めんどくせえって。いいのかよ」
「そっちこそいいのか?」
念を押すようにタカキが言う。
「いいって」
そう、そもそもが気が強めのサナエにこんな気弱なタカキが合うわけがない。言下に断られるのがオチだ。俺は自分にそう言い聞かせた。俺が告白するのはその後でいい。そう思うと少し気も大きくなり余裕も出る。
「さっさとコクってこいって」
今まで不安げだったタカキの瞳が自信に満ちて輝く。まあどっちにしたって結果は変わらないけどな。
俺たちはハンバーガーショップを出た。
「ありがとう。なんか自信出てきた。明日にでも告白してみる」
「おー、おー、頑張れい、応援してっからなあ」
タカキは自信たっぷりな表情だった。
「ありがとうマサヤ。マサヤのおかげだ。マサヤのおかげで勇気が出た」
「おいおい、礼は結果がでてからにしろよ。景気づけにカラオケ行くか?」
「いや、これから色々シミュレーションする。ホントありがと! じゃあな!」
「ああ、じゃな」
俺は笑いながら手を振って駅へ向かうタカキを見送った。だがその笑顔はタカキを祝福してのものではなかった。今にして思えば浅ましい話だ。
▼次回
2022年6月19日 21:00更新
「第2話 カップルの成立と俺の落胆」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます