事故~彼女の傷と僕の傷~

 お邪魔します・・・・

 あ、なんか覚えてる。

 私、キミの部屋、来たことある。

 一回じゃなくて、何回も。

 ふふふ・・・・懐かしいなぁ。

 まさか、こんなに大きくなってから、またお邪魔できるなんて、ね。

 それにしても、気のせいかな?

 全然変わってないような?

 だって、ほら。

 このフィギュア、昔もあったよ?

 確か、ここ。同じ場所に。

 物持ち、いいねぇ。

 うん。

 キミらしい。

 え?

 私の、記憶力?

 うん!

 私ね、すごく記憶力いいの!

 って。

 キミのこと忘れちゃってたのに、全然説得力無いよね・・・・あはは。


 ・・・・あれ?

 この写真って・・・・あっ!

 ちょっと、見せてくれてもいいじゃないのっ!

 それって、小学校の時の遠足の時の写真、だよね?

 覚えてるよ。

 潮干狩り行った時のでしょ?

 ちょうど2人でいる所を、先生が写真に撮ってくれたんだよね。

 ちゃんと見たい。

 ねぇ、見せて?

 ・・・・ふふっ、いい笑顔だね、私たち。

 ずっと、飾っててくれたんだ?

 嬉しい。

 あの時私たち、バスでも隣どうしで座ったんだよね。

 ・・・・キミは途中からバス酔いしちゃって、青い顔してたけど。

 それなのに、全然寝ないで、ずっと私のお喋り聞いててくれたんだよね。

 大丈夫だ、って言って。

 もう、乗り物酔いは、しなくなった?

 ふふふっ。

 それは、心配だよ?

 だって。

 これからまた、キミと一緒に色々なところ、行きたいから。

 乗り物に乗って。

 まだ酔っちゃうんだったら、酔い止め持参で行かないとね?

 キミまた、無理して私に付き合ってくれちゃうから。


 そう言えば、私に見せたいものがあるって、言ってたよね?

 なに?

 見せたいものって。

 ・・・・え゛っ。

 これって、まさか・・・・

 全部取ってあったのっ?!

 この栞も、ストラップも・・・・使わないで、ずっと?

 ・・・・ごめんね、ちょっと引いちゃった・・・・あははっ。

 でも、そっか。

 急に私が、居なくなっちゃったから、だよね?

 だから、捨てられなくなっちゃったんだよね。

 ごめんね。

 え?

 それは関係ない?

 私があげたものだから捨てられないの?

 えぇっ?!

 あのフィギュアもっ?!

 そ・・・・そうだっけ、そう言えば、私が欲しかったのじゃないやつを、キミにあげたような?

 さすがにもう、捨ててもいいんじゃないかなぁ?


 あのね。

 昨日、お母さんから聞いたの。

 今までね、お父さんもお母さんも何にも話してくれなかったんだけど、私が思い出した事を伝えたら、話してくれたんだ。

 私がなんで、突然おばあちゃんの所に行ったのか。

 私、キミのあの事故のあと、錯乱状態になっちゃったんだって。

 暫くの間ずっと学校にも行けなくて、家からも出られなくて、暴れたり泣き喚いたりして。

 それで、お医者さんに言われたんだって。

 事故の場所から、なるべく遠く離れた方がいいって。

 事故のことを、思い出さないように。

 事故の事を思い出すと、どうしても精神的に参っちゃうから、だから、事故に関係するもの全てから離れた方がいいって。

 学校に行けば、友達に会うでしょ?

 友達に会ったら、キミの話も、出るじゃない。

 そうしたらまた、きっと事故の事を思い出す。

 だから、お父さんとお母さんが、誰にも言わないで私をおばあちゃんの所に連れて行ったんだって。


 酷いよね、私。

 事故で大変な目に遭ったのはキミの方なのに。

 私のせいで、キミはあんなにひどい事故に遭ったのに。

 何にも言わないで、突然居なくなるなんて。


 ・・・・えっ?

 大した怪我じゃ、なかった・・・・?

 嘘っ!

 だってあの時のキミは、血だらけで・・・・

 ・・・・頭を3針縫っただけ?

 あとは検査入院しただけっ?!

 嘘でしょ?!

 だって、あの時キミは、全然動かなくて・・・・えっ?脳震盪?

 あとはちょっとした打撲と擦り傷だけ?!

 どんだけ頑丈なのよ・・・・相手は、トラックだったのよ?!

 それにキミは、はね飛ばされて・・・・

 えっ?

 小さかったから、当たる面積が少なかったのが幸いだった?

 ・・・・そんな事って、ある?!

 まぁ、でもそうね。

 何の後遺症も無く、今キミがここにこうしていてくれてるってことは、そういう事だったのかな。

 ううん。

 違う。

 きっとね。

 キミが優しい人だから。

 だから、神様が助けてくれたんだと思うよ、私。


 でも、本当に良かった。

 キミが無事で、生きていてくれて。

 またこうして、会うことができて。

 私ね。

 本当はこっちに戻ってくること、反対されてたの。お父さんにもお母さんにもおばあちゃんにも。

 だけどね。

 どうしても、戻ってきたかったんだ。

 これってさ、もしかしたら、キミにまた会うため・・・・だったのかな?



 ねぇ。

『初恋は実らない』って、良く言うよね・・・・私たちは、大丈夫かなぁ?

 ・・・・ん?

 私、なんかおかしなこと言った?

 だって、やっぱり心配なんだ。

 えっ?

 違う違うっ!

 そーゆー心配じゃない!

 キミが心変わりするとか、私が心変りするとか、そんなことは・・・・

 絶対ない、とは言えないのかもしれないけど。

 でもさぁ、いくらなんでも、今その心配は無くない?!

 もうっ・・・・

 私はね。

 また、離れ離れになっちゃうのが怖いな、って。

 キミはほら、時々びっくりするほど無鉄砲だし。

 また、あんなことになったらって思うと・・・・

 なに?ニヤニヤしちゃって。

 そんなに心配か、って?

 当たり前じゃないっ!

 だってキミは・・・・

 もうっ、知らないっ!


 えっ?!ウソッ?!

 ちがっ、そんなこと、あるわけ・・・・

 なんで私が真っ赤にならなきゃいけないのよっ・・・・

 もうっ!

 キミは、振り回される方が好きなんじゃなかったっけっ?!

 えっ?

 たまには、振り回したい?!

 なんでよっ!

 ちょっ・・・・それ、反則っ!


 ・・・・いきなり『可愛いから』なんて言われたら、照れちゃうじゃないのよ・・・・

 どうしてくれるのよ、もうっ。

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