レンタルおじさん
レンタルおじさん
作者 @tomorokoshi
https://kakuyomu.jp/works/16817139556763775160
振られた苦しさを紛らわせようと彼女をレンタルしたら、手違いでおじさんが来てしまい、デートしながら再度千春に告白しようと決意し、寄りが戻せた話。
面白かった。
こういう作品はいいね。
主人公は男子大学一年生、一人称俺で書かれた文体。自分語りで実況中継でつづられている。途中、回想とともに視点がおじさんにかわるところがある。
からめ取り話法で書かれている。
主人公は大学に入って千春という彼女ができた。
だが、海に行こうと誘うととつぜん別れを切り出されてしまう。振られた腹いせにレンタル彼女を頼むが、何の手違いか、おじさんがやってきてしまう。
おじさんと二人でデート(?)するうちに、おじさんには十年前、妻と娘がいたが事故でなくなっていることを聞き、苦し紛れでやっているのだと考えた主人公は「お互い似てますね」と話し、彼女に振られて苦しまぎえにレンタルしたと告白する。
それをきいたおじさんは、「間違っておじさんをレンタルしたって事ですね!」といい、二人は笑い合う。
あらためて彼女の存在価値に気づいた主人公は「もう一度彼女に自分の気持ちを正直に伝えようと思います」とおじさんに告げ、一週間後、千春にあらためて告白する。
彼女から振られた理由を聞くと、水着を買いに行った帰りに父親は事故でなくなっており、主人公が海に誘ってきたとき思い出してしまったからと教えてくれる。あのおじさんは、彼女の父親の幽霊だったかもしれないと思いつつ、彼女との仲が復活。
照れながら、いっしょに水着選びに付き合うのだった。
途中、一人称がおじさんに変わっていて、読みづらさがある。
ラスト、彼女の水着を選ぶ場面は、おじさんの思い出の対になっていて、話のオチにもなっている。なのでこのシーンは必要。
だから、三人称で書いたほうが良かったかもしれない。
面白い作品には必ず、ドキリ、びっくり、裏切りの三つ「り」がある。本作にも三つの「り」が書かれていて、面白い。
面白い話とは、当たり前が九割、異常を一割作り。ギャップを生み出すところにある。
レンタルで彼女を頼んだら、おじさんが現れた。(ドキリ)
彼女とデートするノリで、おじさんの服を選び、彼女の水着を選ぶノリでかつらを選ぶ。
当たり前の中に異常をちょっと混ぜているから、面白いのだ。
実にはおじさんには十年前、妻と娘がいたけれども事故で会えなくなったことが明かされる。(びっくり)
そして、最後にどんでん返し。(裏切り)
妻と娘が事故で死んだと覆わせておいて、実は死んでいたのはおじさんだった。しかも主人公が付き合っている彼女の父親だった。
主人公がレンタル彼女のサービスを利用して、おじさんが現れたのは、娘のためだろう。
「あの子の気持ちが、わかった気がするよ」とあるように、はじめは自分の娘が、どうして主人公みたいな男を好きになったのだろうかと思っていたのかもしれない。
でも、娘から別れを切り出したので、もし気に食わないと父親が思っていたのなら、レンタルおじさんとして現れる必要はない。
ということは、主人公が嫌いになったから別れようといったのではないので、娘のために考え直してもらおうと現れたのだ。
でも、父親としては納得いかない部分があったのだろう。
主人公と付き合って話してみて、悪いやつではないと思えたのだ。
だから「あの子の気持ちが、わかった気がするよ。きっと、君はいい旦那さんになる」と主人公を認め、別れたのだろう。
父親にえらんで水着を買ってもらった帰りに事故で亡くなったとき、彼女は小学三年生の八歳か九歳のころ。
まだまだ子供で、甘えたい時期。
その頃のつらさが思い出されてしまったのだ。
彼女にとって、よほど大切な父親だったにちがいない。
同じシチュエーションが、形を変えてくり返されているところも本作の特徴。
主人公がおじさんの服を選び、恋人の水着選びのようにかつらを選び、彼女の父親がかつて娘のために水着を選び、ラストは主人公が彼女の水着をえらんでいる。
くり返しながら、正解の恋人相手の服選びへとたどり着いていく流れを描くことで、物語があるべき形へ収まってきれいに終わった感じを与えている。
全体的に面白く、ホロリとする場面もあって、最後はまとまって終わる安心感。
実にうまく、よく書けている。
だから途中の、おじさん視点に変わるところがちょっと気になってしまう。
おじさんのいった「きっと、君はいい旦那さんになる」の言葉どおり、末永く幸せになりますように。
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