第41話 我にジャストフィットする

 宿屋に帰ってきたアリア達。行きでも泊まった宿屋だ。馬小屋に泊まるイノリスにお別れして部屋へと向かう。部屋の中にはベットが二つと木箱が二つしか無い、殺風景な部屋だ。我は早速ベッドに飛び込んだ。今日のベッドも藁のベッドだ。ガサリと音を立てて柔らかく我を受け止める。我はこの藁のベッドを気に入っていた。沈みように柔らかく我を包み込むように形を変え、我にジャストフィットするし、案外温かい。まるで藁自体が発熱しているようだ。ホカホカである。

 アリア達は部屋に入ると、服を脱ぎ、身を清め、着替えていく。毎度毎度ご苦労なことだ。


「レイラの夜着、今日もかわいい」


「ありがとう」


「ヒルダ様の夜着も素敵ですね」


「ありがとうございます。でもこれも、お母様のお下がりですのよ」


 レイラは今日もフリフリで、ヒルダは控えめにフリルの付いた夜着を着ていた。人間にとって、服というのは重要みたいだ。ハゲ隠しという意味でも重要だが、見た目も重視しているようだ。そして、見た目の良い服というのは金がかかる。服というのは、己の財力を誇示する物なのかもしれない。


「古着屋に安くて良いのがあればいいんだけど」


「そうだねー」


 アリア達は着替え終わると、ベットに腰掛けおしゃべりし始める。まだ、眠るつもりは無さそうだ。





「わたくし、皆さんに話したいことがありますの」


 話が一段落した時、おもむろにヒルダが切り出した。その顔は迷いを振り切り、決意に満ちた顔をしていた。


「わたくしの夢は御家の再興です。そのために、わたくしはハンターになろうと思っています」


「「ハンター!?」」


「その…危険ではないですか?それに、貴族の方は平民よりも良い就職先が斡旋されると聞いています。そちらではいけませんか?」


「危険は覚悟の上です。就職先の斡旋ですが、良いところは高位の貴族から埋まっていきますもの。わたくしの場合は平民と変わりませんわ。それに就職したとしても、その先の出世は家の権力とコネがものをいいます。わたくしにはどちらも無いものです。でしたら、実力主義のハンターになって、高名なハンターを目指した方が良いのではないかと考えました。様々な害獣が蔓延るこんな世の中ですもの、強いというのは、それだけで長所になります。高名なハンターに授爵が許された例もありますもの。目指す意味はありますわ」


 ヒルダの顔が、不安そうなものに変わる。


「それで、ここからが話の本題なのですけど…皆さんには、わたくしを手伝っていただきたいのです」


「私達もハンターに?」


「はい。わたくし達は魔導士です。攻撃能力と柔軟性がありますわ。それに、キースの偵察能力、イノリスの戦闘能力、クロムの補給能力。どれも強力です。どうか、わたくしを助けてくださいませんか?どうか、お願いいたします」


 ヒルダが深く頭を下げる。残る三人は顔を見合わせて悩んでいるように見えた。三人を代表してレイラが口を開く。


「どうか、頭を上げてくださいヒルダ様。それではお話もできません」


 漸くヒルダが頭を上げる。その顔は不安そうな顔だった。


「いきなりのお話で、私達三人とも戸惑っているのが本音です。どうか、考える時間をいただけませんか?」


「そうですわね。いきなり、こんな話…ごめんなさいね。わたくし達はまだ一年生、卒業までは時間があります。ハンターという道について、考えていただけると有り難いですわ」


 暫し沈黙が部屋を支配する。ヒルダは悲しそうな、残る三人は難しそうな表情だ。我にはハンターというものがよく分からないが、ヒルダの申し出はそんなに難しいものだったのだろうか?


「わたくしが話し始めた事ですけど、困らせてしまってごめんなさいね。ハンターになる、ならないは別にして、これからも仲良くしていただけると有り難いですわ。せっかく仲良くなれたんですもの」


「そうですね。私達もヒルダ様と距離が縮まって嬉しいです。先程のお話、私達を信頼して話してくださったんですよね。ありがとうございます」


「私もヒルダ様のこと好きよ。お貴族様なのに、偉ぶらないし、優しいもの」


「あたしも好き!」


「皆さん…ありがとう、ございます」


 ヒルダがうつむくしまう。目元を拭っているということは泣いているのか?服の袖で目元をこすり、ヒルダが顔を上げる。ヒルダの青い瞳が潤んでいた。


「はぁ。皆さんにはわたくしの情けない姿ばかり見せてしまいますね。こんなわたくしですが、これからもどうか、よろしくお願いします」


「あたしも、口の利き方とかよく分かんないけど、よろしくお願いします!」


「私だって礼儀とかよく分からないけど、これからもよろしくお願いします」


「私も皆と仲良くしたいです。これからもよろしくお願いいたします」


 アリア達が頭を下げ合っている。そして顔を上げ、お互いの顔を見ると微笑み合った。なんだか和やかな雰囲気だ。今日は雰囲気がコロコロ変わるな。賑やかだったり、沈んだり、浮いたり、忙しない。うぐー。我は一度伸びをすると、丸くなり目を瞑った。

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