第10話 経済学部の極秘エリア

「ねえねえ。校舎の中、綺麗だよね」

「だな。定期的に清掃されてる」

「まさか、猿が掃除してるとか」

「それはないだろ。猿は汚すだけだよ」

「だよねえ。で、何処へ行くの?」

「二階の電算室。こっちだ」

「うわあー。階段だ。よーし、三段跳びで登るよ」

「待て待て。気をつけろよ。転ぶんじゃないぞ」

「大丈夫。運動神経は超優秀だから! って、うわああ!」

「あ、躓いた」

「はあはあ。コケるとこだった。ギリギリセーフ」

「ほら。立てよ」

「ありがと……あれ? このバケツみたいなの、何?」

「掃除ロボかな。目が光ってる?」

「山口大学経済学部ヘヨウコソ。何カ御用デショウカ?」

「えーっと、ドクターHに会いに来たのですが?」

「面会ノゴ予約ハゴザイマスカ?」

「ありません。僕は劉生りゅうせい、こっちはエリザです。桜島港のAI、ATX330の紹介で来たんですけど」

「じいちゃんの名前ってそうだったの?」

「そうだよ。で、面会は出来ますか?」

「確認中デス……桜仙人サマノ紹介……少シオ待チクダサイ」

「桜仙人って言ってるよ」

「うん。初耳だけど。型式番号よりも、こっちの呼び名の方が似合ってるな」

「確認デキマシタ。コチラヘドウゾ」

「案内してくれるんだ。おおお。自動ドアだよ……中、真っ暗だね」

「だよな……電算室だからPCが沢山並んでるって思ったけど、一台もないね」

「あ! 真ん中が光ってるよ。光が人の形になって……」

「ホログラムだ」

「あ……ハンサムさんだ」

「イケメンって言えよ。何だか理知的なマッチョだな」

「クラーク・ケントみたいでいいじゃん。分厚い胸板がカッコイイし背広が良く似合ってる」

「あの……桜島から来た劉生といいます」

「エリザでーす」

「話は桜仙人から聞いている。機械化人と猫獣人の生き残りがいるから助けて欲しいとな」

「はいそうです」

「ありがとうございます」

「うむ。ではそこに座りなさい。お茶でも持って来させよう。ん? そこの機械化人君?」

「劉生です」

「君はお茶が飲めるのかね?」

「はい、問題ありません」

「そっちの子猫ちゃんは? 猫舌かな?」

「子猫ちゃんだって、えへへ。私は冷たい飲み物が欲しいです」

「わかった。用意させよう。おい、リヴァイアサン。こちらのお二方にアイスコーヒーをお持ちしろ」

「了解シマシタ」

「あのロボ、名前がリヴァイアサンっていうんだ」

「何かカッコいい名前だね」

「ちょっと、大仰だよ。リヴァイアサンって聖書に出てくる怪物の名前だ」

「やっぱりカッコいいね。ところでクラーク・ケントみたいなお兄さん?」

「ドクターH」

「そんな記号みたいな呼び方は嫌だな。何て呼んだらいいの?」

「Hはヘルメス・トリスメギストスのHだ。私の天才っぷりからな、周囲からヘルメス・トリスメギストス、つまり三重に偉大なヘルメスと言われていたのさ。本名は平野兵庫ひらのひょうごだ」

「えっと、難しいんで、へいちゃんでいいですか?」

「構わんよ、子猫ちゃん」

「えーっと、子猫ちゃんも可愛いんだけど、エリちゃんって呼んで欲しいな」

「わかったよ、エリちゃん」

「兵ちゃんは物分かりがいいですね」

「貴様にその呼び方は許可していない」

「えええ?」

「冗談だ、劉生。私の事は好きに呼ぶと良い」

「はい。では、私はドクターヒョウゴと呼ばせていただきます。ところでドクター。貴方は、生きていらっしゃるのですか?」

「ふむ。良い質問だ。私の肉体は既に消滅している。生物学的には死んでいる存在だ。しかし、私自身が開発したMTS(Mind Transfer System—意識転写装置)を用い、現在もAIの中に存在している」 


 ドクターHの説明が理解できない二人は顔を見合わせた。そして再びホログラムのドクターHを見つめ、二人そろって首をかしげていた。

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