あなたが話した

九重 壮

あなたが話した

あなたが話したこと、いまだ鮮明に思い出せる。夕暮れに照らされた、見渡す限りの原っぱとそこに座るあなたの横顔。風が頬を撫でる度、私は胸いっぱいに息を吸い込んで、この瞬間を忘れまいと。ふと、遠くから雨の匂いがしたのを覚えている。あそこはどこだったか。そんなことは今はどうでもいいのだけど。

私が顔を上げると、手の届くほどの距離に青く光る地球があった。私は今どこにいるのか。そんなことはどうでもよくって。今はただ、あなたが話した、つまらないような話を思い出して、遠い記憶の底に沈んでいくの。

糸が切れたように、世界から重力がなくなる。手を引かれるように、私も浮かび上がる。どこまでも、どこまでも、浮かび上がっていって。見えない焦燥感に包まれながら、大きな欠伸に私は呑まれた。

目を開くと目の前には小さな花が風に揺られている。暗くなった空が少し怖くて、寂しい気持ちになったけど、あなたが横にいると分かると暖かい心地がした。私は仰向けに宙を見つめたまま、遠い宇宙を想像する。真っ暗な宇宙ととても青い地球の姿。空想の世界はとても穏やかで、凪いだ心に夏の風が吹く。あなたの声はとても落ち着くね。あなたが話す私のことも、夏のことも、夜のことも、どれも取るに足らない話だけれど、それでいいの。だから、いつも私は、あなたの目を見て笑いかけるのよ。

瞬きをする度、切り替わる世界は私の夢。蝶々になったまま、次の夏を迎えるの。あなたが話したこと、きっと忘れない。

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