第25話 【閑話】広がり始める噂と黒い影(笑)
「ねー、
「Vtuber?」
放課後、突然親友から話を振られた私は耳慣れない単語に首を傾げる。
「そう! バーチャルyoituber。略してVtuber。仮想空間で配信をするコンテンツだよ」
「へぇ」
「へぇ、って、もうちょっと興味を持ってよね」
実際興味はない。
高校三年生でもう受験だし、今更新しいことを始める気はないのだ。ただでさえ志望校は偏差値が高い。
親友の学力は不安でしかないが、こちらも沼に引きずり込んでやる、という道連れ精神に私を巻き込むのは勘弁してほしい。
茶髪のボブをくるくる手で弄びながら、親友は拗ねたように顔を背けた。
「そんなことより。私と同じ大学行きたいなら勉強が第一よ。Vtuberだか何だか知らないけど、そうやって遊び呆けてばっかりいると────」
また説教が始まったよ、と耳を押さえながらうへぇ、と呻いた親友が突如ニヤけて言う。
「そのVtuberが性別バレして男だってわかったんだよね」
「──今すぐその情報を教えなさい」
なに、男だって?
「相変わらずむっつりだよねぇ」
「
これは本能だ。欲などという俗なものではないのだ。
男の情報はどんなことでも見逃さない。それは全員が全員にインストールされた使命で、赤子だって老婆だって例外じゃない。
私は例え神様に、男に会いたいなら糞を食えと言われても満面の笑みで食う。食い散らかす。はい、満足ですか、と悪臭漂わせながら言ってやるわ!!
呆れたようにかぶりを振る親友を『あなたも同じでしょ』という意味を込めたジト目で見る。
なにせ、この馬鹿と仲良くなれた理由が猥談なのだ。
当時高校一年生で、地元からの知り合いがいなかった私。同じ境遇の親友も頼りなさげに右往左往としていた。
そんな時、私がふと口に出してしまった『男と一発ヤりたい』という言葉が親友に聞かれたことが始まりだ。
いや、恥まりとも言う。我ながらなんてことをしたんだ、と未だにちょっと後悔している。
そんなアホみたいな理由で仲良くなった経緯があるからこそ、私だけがむっつりと判定されるのは気に食わない。
「で、どういうことなの? その情報は正しいの? どんな見た目? 声は? 筋肉質? 性格は? 住所は? ちんちんは大きいのかしら?」
「最後に欲望出すぎだよぉ」
うるさい、一番重要でしょう。
「第一、顔を出さないコンテンツなのでしょう? 本当にその情報は正しいの? また女でした、って期待して裏切られるのは嫌よ」
「専用の解析班とか、有名な暴露系Vtuberが確たる証拠とともに発表したから、信憑性としては十分だと思うよ。まだ半信半疑の人が多いけど、時間が経てば本当だって分かると思う」
なるほどね。
画像解析班はどこのコンテンツにもいるのが通例だ。技術力の無駄遣いと評されている彼女らの言うことなら間違いないだろう。
……でも、身近に会うのは不可能に近いわ。話を聞く限り個人情報は徹底して守ってるらしいし、もしバレても私が知る頃には無惨に食い散らかされているだろうから(性的)。
「まあ、一応名前だけ聞いておくわ」
「黒樹ハル、っていうVtuberだよ」
「了解。勉強の時間を見直す必要があるみたいね」
「名前だけじゃないじゃん……」
☆☆☆
「男?」
「はい。確かな筋からの情報です」
「ふぅん。女を下に見ないで、サブカル界隈に進出している、と。にわかには信じ難い情報だ。……だが、これが真実ならば我らの悲願が叶うというもの」
「ええ……我ら【まじかるおてぃんてぃん教団】の悲願が」
☆☆☆
ーーー
【トレンド】
1.Tnitter買収(169,389件)
2.ウーロン・マスク(149,696件)
3.イスラ社(79,359件)
4.男性Vtuber(45,454件)
5.下ネタコロン(29,810件)
6.黒樹ハル(19,195件)
……
ーーー
『Vtuberってなに?』
『男性Vtuber!? マジ!?』
『Tnitter買収ヤバくね』
『黒樹ハルって誰だよ』
『コロン、下ネタ解禁? あんなに嫌ってたのに?』
『男性とか絶対嘘ですwww』
『知らないけど見てみようかな』
『てぃんてぃん!!』
『いや、草』
『黒樹がトレンド入りしてるwwwwww』
ーーー
黒樹ハル
Tnitterフォロワー
フォロー 3 フォロワー 161,981
【最新の投稿】
『てぃんてぃん!!』
リプライ1369 RT36,954 いいね154,545
チャンネル登録者数 235,689
ーーー
Side ???
今日は優雅な朝です。
鳥の鳴き声(yoitube)で目覚め、お気に入りのお洋服(ジャージ)を身に纏い、最近頂いたハーブティー(烏龍茶)をカップに注いで飲む。
「実に素晴らしい朝です。こんな日にはお気に入りのエロ漫画を読むが吉ですね。……いえ、配信がありました」
朝っぱらからですが、まあ良いでしょう。
パソコンを起動させ、配信の諸々の準備をテキパキ進めます。事前情報無しのゲリラ配信です。たまに、というか8割はゲリラなので、きっと敬虔な信徒さまたちは許してくださるでしょう。
なぜか信徒さまたちには、【変態】と謂れのないあだ名で呼ばれていますが、私はただ自分の想いを偽らずに話しているだけなのです。
嘘はいけません。何事も素直でいなければ、神は赦しを与えてはくれないでしょう。
「さて、準備が整いました。シスター・アリア。参ります」
ーー
『今日は朝早いな……』
『来たぞクソ変態』
『変態、早く喋れ』
ーー
「あらあら皆様。そんな乱暴なことを口にしてはいけません。さんじかい、所属のシスター・アリアです。今日は朝早くから集まっていただきありがとうございます」
ーー
『そういえばシスター・アリアって名前だっけか』
『草』
『さんじかいの汚点じゃん』
ーー
あぁ、いけません。そんな乱暴なことを……!!
ナニがとは言いませんが興奮するじゃありませんか。
「今日の配信は最近読んだエロ漫画の紹介です。皆様方の性癖に合わせて幾つか見繕ってきたので、ぜひ今日にでもすぐ賢者になりしょう」
ーー
『こいつwww』
『いつも通りで草』
『地味に助かるのが腹立つ』
『万年発情期が……』
ーー
「あ、その前にちょっとお話があるのですが。なにやら男性Vtuberが現れたとか。現れたとか!!!!!」
ーー
『耳痛い』
『黙れメス豚』
『耳聡いなwww』
『まじで本当らしくてビビった』
ーー
そうです。
冷静さが売りの私も、トレンドを見て驚きました。
そして、調べると真実だとか。お陰で昨日は捗りました。
「ぜひコラボしてみたいものですね。お相手の方の配信はまだ拝見できていないのですが……」
ーー
『やめろと言いたいが、貴様と限りなく同類なんだよ』
『気が合いそうで怖い』
『カオスになるからやめろwww』
ーー
「あらあらまあまあたまたま!!」
ーー
『おいw』
『さり気なく混ぜるな』
『黙れ』
ーー
ご同類ということは、きっとその方も自分を偽らずにありのままでリスナーの方と接しておられるのでしょうね。
なんと素敵なことですか。
聞けば聞くほどコラボしてみたいという気持ちが湧き上がります。
事務所の許可が下り次第動きましょうか。
「では今日も早速紹介を──」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
危ない……本当に存在するVtuberの名前を使うところだった……(超速修正)
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