第44話 ちょろいなー
結局、アリアとルサルカは二着ずつ服を購入し、古着屋を出たのは昼を過ぎてからだった。古着屋を出た我らは、腹を満たすために飯屋に来ていた。我が注文するのは、もちろん肉とチーズだ。魚にも惹かれるものがあるが、サンベルジュで食べたような生の魚を焼いた物は、高いからダメだと言われてしまったから仕方ない。
「お昼からはどうしましょうか?」
「わたくしは特に行きたい場所はないかしら。アリアさんとルサルカさんはいかがですの?」
「私は…強いて言うなら下着が欲しいかしら。古着屋には良いのが無くって」
「うん。下着欲しいね」
アリアとルサルカはまだ服が欲しいようだ。
「下着は新品の方が良いですよ。変な病気を貰っても厄介ですし」
「「病気!?」」
アリアとルサルカが驚きの声を上げる。
「そうですわね。わたくしも新品の方が良いと思いますわ」
「そうなんだ…」
ヒルダが同意したことで、病気の信憑性を信じたのか、アリアが沈んだ声を出した。そんなアリアを見て、何か思い出すように上を向いて人差し指を口元に当てていたレイラが話し出す。
「そうですね…。下着でしたらオススメのお店がありますよ」
「レイラのオススメって高そうね…」
「そのお店は良心的なお値段ですよ。デザインも良いですし、きっと二人も気に入ると思います」
お昼からはレイラの紹介する店に行くようだ。昼食を終えた我らは、レイラの案内に従って歩き出す。今日はイノリスが居ないから我も徒歩だ。イノリスが居れば彼女に乗って移動できるのだが、イノリスは学院の外に出る許可が下りなかった。何故我は外に出れて、イノリスは出れないのだろうか。たぶん、人間達がイノリスを恐れていたのが理由だろうな。この間の野外学習でも、イノリスの姿を見た人間達は恐怖していたし。
「こちらがアウシュリーです」
商店街から学院の方向に大通りを越えて歩くこと暫し、レイラのオススメする店に到着した。見た感じ、商店街の古着屋よりも小さい店のようだ。扉の左右にあるガラスには、薄手の白のカーテンで目隠しされており、外から見たのでは何の店か分からない。
「さぁ入りましょう」
レイラに続いて店の中に入る。店の扉を開けると、チリンチリンと小さなベルが鳴る。店の中は明るく、壁がリボンや布で飾られており、優美というよりも、可愛らしい印象の空間だった。アリアとルサルカが可愛らしい店の様子に目を輝かせている。
「まあまあ。レイラお嬢様ではありませんか。ようこそいらっしゃいました。お友達の方々ですか?ようこそアウシュリーへ」
店の奥から人間の女が現れた。女はレイラと知り合いのようだ。
「ご無沙汰しています。今日はお友達と来ました」
「まあまあ。可愛らしいお嬢様方だこと。小さい店ですけど、どうぞ見て行ってくださいな」
女が店の奥へと四人を誘う。
「お嬢様方にはこちらがオススメですよ。では、ごゆっくり」
一礼して女が下がる。近くの棚を見ると、小さな色とりどりの布切れが置かれていた。よく見ると、布切れはレースやリボンで飾り付けられている。
「かわいい。えっ?下着ってこんなにかわいいのがあるの?」
「すごい!すごいよこれ!」
アリアとルサルカが狂喜乱舞している。よほど、この布切れに感動したようだ。そんなにすごいのか?
「良いデザインですわね。わたくしもいくつか買ってみようかしら」
ヒルダも気に入ったようだ。近くの棚を見て回っている。
「刺繍でワンポイントのもあるのね。かわいいし、値段もお手ごろだし、良いかも」
「アリア!これ黒猫!」
「ほんとっ!?」
アリア達のはしゃぐ姿を見て、我はある予感がよぎった。この買い物は長くなるかもしれない…。
我の予感は当たっていた。できれば外れてほしかったものだ。我が二回寝入っても、まだ時間がかかっていた。原因はまたしてもアリアとルサルカだ。二人がなかなか買うものが決まらないらしい。
「また来た時に買えば良いではないですか」
「そうね…そうするわ」
漸く終わったようだ。アリアがいくつかの下着を持って会計へと向かう。
「アリア、アリア」
会計に向かう途中、ルサルカに呼び止められていた。
「これ見て、スケスケ」
「えっ!?こっちのとか、もうほとんど紐じゃない。こんなの誰が買うのかしら?」
それなら先程ヒルダが手に取っていたな。アリアが手にしている物と比べると明らかに布面積が小さいが、布への飾りが豪華な一品だ。
「アリア、先にお会計を済ませてしまいましょう」
「はーい」
アリアが会計を済ませると、漸く長かった買い物が終わる。我は起き上がり、背中を反らすように伸びをした。
「クロムさん、行きますよ」
「あぁ」
リノアに声をかけられ、アリア達を追って我も店の外に出る。
「お買い上げありがとうございました。またのお越しをお待ちしておりますよ」
女の店主に見送られ、アリア達は学院へと歩き出す。
「おやつ時ですが、何か食べていきますか?」
「うーん…今日はたくさんお金使っちゃったから我慢するわ」
「そうだねー…」
アリアとルサルカの表情が曇る。しかし、曇った表情はすぐに晴れ晴れとした笑顔に変わる。
「でも、おかげで良い買い物できたわ。良い店教えてくれてありがとう」
「ありがとー!」
「わたくしも良い店を知ることができましたわ。ありがとうございます」
「皆さんに気に入っていただけて、うれしいです」
レイラが顔をほころばせて応えた。
その夜。
「ふんふーんふふふふーん♪」
アリアが下着姿でクルリと回った。鼻歌も歌っているし、かなり上機嫌のようだ。
「わかいいし、肌触りも良いし、買って正解だったわ。どうクロ、似合う?」
アリアが頭と腰に手を当て、ポーズを決めて問いかけてくる。我に人間の服の良し悪しなど分からぬというのに。だが、我は空気の読める猫だ。アリアの喜びに水を差すような真似はしない。
「似合っているぞー」
「なんだか気のない返事ねー。せっかくクロが刺繍されたのにしたのに。ねー?」
そう言って、アリアが下着の左腰部分にある黒い刺繍を撫でる。よく見ると、刺繍は黒猫のようだ。染みかと思ったわ。刺繍の黒猫は我ではなのだが…。まぁいいか、適当におだてておこう。
「かわいいかわいい」
「でしょー?あなたも分かってきたじゃない」
ちょろいなー。
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