第14話 3月

「卒業……おめでとう。

 ……あ~あ、こうしてキミといっしょに通学するのもこれで最後か~……残念。

 それに、キミってば大学……、県外なんでしょ? それもここから通えない距離のさ。

 なんで言ってくれなかったの? ……言おう言おうと思ってズルズル伸ばしすぎてた?

 ……バカ! 言わないよりも、言って欲しかった!

 わたしのことが好きなら、ちゃんと言って欲しかった!!


 余裕を持って言われたほうが心も落ちつけたんだよ? なのに、突然言ってきて……頭の中、真っ白になったのわかる?」


(バカ、バカ! バカァ!!

 残って欲しいなんて、言えない。だってこれはわたしのわがままだから……。

 だから、わたしは……わたしの不安を口にする)


「…………不安なんだ。

 キミが大学に行って、男だったボクなんかよりも可愛い子と出会って……恋したりしたらって思ったら、怖くてたまらないんだ。

 キミの温かさも、キミのにおいも、わたしは覚えてる。

 だから、居なくなったりしたら……ボクわたしは、耐えられない……」

(抱きしめてくれるキミの顔……、困った顔してる。

 けど……もうすぐ居なくなってしまう。すぐに会いに来るからって言っても、不安だもん……)


「……え? やく、そく……?

 左手を出してくれ? う、うん……え?

 これ、ゆび……わ? こんにゃく……じゃなくて、こんやく、ゆび、わ?

 ……え? いい、の?


 ……ボク、男だったんだよ?

 …………うん、知ってるよね。当たり前だよね。


 ボク、胸ペッタンこだし……、いろいろ貧相だよ?

 う、うん、知ってる……よね。ぅぅぅ……。


 ボク、我がままだよ? それでも、いいの?

 キミがほかの女の人見たら、すねちゃって頬を膨らませちゃうくらい……わがままだよ?

 ……わたしだけを見てって、言っちゃうよ?

 …………わ、わたししかもう、見えてないって……バカァ。


 ……え、なんでボクって言わずに、わたしって言ってるのかって?

 いまさらそれ、聞くかな?

 ……これね、わたしはもう女の子だって、ううん、キミの前で女の子でいたいって思ったからなんだ。


 まあ、そう思ってたけど……キミはボクを、わたしにしてくれたけどさぁ……。――って、こんなところでその話はやめてよぉ! は、恥ずかしぃ~……」


(もう、こんなところは男の子なんだから、キミってやつは!

 ふたりきりの時間のことを話すなんてデリカシーってのがないなぁ!

 ……男同士だったら、互いの彼女が云々ってバカ話してたのかな?

 もしかしたら……ううん、もうあり得ない世界だよね……)


「ごめんごめんって……もう、キミってばいっつもそう!

 ……イヤじゃ、ないよ。

 こんなわたしでも……、いいの?


 ……キス、して。

 キミがわたしのものだっていう……証。

 わたしがキミのものだっていう……証。


 それくらい、愛がいっぱいの……キス」


 わたしの言葉に、キミは照れながら頭をかく。

 けど、覚悟を決めたようにわたしを抱き寄せる……。

 近づいてくるキミの顔を見ながら、わたしは目を閉じる……。


 くちびると、くちびるが、触れ合う。


 求めるように互いの唇を押し付け、深いキスをする。


 1分、2分……長くキスをして、ゆっくりと離れる。


 キミは照れながら、『待っててくれ』と言う。

 だからわたしは――、


「――うん! 絶対、絶対に迎えに来てね!」


 ――笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る