君は頑張ってくれる
■ ■ ■
十三分という長いソロを終えた。
正直、吹き切った時にはバテバテで、ステージ上の暑さも加わって汗をじんわりとかいている。だからといって、姿を消すまでが演奏。上手の舞台袖まで凛々しく歩いていけた気がする。
舞台袖に用意されていたパイプ椅子に座って、一息つく。
「疲れた……」
スタッフから貰った水を一気に飲んだ。
砂漠に雨が降ったかのように、体の指先まで冷たい水が染みていくのがわかった。こんなに水が美味しく感じるのは、社会人になってから滅多にないことだろう。
化粧を崩さないように、汗ばんだ顔をタオルで拭く。
エアコンの冷房をガンガンにつけてあっても、ステージを照らす照明は非常に暑い。照明で日焼けしてしまうこともある。
また肺活量が必要なフルートで、十三分ぶっ続けで演奏するなんて、暑い中で運動をしているようなもの。想像以上の疲労感に、思わず意味のない声が漏れる。
「あ〜」
だが、ゆっくりする暇はない。
本来なら
多久潤一朗氏が作曲しており、様々な特殊奏法を使用する曲。マニアックにはたまらない一曲。これもピアノ伴奏を必要としないソロ曲だ。
フルートを吹きながら、喉を鳴らして歌うグロウルといった奏法と、一つの指遣いで二つの音を重ねる重音奏法などができないと演奏そのものが成り立たない、難易度は高く、癖の強い曲だ。
正直、私にはできない。そもそも
遊びで何度か練習してみたが、独学だと難しいものがある。
本を読んでみて、すぐにできるような天才肌ならば良いが、私のように平凡な場合、大概書かれている文章を理解すること自体が難しかったりする。
本以外、誰も教えてくれないところが、独学のつらいところだ。
今回、
彼の演奏に耳を傾ける。何度聴いても、横笛のどこからあんな音が鳴ってるんだと思う。考えれば考える程、これがレベルの差なんだと痛感した。
だが、自分も観客のように最後まで聴くわけにはいかない。この次は二重奏が待っている。
名残惜しいが、下手の舞台袖まで急いで移動した。
スタッフに急かされて舞台袖まで着くと、ちょうど演奏が終わったところだった。
早く歩いてきた為少し息が上がっているが、楽器と譜面台をしっかり持って、ステージに再び上がる。
リスト作曲『愛の夢』、ロドリーゴ作曲『ある貴神のための幻想曲』、パッジーニの『妖精の踊り』など、休憩を挟みながら演奏をした。
これら全て、元はピアノ伴奏があったと誰が気づくだろうか。
もちろん、フルート二重奏の楽譜を持っていればよかったのだが、私も
show先生は二重奏の楽譜を持っているものもあったが、
そして時間は経ち、最後の曲があっという間にやってきた。
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