第46話 曲者揃いの初配信② #キャラのギャップがすごいんじゃ…

 今日は二人目の初配信日だ。

 ぶっちゃけこいつが一番キャラ濃い。ある意味。

 おっと、それはない、って電波がどこからか飛んできたな。

 いやぁ、でも、変態なら俺が勝つけど変人なら負ける可能性が高い。


 だって、面接なのに一言も喋らないとは思ってもいないじゃん?

 いきなり持ってたパソコンに文字映して見せてくるし。喋れないとか、そういう障害を持ってるわけでなく、喋るカロリーが勿体ないというクソみたいな理由である。せめて面接はカロリー使おうよ。


「全く配信向けじゃない性格だけど、喋らないでもやれることはやれるし、奈瀬ほど心配していないけど……」


 公開された設定を見て俺はため息を吐く。

 奈瀬よりはマシだけど。


「凄腕の元スナイパー。今は貯めたお金で贅沢暮らし中。無気力で日常は壊滅的だがゲームの時だけは真面目になる」


 普段から真面目でいてくれないですかね。せめて普通に喋れる程度に。まあ、そこは治っても治らなくても成果が出せれば良いんだけどさ。

 世の中には吃音症とかあるし、そこはフォローするしかない。病気を仕方ないって、第三者が言うのは間違ってるからさり気なく理解して行動するのが大事なのである。


 なんであいつが喋れないのかは知らんけど。

 ただのコミュ症なのか精神的なあれなのか。深く突っ込んでもお互いに利益はない。

 それにゲームをしてる間だけは喋れるらしいから、それならまあ良いか、となった。


「必要な人材ではあるから何とも言えんな」


 ちなみにこいつの面接の第一声、もといパソコンに書かれた文章は何だと思う?


『志望理由〜実績を添えて〜』

 というパワーポイントのタイトルである。


 目を疑ったわ。

 自分をアピールすんのは全然良いんだけど一瞬こいつふざけてんのか、って思ったわ。本人、すごい真面目な表情だったから考えた結果こうなったんだと思うが。


「斬新で面白かったから良いけどね! 結果良ければ全てよし、の典型的例だったわ」


 再三口にしている通り、奴こと針生はりゅう奈々ななはゲームの腕がプロ級なのである。

 特徴は圧倒的プレイヤースキルと、人に魅せることを大前提とした必然的なスーパープレイ。


 凄まじいとしか言いようがなかった。

 奈瀬とは別方向にぶっ飛んだ技術だ。才能もあるだろうが、目には見えない血の滲むような努力をしたとハッキリ分かった。

 

 だから俺は針生奈々を採用したのだ。


 

☆☆☆


 針生のVtuberとしての名前は『スナイプ』。


 もちろん、ネット用語の付け狙うスナイプではなく、本来の意味でのスナイプである。一番得意としているゲームがFPSであることと、Vtuberとしての設定が上手く噛み合ったベストネームだ。

 ひやひやとは違う。


 そんな針生の初配信では、昨日の奈瀬の配信が良かったため、針生の配信も期待されているらしく、昨日を超えるリスナーが押し掛けコメント欄を賑わせている。

 上手くバトンを繋げられたようだな。


ーー

『黒樹、選定眼だけは認めてやっても良いな』

『昨日も良かったし、二人目の一期生も期待』

『ひやひや、もう登録者10万超えてるのか。すごいな』

『まあ、あの歌があればそれくらいは行くでしょ』

ーー


「奈瀬は一般層も上手く取り込めれば五十万は半年以内に到達しそうだな。さんじかいも上手く宣伝してくれるらしいし、取り込む導線はある。後は本人たち次第だけど、上手くやるだろ」

 

 唯一心配なのはアンチコメントと炎上だ。

 二人とも極度にメンタルが強いように見えないし、奈瀬はまだ学生だ。

 受験期だし精神的にもナイーブになりやすい。そんな時にアンチや炎上で再起不能に陥ることは絶対に避けたい。


「そこは大人の俺とかコロンとかの仕事だな」


 ……っと、始まるな。


 現れたアバターは、片眼鏡に耳にかかる程度の黒髪。黒装束の外套を羽織った、可愛いより格好良いを追求した装いだった。

 非常に良き。



 そしてアバターが現れ一分が経過し、画面にデカデカと文字が映し出された。


【スナイプ。よろしく。ゲーム中以外は喋らず文字で会話する。よって、雑談配信は行わない。とりあえず見て】


 そんなリスナー困惑一色のまま、ゲーム画面に切り替わる。

 自己紹介はゲームで、ってか。

 なんか変な奴ばっか集まってるなぁ(すっとぼけ)。


ーー

『えぇ……w』

『これはまたキャラが濃い……』

『歌のひやひや。ゲームのスナイプって感じ? 各ジャンルのエキスパートを採用したんかな』

『でも今時FPSのプロゲーマーなんて腐るほどいるし、普通に上手いプレイを見せられてもな』

『一先ず様子見か』

ーー


 若干受け入れ難いという感触だ。

 まあ、無理もない。喋るのが仕事である配信者だ。武器を捨て丸腰で挑むようなものだからな。

 とは言え、ゲーム中は喋るようだし完全に放棄してるわけではないと思うが。


 俺は実績とその裏取りしか見ていないから、どんな感じで喋るのかは知らない。腕前は見たから知ってるけど、コロンなら全て把握してるんじゃないだろうか。

 そこら辺全部丸投げだから分からん。本当に使えねぇ社長だわ。



 そして次の瞬間、俺含むリスナー全員に驚愕を与えることになる。

 

 スタートボタンが押され、ゲームが始まる。



「ふおおおおぉぉ!! 始まるぜおめぇら! ガンガン銃声鳴らしていこうぜ! 俺の名はスナイプ! 魅せていくぜプレイスタイル!」


「ふぁ!?」


ーー

『!?!?!?』

『!?!?!?』

『別人に変わりました!?』

『そういうタイプか!?』 

『なんでちょっとラップ風味なんだよw』

ーー


 アバターの見た目相応な格好良い声と、気の抜ける発言が同時に聴こえる。動揺と困惑一色である。

 

「いや、君キャラ変わりすぎでしょうよ……。元々パソコンの文字でしか見てないからキャラは知らんけどさ。……あぁ、あのパワーポイント作ってきた理由が分かったわ」


 私生活でその感情を面に出すことが苦手なのだろう。唯一解放できる時がゲームをしている最中。そうやって縛りを自分で追加することで短い時間ながら我を出しているに違いない。

 条件付きの必殺技扱いしないでぇ?


「やっていくぜ。このゲームは、鉛玉をぶち込んだ部位によって貰える点数が違うんだ。大まかに頭、土手っ腹、四肢。そして股間だぜ! ぶっはっはっは!!!」


ーー

『鉛玉言うなしw』

『自分でツボってるwww』

『どことなく狂気を感じるわ』

『普段のテンションが黒樹並みにやべぇ』

『言動のスナイプ。行動の黒樹か……2代双璧の誕生だなw』

ーー


 さすがにこれを俺と一緒にするのはやめてくれよ。

 ここまでテンショントチ狂ってないって。


「基本的に配信では魅せプをするんでね。今回は右腕、左足、右足、左腕の順番で撃っていく縛りにするぜ。使う武器はスナパ……じゃ簡単だから……んー、アサルトライフルで良いか! もちろんフルオート無しの一発ずつ当てるぜ」


ーー

『え、無理だろ。このゲームってリアルさを追求したあたおか難易度のFPSだろ?』

『スキルとか特殊能力無しの完全PSが要求されるやつやな』

『超至近距離でやってもすぐに死ぬやろwww』

『縛りが雁字搦めで草』

ーー


「……まあ、そうなるよな」


 無理だろ、というコメントが押し寄せる中、針生はりゅうはムキになることなく淡々とゲームのマッチを始めた。

 このゲーム……RW(リアル・ウォー)は、銃弾一つ当てるのも初心者がままならない程に難しいゲームだ。

 重さによっての速度低下はゲームによってよくあるが、面倒なのが跳弾とリコイルショック。死ぬほどパソコンの要求スペックが高い代わりに、独自の計算方式で全てがリアルに追求されている。

 リコイルショックってのは、撃った時の反動ね。俺も詳しくは知らん。


 

「ゲームで跳弾を計算すんのはあたまおかしいだろ」


 とまあ、鬼畜難易度になっており、特定部位を順番まで決めて狙い撃つなど正気の沙汰じゃない。相手も動いているし、狙撃銃スナイパーライフルじゃない、アサルトライフルと呼ばれる全自動小銃である。

 一応引き金を小タップで一発ずつ弾丸を出せる仕様のようだが。


「案ずるより産むが易し! 慣れれば意外に簡単だぜ」


 ゲームが始まった。

 フィールド内の敵と得点ポイントで争うバトルロイヤル。

 一定ダメージを負うとダウンし動けなくなるが、3分程度で回復しまたバトルに参戦することができる。試合時間は20分だからなかなか3分は痛いね。


 針生は鼻歌を歌いながらキャラを操作させる。

 

「お、一人目はっけーん。ほれ、それ、これ、ひょーい」


 

ーー

『は?』

『( ゚д゚) ...(つд⊂)ゴシゴシ (;゚д゚) ...』

『見間違いじゃなかったら、掛け声とともに宣言通りの部位を撃った気がするんだが……?』

『いやいやいやいや、あり得ないって』

『FPSのトッププロでも手こずるゲームだぞ!?』

『タイミングがシビアすぎて外国圏の人も匙を投げてるのに……』

『絶技なんかじゃねぇ、神技だ』

ーー


「相変わらず頭おかしいな……」


 コメントの通り、ほれ、それ、これ、ひょーい、の掛け声で4発の銃声が鳴る。

 距離はアサルトライフルの飛距離ギリギリ。

 スコープも使わず特定部位を撃ち抜きやがった。


「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛、気持ちい゛い゛。やっぱ縛りプレイって最高だぜ!」


ーー

『声よw』

『神技披露したとは思えねぇ発言とのギャップ』

『ドMかw』

ーー


「……あれ、この事務所で一番実力低いのって俺では……? 足手纏い説出てきたぞこれ」


 誇れるもんが下ネタと性別しかねぇ……!!

 終わった……! 後輩に負ける。



「あー、あっさり条件達成できたしつまんない。今回は自己紹介配信だからあんまりやんないけど、次からはリスナーのリクエスト通りの縛りでプレイしたりするぜ! 何でもやってやるぜ!」


ーー

『マジか』

『目隠しプレイとか』

『それは別のプレイやろwww』

『この神技クオリティが毎回の配信で見れるのか……』

『これ、一期生、黒樹の完全上位互換説出てきたぞw』

ーー


 やめろ言うな。 

 本人自覚の上でなんだ。これ以上傷口を抉らんといて。


 所々俺と比べられながら、針生ことスナイプの初配信は大成功を収めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次回久しぶりの掲示板回

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