道を教えただけの転校生が何故か俺にばかり構ってくる

なゆた

第1章 高校1年生〜2年生夏編

第1話 普段の日常

「和ー、早く帰ろうぜー」


 そう呼ばれた俺、たかみや かずは急いで荷物を鞄にしまった。


「ごめ、おまたせ」

「うぃ」


 こいつはゆうなぎ りょう

 俺の数少ない友達と呼べる存在であり、中学校の頃から仲が良かった。


「ていうか、今日は部活無いんだな」


 俺は吹奏楽部に入っている。吹奏楽部と言えばブラック部活なんて言われる事もあり、練習量は並ではない。

 だからこそこういう部活がない時ははっちゃけたりするのだが……


 生憎、俺は友達が少ない。

 なので、外に出るという事もあまりしてはいなかった。


「あぁ、音楽の先生が補習やるらしくて音楽室が使えなくてさ」

「菊田先生には吹奏楽部の顧問も言われるがままだもんな…」と諒は苦笑していた。

「まあな……」と俺も苦笑しつつ返事をした。


 吹奏楽部の顧問は音楽の先生というイメージがあると思うのだが、実際そうでもなくうちの高校では現代文の先生が顧問をしている。

 しかもその上、顧問の先生は着任して数年程しか経っていないのに対して、音楽の菊田先生は十数年程のベテランであり、顧問の先生も流石に逆らえない様で……

 今日も補習を行うと言った菊田先生に言われるがまま、練習無しになったのだ。


「あちー」と諒は呟く。

「それな」と返した。


 そろそろ六月も終わりかけていて、本格的に暑くなってはいないものの、制服を着ている俺と諒には充分な暑さだった。


「途中でアイスでも買わないか?」と諒は提案してきた。

「おっけ、じゃあコンビニ寄るか」

「よっしゃ」


 学校から駅の間にコンビニがあるので、そこに寄って、アイスを買うことにした。



「ところで和さんよ。君は彼女とか欲しくは無いのかい?」


 どのアイスを買おうか悩んでいるところに諒が話しかけてきた。


「別に。いらねぇよ。」


 一人が好きなのだが、もちろん彼女が欲しくないと言ったら嘘になる。


 だからといって、「一人が好きだから」と言ったところで諒に、「じゃあなんで俺といるんだよ」と冷静なツッコミをくらいそうなので、適当にはぐらかした。


「彼女はいいぞ」

「うっせぇ」


そんな俺に対して彼女がいる諒は煽ってきた。


二年程前に相談を受けていたので、適当にアドバイスをしていたが「付き合う事になった」なんて言われた時には正直驚いた。


しかも相手は学年でもトップを争う美少女。

この時ほど俺は諒を羨ましく思った事はないだろう。


「ま、でも和も顔はいい方だし作ろうと思えば作れると思うのになぁ……いてっ!」


俺は諒の背中を叩いた。


「彼女いるからそういう事言えるんだろ」


そう話を区切って、アイスを取った後、レジへと向かった。


 実際、俺も中学校の頃は彼女を作ろうとしていた。

 だが現実は非情で、勇気を振り絞って同じ吹奏楽部の子に告白をしたのだが、「ごめん、彼氏としては見れない……」と言われてしまった。


俺は所詮友達止まりだった。


買ったアイスを食べながらそんな苦い思い出を思い出していた。


「んじゃ、また明日」

「うぃ、じゃあな」


 アイスを食べ終わり、駅に着いた後、俺の方の電車が先に来た。


 諒は中学校の頃は家が近かったのだが、高校に入った後すぐに引越しをしてしまい、俺とは反対方向の電車に乗っている。


(彼女ねぇ……欲しいは欲しいんだけどなぁ)


 俺はそんな事を思いつつ、電車の座席に座り、ワイヤレスイヤホンを耳につけて、音楽を流した。

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