クウソウ日記 勿体あれと俺は言った。
N・I・キー
1日目 勿体あれと俺は言った。
えーと、『もちぬし』は日記を書いたことはあるか? 日記帳を買ったことは?
まあ、俺とこうして話しているんだから、日記を書きたいと思ったことはあるのかもしれないね。
あ、大丈夫。
そんな顔をしないでくれ。
いきなり質問をして悪かったよ。
俺はN・I・キー。
今『もちぬし』が手に取った日記帳。それが俺。
あ、いま、うさんくさいって顔をしたか? 見えてるっての。お互い声も聞こえているんだ。お互い見えてたっておかしくないだろ? 表情豊かか? いいことじゃないか。
おっと、棚にもどさないでくれよ。(ブラウザを閉じないでくれよ)もうちょっと我慢して聞いてみてくれって。
いいかい?
付喪神って聞いたことある?
長い年月大切にされた物には霊魂が宿るっていうアレ。
簡単に言うと俺はアレだ。
『もちぬし』が手に取っている俺自身が長い年月を経たわけじゃないから、ちょっと出自は違うが。まあ俺はアレだ。日記の概念。その付喪神、みたいなもんだと思ってほしい。ね。よろしく。
自己紹介はほどほどに。
最初の質問に戻るけどさ。
日記帳を買ったことはあるか? 日記を書きたいと思ったことは?
日記そのものな俺の体感としてはな、「もちぬし」はみんな一度は日記を書いてみたいと思うらしい。それで、日記帳を買ってみたりな。
ある俺の『もちぬし』もそう思ったんだ。
それで、まっさらの真新しい日記帳を買ってな? 意気揚々と家に持ち帰って、よし今日の出来事を書こうと勢い込んで日記帳を開いて。
最初の三日くらいはそれはもうびっちりと一日のことを日記に残して、充実感とともに眠りについたものさ。
ところが4日目に飲み会があってな?
べんろべんろに酔った『もちぬし』は、今日はもういいかって日記に手を付けずに枕元に置いたわけだ。
で、その後はもうお決まりの流れだよ。
そのまま。
俺は何日か『もちぬし』の枕元で、寝顔を見つめるだけの日々を過ごし、デスクの奥底やら本棚の隅っこやらに追いやられて、その内捨てられたってわけ。
別に恨んじゃいないよ。
一瞬でも、日記を書きたいと思ってもらっただけでも嬉しいもんさ。
でもさ、そう何度も何度も同じ経験をするとちょっと欲も湧いちゃうんだよな。
ちゃんと日記として天寿を全うしてみたい。
真っ白なこのページに、何日も何日も、『もちぬし』の思い出を残してもらいたい。
それでさ。
いつか、『もちぬし』が俺を振り返ったときに、「ああ、そんなこともあったな」と、穏やかに振り返ることが出来たら、日記帳冥利に尽きるってもんじゃないか。
だからさ、俺は考えたんだ。
『もちぬし』の代わりに、俺が記録を残してみようか? って。
もちろん、俺は『もちぬし』のように動けるわけじゃないし、生きて毎日をすごしているわけじゃない。だから、俺の記録なんて単なる空想。ウソ日記さ。
けど、白紙よりはいいんじゃないか? 真っ白の日記帳よりは『もちぬし』は喜んでくれるんじゃないか?
どう思う? ばかばかしいかな。
ちょっと綴ってみようと思うんだけど。
いいかな。
まずは俺が俺に言ってみようと思うよ。
ウソ日記をちょっとずつ増やしていって、真っ黒になったページを天井に掲げてさ。
「勿体あれ!」ってな。
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