第7話「ofuzake」
「ふんふふーんうふふっ」
放課後。隣には鼻歌を歌う来栖湊。優はその様子を見て若干の気の重さを感じていた。
当初の予定では帰宅後に公園で待ち合わせだったが、来栖湊がついてくると申し出て、そのまま並んで歩く事となった。
学校でも休み時間になった途端現れ、あらゆる情報を聞き出された。力の出自を尋ねられた時は周囲の目に一瞬怯えたが、もういいかと中学の時に授かった事を不遜に伝えた。
その後も、優でなくても勘違いしてしまいそうな程に来栖湊は接近してきた。いつまでもそのテンションが変わらないから、ずっと感じていたむず痒さは少し薄れている。
とは言え、全く異性を感じないというわけでもない。
優は奇妙な音程を鼻で鳴らす少女に、少し慣れた口調で指摘する。
「……ご機嫌だな」
「きみが隣にいるからね」
「……っ」
不意打ち気味に笑顔を見せられ、意識せざるを得ない言葉に顔が熱くなる。
けれど、以前のような居心地の悪さよりも単純な気恥ずかしさが頭の内を占めていた。
優が赤面を誤魔化そうと視線を逸らすと、ようやく例の公園が見える。
しかしそこには先客がいた。
「くらえーウンチミサイルー!」「遅いね。ぼくが何のために眼鏡をかけていると思っている」「なにぃ!?」「そしてきみは未だにブリーフなのか」「お、おれのズボンが!?」
滅多に人の来ない公園で、二人の小学生らしき男児が遊んでいた。
逆三角形白下着を丸出しにする野暮ったい少年A。彼が投げる鳥の糞を、眼鏡をかけた理知的な少年Bが華麗に避け、相手の服を脱がしている。
しかし、少年Aもやられっぱなしではない。
足元の砂を蹴り上げ目つぶしを狙う。その隙に鳥の糞を手の平に装填し投擲。避けられるがその方向を見切り、今度は糞まみれの手の平を突き出して体当たりを繰り出した。
少年Bは思わずのけぞる。少年Aの汚れた右手が体に迫った。その瞬間、少年Bはのけぞった動きをそのまま転用。後方宙返り。そして、円を描く爪先に少年Aの肌着を引っかけて、その上半身をむき出しにさせた。
目を見開き歯を食いしばる少年A。汗を流しつつもほくそ笑む少年B。二人の戦いは更に苛烈を増していく。
子供っぽいようなそうでないような光景に、優は呆気にとられるも、本来の目的を思い出して足先の向きを変えた。
「……違うところに行くか」
「何で? 人がいたら出来ないの?」
「そ、そう言うわけじゃないが、制御しきれていないから被害が出るかもしれない」
ただ単に人目のある所が嫌だったのと、気が散るという理由だったが、優はそれっぽい言い訳で言及を逃れる。
相変わらず来栖湊の聞き分けは良く、言えば納得する。そのまま、歩き出す優の背中を慌てるでもなく追いかけた。
「くそぉ! ウンチ当たれよぉ!」「残るはあと、ブリーフだけか……」
公園からまた少年たちの声が上がったが、優は振り向かない。なんだかこれ以上はいけない気がした。
来栖湊は関係なく視線を動かすも、すぐに興味をなくして鼻歌を再開させるのだった。
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