第11話 Mind Transfer System—意識転写装置
「MTS……意識転写装置ですか」
「ああそうだ。正確には、シルバーコードを分岐させて仮の意識体を生成し、そこに本体の意識をアップロードするのだよ」
「ちょっと意味わかんない……です……Zzz……」
「あ、エリちゃん……寝ちゃった。早いな」
「彼女は講義が始まって即時爆睡するタイプだな」
「そうみたいです。ごめんなさい」
「気にすることはない。まあ、大学の教官なんぞやってればそういう学生に接する事は多い。このタイプは何で大学に来ているのか意味不明な大馬鹿者が多いのだが、その中にとんでもない天才が紛れている」
「え? そうなんですか?」
「そうだ。講義では爆睡してるくせに、試験ではオリジナリティに溢れる完璧な答案を書く。他の大多数は私の講義内容をそのまま記載しているか、どこぞの書籍や過去答案をパクっているだけだ」
「なるほど。で、エリちゃんは天才の方ですか?」
「ん? そんなわけないだろう。この子猫ちゃんの偏差値は概ね48だ」
「48ですか」
「大学進学は可能だが国公立はちょっと厳しい。私学でも若干低めの大学を選ぶ必要があるが、いわゆるFランクまで落とさなくていい」
「なるほど。エリちゃんって勉強できなそうな雰囲気だったけど、そうでもないって事ですね」
「そうだな。彼女は一見、おつむが足りないギャルっぽいのだがそうではない。やればできる子だ。しかし、学問に対する関心が薄いので偏差値はあの程度って事さ。ついでに言うと、貴様の方は偏差値54。我が経済学部なら合否は微妙なライン。工学系の学科なら合格可能だろうよ」
「う……何だか見抜かれてて怖いっす。でも、どうしてこんな事がわかるんですか」
「それは私が意識体として存在しているからだ。例えば、三次元存在であるなら、お互いの容姿は丸見えだ。つまり意識体同士であればその表層意識は丸見えになるのだ」
「つまり、俺を意識体として見てるって事ですか?」
「そうだ。意識体とは言い換えるなら霊体の事だよ」
「そうなんですか……よくわからないですけど」
「人間とはそういうものだ。肉体を失って意識体となるまで、自分の本質が意識体であると認識できない」
「ああ、なんとなくわかります。見えないものとか触れないものは基本的に信じないですよね」
「そうだ。自身が思考しているのもこの意識体なのだが、それを否定しているんだから滑稽なのだよ」
「そうかもしれません。地球が平面であると主張したり、地動説を否定したりした事と似ていますね」
「その通りだ。しかし、私の主張はその地球平面説と同様の道をたどったのだよ。科学的ではないとな。故に、MTSを制作してその事を証明した」
「具体的には?」
「先にも説明したが、シルバーコードを分岐させたのだ。これは、人間の肉体と意識体とをつなぐ生命の糸だ。これが切れると人は死ぬ」
「はい」
「別の肉体、例えばアンドロイドなどを用意し、その為の意識体(仮)を生成する。概念としてはこうなるのだ」
空間上のモニターに図案が浮かび上がる。それは二つの意識体が並列して存在し、その下方に二つの肉体が並列して存在する。それぞれが
(肉体)—(SC)—(意識体)—(SC)—(仮の意識体)—(SC)—(仮の肉体)
「その、仮の肉体が本人そっくりな行動をするのですか?」
「もちろんそうだ。小学生の時、教室でお漏らしした時の話や、高校の時、赤点を取って補修を受けた時の話など、本人でないと知らない記憶もべらべら喋ったのだよ」
「それは恥ずいですね」
「まあな。ここまでは正当な研究の成果として認められたのだ。しかしな。私のやろうとしていたその先の事は、研究倫理審査会から異端として厳しく糾弾されたのだよ」
「それはまさか、肉体も転写してしまおうって事ですか?」
「察しがいいな。その通りだよ」
ドクターHの話に驚いてしまった劉生は、リアクターが発熱して口から蒸気を吐き出してしまう。一方、エリザの方は気持ちよさそうにすやすやと眠っていた。
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